パン作りの「丸め」という工程、実は“丸めちゃいけない場合もある”って知ってましたか?
「丸め」なのに丸めちゃいけないってどゆこと!?
作るパンの種類や生地の状態などによって、どんな形に整えるべきか、どれだけ生地に締まりを与えるべきか異なってきます。
この記事では、丸め作業で生地の状態に合わせた最適なアプローチが出来るようになる考え方を解説します。
基本的な丸めのやり方
パン生地には、小麦粉特有のたんぱく質結合体「グルテン」によって形成される独特な弾性の骨格が存在します。
それ故に、泥団子や白玉団子のようにただ転がすだけではしっかり丸めることは出来ません。
最も簡単そうに見えて意外と難しいパン生地の丸め作業は、多くの初心者が最初に躓くポイントでもあります。
しかし、たった一つの重要なコツさえ知っていれば、初めて生地を触る人でも簡単に丸め作業をマスターすることが出来ます。
僕は今まで数多くの未経験者に丸め作業をレクチャーしてきましたが、やはりコツを知識として最初にお伝えすれば皆さんその場で出来るようになっていました。
こちらの動画でそのコツを丁寧に解説しているのでぜひご覧ください。
丸め作業の目的を知ることで丸め加減がわかる
そもそも、なんで分割後にすぐ成型しないで丸めをするの?
分割後にすぐ成型せず一旦丸める目的は、主に以下の3点です。
- 同じ形に成型しやすいよう整える
- 分割で不均一になった生地の締まり具合を同じ状態にする
- 成型後の表面がキレイになるよう整える
分割した後の生地はそれぞれ形も厚さも不均一になっています。そこから全てを同じ形に成型するのは難しいでしょう。
分割後の状態がバラバラな生地を、丸めて一旦リセットすることで成型がしやすくなります。
特に工場など大量生産の現場において、同一品質を製造するためには非常に重要な工程となってきます。
また、分割作業は皆さんが思っている以上に生地に圧力を加える作業です。
それだけでなく元の生地の端の方なのか内側の方なのか、切った場所によっても生地の状態は微妙に違います。
そういった意味での不均一さも、丸めで均一化することが出来ます。
まるパンを作る場合、丸めを飛ばしてそのまま成型しても良いですか?
まるパンならそれで問題ありません!
ただし丸めをするのとしないのでは生地の質感が違います。
丸め無しでそのまま成形するとどうなる?
通常通り丸め有りで進める工程と、丸め無しの工程を比較してみましょう。
丸め有りの工程
一次発酵→分割→丸め→ベンチタイム→成形
丸め無しの工程
一次発酵→分割→成形
一次発酵やベンチタイムは生地を休ませる工程のため生地は緩みます。
丸めや成形は生地に力を加える工程なので生地の弾力が鍛えられます。
それぞれ「緩和」と「硬化」に大きく分けて整理すると…
丸め有りの工程
緩和→(分割)→硬化→緩和→硬化
丸め無しの工程
緩和→(分割)→硬化
「硬化&緩和」が1セット少なくなりますよね?
これって実は一次発酵中のパンチの有無と同じ変化が生じます。
視点を変えれば、「丸め作業=分割後に行うパンチ」と言えます。
パンチ作業では生地のガスを抜くし折りたたんでハリを与えるよね?
丸め作業でもガスは抜けてハリも与えられるから同じ効果だね。
要するに、パンチ作業によって得られる効果と逆のことが起こるということです。
- 発酵促進
- 生地の骨格強化
- 引きの強い食感になる
この逆ということは…
- 最終発酵における発酵速度が少し遅くなる
- 生地の骨格は強化されない(成形での強化のみとなる)
- 歯切れの良さが向上する。
食パンのように上に大きく膨らませたいパンでは高さが劣るためデメリットに感じますが、歯切れの良さが重要視される菓子パンやロールパンではむしろメリットになり得ます。
加えて工程が一つ(ベンチを含めたら二つ)減ることによる製造の効率化も大きなメリットなので、代々木八幡の有名店「365日」でも採用されている手法です。
よくある誤解!丸めの目的の間違い
ネット上では丸め作業の目的として誤解を生むような解説も散見されます。
それらを言葉通り鵜呑みにしてしまうと、生地の状態に応じた最適なアプローチが出来なくなってしまい、最悪失敗の恐れもあります。
ここでは誤解されがちな間違った丸めの目的について解説します。
ガス抜きをすること
確かにソフト系パンにおける丸め作業は、しっかり強めの丸めをするので結果的に生地のガスは抜けます。
ですがそれはあくまで結果であって目的ではありません。
作るパンによってはなるべくガスを抜かないよう意識した丸め作業をすべきことも。
自家製酵母や微量イーストで作る発酵速度の遅いハード系のパンがその最たる例と言えるでしょう。
ホシノ天然酵母や酒種には麹菌由来の酵素が豊富に含まれており、酵素分解による生地ダレは早いけど発酵によるガス発生が遅い生地となりますが、この場合も同様です。
こういったケースでは、生地のガスをなるべく保持しつつもしっかりハリを与えるよう意識することが重要です。
結果として多少ガスは抜けますが、ガスを抜くつもりで丸めた生地とは全然違う結果になります。
切り口からのガス逃げを防ぐ
これも良くある誤解ですが、生地の分割断面から発酵ガスがプシュ~っと逃げ出すなんてことはありません。
パン生地を「一つの」風船として考えてしまうと、確かに切り口からガスが逃げ出すと誤解してしまうでしょう。
しかし実際にはパン生地は無数の小さな気泡で出来ていますよね?
