パン作りにおける油脂の役割とは?バターやショートニングなど種類で異なる効果を徹底解説!

油脂の役割

油脂を使わないでパンを作りたいんだけど
何か支障はあるのかな?

多くのパンレシピにはバターやショートニングなどの油脂が使われていますが、フランスパンのように油脂が一切入らないものもあります。

そのため、油脂が無くてもパンは問題なく作れるよう見えますが、生地感や焼き上がりに様々な影響が出ることを視野に入れておく必要があります。

この記事では、パン作りで油脂がどのような役割を果たしているのか解説します。

この記事で学べる事
  • 油脂の違いによる生地感と焼き上がりの変化
  • 油脂を使うことによるメリット・デメリット
  • レシピの油脂量や種類を変える際の配合調整方法

読者・視聴者様の声

Mさん
Mさん

ヘルシーな液体油で作るときの
レシピの調整方法や注意点がわかりました!

Yさん
Yさん

使う油脂量の少ないパンでも
あるのと無いのではかなり違うことに驚き!

パン作りにおける油脂の役割

バター

パンを作る上での必須材料ではない油脂ですが、ソフト系のパンには必ずと言っていいほど使われており、その効果は大きく目立ちます。

使用する油脂の種類によってその特徴に差はありますが、ここではあらゆる油脂において共通の役割を見てきましょう!

パンの老化防止

油脂がパンに与える影響で一番わかりやすいのが老化防止です。

老化とは、焼きあがったパンから水分が飛んでパサついてしまう現象のことです。

油脂を生地に均一に練り込むことで、生地のグルテン膜には薄い油膜コーティングがなされ、それがパンの保湿に繋がります。

お肌のケアでオイルを塗って
保湿するのと一緒だね!

フレーバーの付与

油脂の香りはパンの中でとても目立ちます。

無臭の油脂もありますが、風味のある油脂を使うとパンの印象を大きく変えることができます。

製パン性の向上

伸びの良い生地

油脂を生地に練りこむと、伸びの良い生地になると同時にベタつきも軽減されるため、扱いやすい生地になります。

油脂はグルテンの繊維構造の周辺に分子レベルで纏わりつき、潤滑剤のような役割を果たします。

これによって、生地を伸ばすときに繊維構造の引っ掛かりが少なくなることで生地が伸びやすくなります。

歯切れを良くする

油脂の分子はグルテン構造の間に入り込むことで、グルテン結合を程よく阻害します。

それによってパンは歯切れが良くなります。

油脂が多い場合のデメリット

パン作りで多くのメリットを与える油脂ですが、多過ぎることによる弊害もあります。

油脂を多く配合した際に現れるデメリットについてそれぞれ見ていきましょう。

生地コシの弱化

適量の油脂であれば生地の伸展性を向上することでパンのボリュームアップに貢献できますが、多量の油脂使用ではグルテンの結合が阻害され、生地のコシが弱化しボリュームダウンに繋がります。

油脂を多く配合する場合、比例して卵の量も多くすることでボリュームを補完することができます。

発酵温度の限定

固形油脂にはそれぞれ異なる融点があります。

特にバターは32℃以上で溶け始めるため、バターの配合量が多い生地を32℃以上の環境に置いておくと、生地内のバターが溶け出してしまいます。

一度溶け出した生地は完成品の口当たりが悪化します。

38℃でOK!
32℃-5℃=27℃での発酵が理想!

バター20%配合のバターロールなら38℃の発酵環境で最終発酵させても問題ない傾向にありますが、ブリオッシュのように30%以上ものバターを使う場合は発酵環境を高くても31℃以下、できれば融点マイナス5℃の27℃に調整するのが安全です。

