「春よ恋」は国産小麦の中でも扱いやすいって聞いたのに…
ぜんぜん生地も出来ないし膨らまないんだけど!?
実は、同じ「春よ恋」として売られている粉であっても、メーカーによってその特徴は大きく異なります。
近年スーパーでも春よ恋を見かけるようになったためより身近な品種となっている印象がありますが、その実態については十分に理解が広まっていないのが現実。
今回は異なる5種類の春よ恋でパンを作り比べて、その結果を解説します。
実験で使用した5種類の粉について
Amazon 「春よ恋100%」
Amazonのプライベートブランドとして発売されている春よ恋です。
といってもAmazonがこの商品を作っているわけでは無く、「加工元 パイオニア企画」と書いてあります。
パイオニア企画は様々な成果製パン材料を取り扱っている会社ですが、以前からパイオニア企画の春よ恋(本製品とは別のもの)はAmazonで取り扱っていました。
最近になってAmazonがパイオニア企画にOEMを依頼したのでしょう。
たんぱく質量は11.8%、カメリヤなどの北米産強力粉に近い数値です。
富澤商店 「春よ恋」
こちらは富澤商店の春よ恋で、通常価格の商品とは別にお買い得品があったので今回はそちらを購入して使用しました。
以前から富澤商店の春よ恋は何度か使用したことがあり、北米産強力粉に比べたら吸水はやや低いながらも非常に近しい生地感で扱いやすい粉だという印象がありましたが、今回はどうでしょうか?
これで去年使った時と感触が違った場合、同じメーカーであってもロットや年度によってその性質は変わるということになります。
たんぱく質量は11.2%と、北米産強力粉に比べてやや低い数値ではありますが、実際どんな生地感になるでしょうか?
【お買い得品】春よ恋 / 2.5kgcotta 「春よ恋100%」
こちらはcottaの春よ恋です。
ページにはたんぱく質量は12%と記載されていますが、パッケージの成分表示には基準範囲値とそのロットにおける実測値が記載されており、今回使ったものは確か11.8%…だった気がします。
(数値を控える前に包装を捨ててしまい曖昧です。ご容赦ください。)
春よ恋100% 北海道産強力粉 cotta 2.5kgcotta 「春よ恋100% TS」
こちらもcottaの春よ恋ですが、異なる製粉所で製粉された粉が封入されたロットで「TS」と品番が分けられています。
セール品となっており、通常品よりも製造時期も古いのかと予測していますが、詳しいことは公表されていません。
たんぱく質量は11.8%。
春よ恋100% 北海道産強力粉 cotta 2.5kg TS日清製粉ウェルナ 「春よ恋100%」
近年スーパーでも見かけるようになった日清製粉ウェルナから発売されている春よ恋です。
こちらのたんぱく質量は11.2%、富澤商店の春よ恋と同じ数値です。
生地感の違い
今回の比較実験において、大きな違和感を覚えました。
それは、富澤商店の春よ恋が明らかに去年使った粉と比べて生地感が違い過ぎる点です。
去年は富澤商店とパイオニア企画の粉で比較したのですが(下の動画)、その時の生地感は伸展性に優れており北米産強力粉と遜色ない使い心地でした(吸水力はやや劣っていましたが)。
しかし、今年の粉は弾力は強いけれど伸びが著しく悪く、グルテンチェックで薄く滑らかな膜が出来ずにすぐに破れてしまいます。
そして、その特徴は他のメーカーの春よ恋でも共通していました。
吸水量は調整して68~70%で落ち着きましたが、それでも生地は硬めな印象です。
かといって、それ以上増やすとベタつきが過剰になりそうな…
捏ねている最中の体感的にはグルテンが全く発達していないわけではないのですが、膜を作ろうとするとすぐ破れる。
メーカーごとにそれぞれ微妙な差はありましたが、それ以上の問題です。
しいて言えば日清の粉が一番滑らかさが出たけど…
団栗の背比べ程度の差です。
今年の春よ恋、なぜ膨らまない?