つまり、無数の小さな風船の集合体だと考えるべきなのです。「一つの」ではないんです。
例え切り口が露出していたとしても、内部の風船は健在です。なのでそのまま膨らむことができます。
もちろん切った部分の風船は割れてしまうわけですが、それは生地のごく一部でしかなく、大部分は無数に集まった内部の風船です。
世の中には分割した生地を丸めずに、切りっぱなしでそのまま発酵・焼成させるパンもたくさんあります(パン・リュスティック、パヴェなど)。
更にはシナモンロールやクロワッサンのように切り口をあえて露出させるパンもあります。
でも、しっかり膨らんでいますよね?
(膨らむ方向はある程度制限されたりはしますが、それはガスが逃げるからではなく膨らみやすい方向に膨らんでいるだけです)
なので、たとえ切り口が露出していたとしてもしっかり膨らむので安心してください。
切り口を隠すことを意識するあまり過剰に生地を丸めたり締めたりする方が問題です。
生地のガス漏れに大きく起因するのはガス保持力です。
丸め加減調整の考え方
どんな形に成型するかによって丸め加減を変える
丸パン成型やあんぱん成型のような、最終的な形が丸になる成型をするつもりなら、特に意識することはなく普通の丸め加減で問題ありません。
しかしバターロールやチョココロネのように、複雑で手の込んだ成形では丸め加減を少し弱めにするべきです。
麺棒で伸したり細長くするような成型は生地にかなりの力が加わります。
そのため成型前に生地の弾力を十分に落ち着かせることが重要となります。
それ故に、これらの成型では一旦しずく形(バット形)に仮成型し5分以上休ませて本成型をするといった「二段階成形」で完成させます。
ですが、丸めの段階で生地をキツく締めてしまうと弾力が出すぎて、生地を休ませる時間がより長く必要になってしまいます。
そうとも知らずレシピの指示通りの時間で作業を始めると、生地が縮んで思うように成形出来ません。
緩むまで休ませればそれで解決かと言うとそうでもなく、酵母菌の働きはノンストップなのでより長く休ませた分だけ発酵も進み、糖分が消費され味が薄まってしまいます。
生地の柔らかさ次第で丸め加減を変える
作るパンによって生地の柔らかさは異なります。
同じ生地でも生地の温度が違えば硬さが異なります。冷蔵でオーバーナイトさせた生地は冷蔵前とはまるで別物です。
硬い生地を通常の生地と同じように丸めてしまうと、生地が緩むまでに時間がかかるのでベンチタイムが長時間必要になります。
それどころか負荷をかけすぎて表面が破れてしまう場合も…
”丸め作業”という呼び方のせいで「必ず真ん丸にしないといけない」と思われがちですが、そんなことはありません。
多少いびつな形でも、次の成型が少しでもやりやすくなればそれでいいのです。
とじ目を必要以上にキレイに摘まんで閉じる必要もありません。
とにかく何事も必要最低限でとどめておくこと。
「必要最低限がどのくらいなのか」を知るには、本来の丸めの目的を知ればおのずとわかってきます。
“丸め作業=生地を丸くすること”ではない
丸めの目的が「成型しやすくする」である以上、丸くしたら成型しづらくなってしまっては本末転倒です。
バゲットなど細長く成型する物であれば、最初から丸ではなく長方形(ナマコ形)に整えたり、コッペパンなら楕円形にしたりする方が次の成型はよりやりやすくなります。
また、同じ長方形に整えると言っても、とても長く成型したいならその分長めに整えないと希望の長さに成型することが難しい場合もあります。
これは生地に余計な力を加えたくないハード系のパンや細長く成型したいパンで使われるやり方ですが、これも分割後に行う”丸め作業”の一種です。
生地によっては折りたたむことすらしない方が良い場合もあります。
分割した生地を少し伸ばして形や長さを整えそのまま休ませる。
そんな、ほとんど生地をいじらない「丸めない丸め作業」が最適な場合も存在します(結構特殊なパターンですが)。
こちらの動画で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
まとめクイズ
A.遅くなる。
丸め作業にはパンチと同じ効果があります。故にパンチで得られるはずの「発酵促進」が得られません。
※ただしベンチタイムも省略されることで工程全体を見ると時短になる場合が多く、また余分な弾力強化を避けられることで生地の膨張は早く見える可能性もあります。
A.「×」。
「切り口は中に入れ込むべき」というケースがパン作りではほとんどですが、必ずではありません。作りたいパンや生地によってベストな手段は違うため、常に「目的は何なのか」と「目の前の生地はどんな状態か」を考えることが大事です。