食感のクチャつき

油脂が多すぎるパンは、クラム(中身)の食感がクチャつく傾向にあります。

これは油脂の保湿効果によるものと、グルテンの繋がりを悪くすることで網目構造が粗くなり、クラムの気泡膜が分厚くなってしまうことなどが原因です。

油脂が多いパンは比例して卵も多い配合であることが一般的です。

卵の卵白には油脂のデメリットを補う効果がたくさん詰まっています。詳しくはコチラをご覧ください。

使われる主な油脂の種類

パン作りで使用される油脂には大きく分けると2つのタイプ「固形油脂」と「液体油脂」があります。

その上、同じ固形油脂であってもその種類によって得られる効果も異なります。

ここではパン作りで主に使用される油脂の種類について、それぞれ解説します。

バター

バター

パンのレシピでは最もよく見られる油脂がバターです。

バターで得られる濃厚なフレーバーは他では代えがたく、食欲をそそる甘い香りを付与します。

基本的には無塩バターを使うことが推奨されていますが、実際のところ有塩バターで作ることも可能です。

その際は有塩バターに含まれる塩分量を計算し、使う食塩の量はその分を差し引く必要があります。

ショートニング

ショートニング

バターの次によく見られる油脂です。

ショートニングは無味無臭のため、油脂の効果を得ながらも粉の風味を際立たせることが出来ます。

また、バターとショートニングをブレンドして使うことで、得られるフレーバーと油脂効果を細かく調整する手法は頻繁に用いられます。

水分が15%ほど含まれているバターと違ってショートニングは水分ゼロのため、油脂として非常に使いやすいのも利点です。

マーガリン

マーガリン

製パン業界では高価なバターの代わりによく用いられる油脂です。

バター以上に様々な香りのマーガリンが開発されているため、フレーバーの選択肢が広いことが大きな特徴です。

ナオキパン
ナオキパン

バターらしい香り、チーズっぽさのある香り、控えめな香り…
中にはカスタード風味など変わり種もたくさん!

業務用では食塩不使用タイプも簡単に入手できますが、家庭用で販売されているものだとケーキマーガリンくらいで他はほとんど有塩です。

使う際はマーガリンに含まれる塩分量を使う食塩から差し引く必要があります。

ラード

ラード

バターのようなミルクフレーバーは付与せずに、コクだけ与えたい場合に使われることが多いのがラードです。

ベーカリーでバターとラードをブレンドして風味とコクを上手く調整して使われているレシピをよく見ます。

少量であれば無味無臭のように感じますが、10%以上使うとラードのクセが目立つのか少々不快な風味に感じられます。

ショートニングのような正真正銘の無味無臭ではないようです。

サラダ油

無味無臭の液体油として最も多く用いられているのがサラダ油です。

粉の風味を際立たせつつも液体油としての効果を得たい時に使うと効果的です。

オリーブオイル

ピザ生地やフォカッチャなど、主にイタリアのパンでよく使われています。

オリーブオイル単体では結構香りが強く感じられますが、生地に練り込むとそこまで主張してこないため、イタリア系のパン以外でも活用しやすいです。

練り込み以外にもハード系パンのツヤ出しとして表面に塗られたり、トッピングにもオススメです。

こめ油

サラダ油同様に無味無臭の液体油ですが、抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれているため、健康志向で使われるレシピも多いです。

油自体が酸化にかなり強く、保存中に不快な酸化臭が増すことはほとんどないため常備しやすいのが大きなメリットです。

サラダ油より少し高価にはなりますが、レシピ調整も無く完全な代用が可能です

ナオキパン
ナオキパン

僕は普段の料理や揚げ物で米油を使っています!
油臭さが全く出ないのでオススメです。

固形油脂と液体油脂、生地はどう変わる?

固形と液体ではパン作りに使用した際の生地感への影響は大きく異なります。

固形油脂

  • 生地の繋がりは良い
  • 吸水は大きく減らない
  • ボリュームあるパンに出来る
  • 引きの強いパンも作れる

液体油脂

  • 生地の繋がりが悪い
  • 吸水は大きく減る
  • ボリュームはダウンしがち
  • 歯切れは良くなる

たとえ同じタイミングで油脂を加えた場合であっても液体油脂は生地の繋がりが悪くなるため、ガス保持力が低下することで完成品はボリュームダウンしふわふわ感では劣ってしまいます。

その代わり歯切れの良さは向上するため、上に大きく膨らむ必要が無く食べやすさ重視のパンで使われることが多いです。(ピザやフォカッチャなど)

また、固形油脂は生地の中でも固形としての特性「可塑性」を保って存在していますが、液体油脂は元から保形性がないため固形と比べて生地がかなり緩みます。

そのため固形油脂よりもレシピの水分量を減らして作る必要があります。

水はどのくらい減らせば良いの?

ナオキパン
ナオキパン

目安は「液体油脂と同じ量だけ減らす」だけど場合によるからその都度調整してくださいね

油脂を無くして作るとパンはどうなる?

油脂が6%使われているレシピを

油脂無しにアレンジしたいんだけど…どうなるの?