公表はされていないので予測になりますが、栽培上のイレギュラーによって広い範囲で春よ恋の成分状態が変化してしまったのではないかと考えています。
特に僕が有力視しているのがグルテンの元となるたんぱく質の組成割合です。
グルテンは2種類のたんぱく質「グルテニン」「グリアジン」が水と合わさって形成されます。
グルテニンは弾性、グリアジンは粘性を持つのですが、その二つの性質が合わさって粘弾性を持つのがグルテンというわけです。
弾性は生地の弾力や丈夫さに起因し、粘性は生地の伸びや粘りに起因します。
ということは、もしグルテニン割合が普段より過剰になると、粘性による伸びが劣り硬い弾力を感じる生地になってもおかしくありません。
実際、捏ねている最中の手の感覚としては、グルテン発達が進んでいる感触は確かに感じられたので、グルテン系たんぱくが全く含まれていないというわけでは無いはずです。
あるいはグルテン系たんぱく質以外のたんぱく質(グロブリンなど)の成分比も異なっているかもしれません。
焼き上がりの比較
グルテンチェックの様子からは焼き上がりに不安がありましたが、実際に作り進めてみるとしっかりとガス保持をする生地になり、問題なく焼きあがりました。
生地がマシだった日清の生地だけ、他より若干ボリュームが出てキメも細かく焼きあがりました。
それぞれ香りや味の差はほとんどありませんが、唯一「なんか違うな」と感じたのがcottaのTSです。
やや古い粉を使った時のような、若干の香ばしさの弱さを感じました。
ホームベーカリーで使うと全然膨らまない
以上の実験は手ごねなので生地の状態に応じた調整が出来ました。
一次発酵も「90P30」つまりパンチを一回行ったので、弱いグルテン組織を多少は強化できました。
しかし、ホームベーカリーで今回の粉を使うとかなり膨らみが悪くなる傾向があるようです。
自動モードだとプログラムされた通りに工程が進む上に、捏ねの力加減なども一定ですから、今回のようにイレギュラーな性質の粉でのパン作りには対応しづらいからです。
業務用縦型ミキサーのように力強い馬力のあるミキサーで捏ねたらもしかしたらそれなりの生地が出来るかもしれませんが、手ごねやホームベーカリー等の家庭製パンでは普段のような生地を作ることはまず不可能でしょう。
それでも、薄膜グルテンが出来ないからといって不味いパンになるわけではありません。
その性質が最も活きる方向でのパン作りが出来れば、粉の短所が長所にもなり得る可能性を秘めています。
吸水量、イースト量や発酵の調整、作るパンの品目を変える等…
模索すれば最適な使い道が見つかるはずです。
何も考えなくても良い使い道としては湯種が最適でしょう。
なぜだかわかりますか…?
品質のブレに対応する自信が無い人へ…【オススメの粉】
そもそも小麦は農作物なので、例え同じ農家さんが作っても毎回全く同じ小麦が採れることはあり得ません。
皆さんがよく使っている「カメリヤ」などの外国産強力粉は、カナダやアメリカの多数の小麦をブレンドして作られており、そのブレンド比率も状態に応じて調整されています。
ブレンド調整をするからこそ、どれか一つの品種に品質のブレがあっても他でカバーできるのです。
こうした背景があるからこそ、外国産強力粉はいつ買ってもほぼ同じ配合で安定したパン作りが出来るのです。
一方で今回のように「春よ恋 100%」は、春よ恋という一つの品種のみで製粉(ロング挽き)されているため、この品種のブレがダイレクトに現れてしまうのです。
品種の個性が最大限に表現できるメリットの反面、ブレへの対応力が求められるということですね。
それこそ今回のようにブレがあまりに大きいと、もはや全く別物と言っても過言ではないです。
国産小麦ってやっぱり私にはハードルが高いのかな…
自信が無い人にオススメするのが「ブレンド系国産小麦」です!
国産小麦のなかでも、様々な品種をブレンドして作られている商品もあります。
それなら外国産と同様に品質の調整がなされているため、品質のブレ率はだいぶ小さいはずです。
はるゆたかブレンドやゆめちからブレンドなど「〇〇ブレンド」と名の付くものや、「とみざわからの贈り物」のように一見どの品種なのかよくわからないものは大体ブレンド系です。
春よ恋ブレンドだと、メインの春よ恋に大きな問題が生じるとブレンド比率だけでは調整しきれない恐れもありますが、メイン品種を謳っていない粉ならそういった問題にも対処しやすいので使う側からしたら品質が安定して使いやすいかと思います。