  • 生地表面のベタつきが増す
  • 伸展性が低下する
  • 引きの強い食感になる(歯切れが悪くなる)
  • 老化耐性が低下する

これは油脂を6%使うはずの基本的な食パンレシピの場合でも体感できる変化です。

たったの6%の油脂を抜いただけでも、特に食感の変化はかなり目立ちます

引きが強い状態を「モチモチ感」と捉える人もいますが、ここでは「ムチっと感」と呼ぶことにします。

ムチっと感の強いパンは歯応えのある食感なので、人によっては油脂無しの方が好きだと言う人はいるでしょう。

ぜひ一度、油脂アリの通常の食パンと油脂無しの食パンを作り比べてみてください。

油脂がパンの食感にどれだけ大きな影響を与えているのか実感できます。

油脂の種類や量をアレンジしたい!配合の調整方法

油脂の変更は、パンの個性を大きく変えることができる手段の一つです。

ここではレシピアレンジで油脂を変える際の調整方法を、パターン別に見ていきましょう!

無塩バターの代わりに有塩バターを使う

有塩バターの方が安いし料理にも使えるから
パンも有塩で代用したいんだけど…

無塩バターの代わりに有塩バターでパンを作る場合、バターに含まれる塩分量を計算し、その分をレシピの食塩量から差し引く必要があります。

例えば無塩バター15%、食塩2%のレシピの場合…

無塩バター15%を有塩バター15%に変更

有塩バター15%に含まれる塩分は0.225
(15×0.015=0.225)※

レシピの食塩2%から0.225を差し引いた1.8%が調整後の食塩量

有塩バター15%、食塩1.8%

※塩分率1.5%の有塩バター使用の場合

無塩バターに比べて、有塩バターは含有される油脂率が塩の分だけ少ないのですが、パン作りには影響を与えない程度の微量なので気にしなくて大丈夫です。

ただし、塩の量は生地の発酵に大きく影響するため、食塩量の調整だけは必ず行ってください。

ショートニングの代わりに無塩バターを使う

近くにショートニング売ってないから
全部バターに置き換えたいな

ショートニングが6%程度の少量であれば、バターもそのまま6%に置き換えてもさほど問題なく作れるでしょう。

ですが厳密に言えばショートニングは水分ゼロ、対してバターは水分16%以下が含まれています。

そのためショートニングが6%より多いほど、同量で置き換えた際の生地感は変わってきてしまいます。

この時のレシピ調整のやり方は2つ提示できます。

元の吸水量が65%だったと仮定すると…

Case.1

ショートニング10%をバター10%に置き換える

バター10%に含まれる水分は1.6%
(10×0.16=1.6)

元の吸水量65%から1.6%を差し引いて63.4%

ただしこのケースだと、ショートニングの油脂率は100%であるのに対してバターの油脂率は84%なので、油脂量がやや減ってしまいます。

なので厳密に計算するとこうなります。

Case.2

ショートニング10%をバター11.9%に置き換える
(10÷0.84=11.9)

バター11.9%に含まれる水分は1.9%
(11.9×0.16=1.9)

元の吸水量65%から1.9%を差し引いて63.1%

とはいえ、そもそもショートニングだけで10%以上も使うレシピはそうそう見かけないので、このやり方の出番もあまり無いかと思います。

無塩バターの代わりにショートニングを使う

バター風味を無くして粉の風味を際立たせるために、バターの全量または一部をショートニングに置き換えたい場合もあるでしょう。

その際は、基本的には同量での置き換えでOKです。

バターロールのようにバター20%も使うようなレシピであえて全量をショートニングに変えたいシチュエーションなんて無いかと思いますが…

参考までに、その際の厳密な計算方法を提示しておきます。

バター20%に含まれる油脂分は16.8
(20×0.84=16.8)

使用するショートニングは16.8%

バター20%に含まれる水分は3.2
(20×0.16=3.2)

仕込み水の量を3.2%増やす

ショートニングをラードで代用する時の注意

トランス脂肪酸が含まれてる
ショートニングは使いたくないんだけど…

バターで代用してしまうとバターのフレーバーが付与されてしまうため、レシピの意図とはかけ離れてしまうでしょう。

そんな時、オススメはラードでの代用です。

使用量もそのまま同じで、仕込み水量を調整する必要もありません。
(そもそもショートニングはラードの代用として開発されたという話もあります)

ですがここで注意点が一つ。

ラードは多量の使用で少しクセが出てきます

恐らく酸化の度合いによってその強弱は変わってくるので、一概に何%までとは言い切れませんが、多くても8%までに抑えておくのが無難でしょう。

出来る事ならラードの使用は6%までにしておきたいところです。
(もちろん、使ってみて気にならなければ何%でも使っていただいて構いません。)

バターやショートニングを増やしたい

バターやショートニングなどの固形油脂を元のレシピより増やしたい場合、水の量を少し減らす調整をすると良いでしょう。

バターには水分が含まれているから、というのも一つの理由ですが、水分が含まれていないショートニングであっても油脂の効果で生地が緩むからです。

たったの2~3%程度の増加であれば調整しなくても問題なく作れることも多いですが、それ以上の増加であれば水の量を少なめにして作り始めましょう。

生地が固ければミキシングの途中でも少しずつ加水してOKです。

固形油脂の代わりに液体油脂を使う

液体油脂

バターやショートニングなどの固形油脂を一切使わず、オリーブオイルや米油など液体油脂で作りたい方もいるでしょう。

その場合、油脂そのものは同量で構いませんが、仕込み水の量を大幅に調整する必要があります。

使っている他の材料や配合にもよって最適な調整量は変わってきますが、目安としては使用する液体油脂と同じ量~半量を仕込み水から差し引けば問題ないでしょう。

ショートニング6% 水65%

サラダ油6% 水59~62%

油脂を入れるタイミングはどうするの?

元から液体油脂を使うレシピだと、油脂をミキシングの最初から入れる「オールインワン製法」であることがほとんどです。

しかし、これはあくまでパンのボリュームを犠牲に歯切れの良さを重視したい場合に取り入れる製法です。

そうではなく、ただ単に固形油脂を液体油脂に置き換えることが目的であるなら加えるタイミングは同じで良いでしょう。

つながりが良くなった生地に液体油脂を混ぜ込むのは慣れないと大変に感じますが、なるべく食感を変えたくないならそれがベストです。

ナオキパン
ナオキパン

自分が目指すパンの食感をよくイメージして
混ぜ込むタイミングを吟味しましょう

多量の代用はオススメできない

バターロールのように元のレシピが固形油脂20%を超える配合のものを、全て液体油脂に変えるのはオススメできません。

(バターロールでバター使わなかったらバターロールじゃないやん!というのは置いておいて)

流石に液体油脂を20%も使用すると生地の繋がりが著しく悪くなり、本来ふわっと膨らませたいパンのレシピであったはずなのにまるっきり別物になります。

せめて10%以内にとどめておくのが無難です。

サラダ油の代わりにオリーブオイル、米油

液体油脂は基本的にどれも油分100%で水分も含まれていない為、どれも同量での代用が可能です。
特に他の材料も調整しなくても問題ありません。

ごま油は使える?

ゴマ油

香りの無い太白ゴマ油ならパン作りに使えます。

しかし純正ゴマ油はとても強い香りがあり、それ単体では香ばしいですがパンに入れるとたったの3%でも香りがキツすぎてあまり美味しいとは言えません。

使うにしても隠し風味として1%以下で使う程度にとどめておいた方が良さそうです。

まとめ

ここで学んだポイントをおさらいしましょう!

  • 油脂の有無によって歯切れの良さが大きく変わる
  • 固形油脂と液体油脂は求めるパンの完成イメージによって使い分ける
  • 油脂を多く配合するデメリットは、卵の使用で補完できる
  • 代用や配合量アレンジの際は食塩量や水分量の調整に気を付ける

油脂はパンの食感や風味を変化させる上では最もわかりやすく効果的な材料と言えるでしょう。
色々使い分けて自分のイメージ通りのパンを作ってみてください!

この記事を書いた人
パン作り研究家
ナオキパン

当サイト及びYoutubeチャンネル「パン作りの教科書 / ナオキパンchannel」を運営。
パン作りのコツや製パン理論を科学的な観点からわかりやすく解説し、パン作り上達の楽しさを広めることに加え、正確な製パン情報の普及に努める。
ベーカリーや食パン専門店など数々のパン店立ち上げや現場責任者の経験有。
自律神経失調症によりパン業界を一時離脱した際に、自身の知識と経験が誰かの役に立つことを願い、2022年5月から本格的に情報発信活動を開始(現在は寛解しゆる~く復帰)。
パンシェルジュ一級。

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