【プロの解説】パンに砂糖を入れる理由は?甘さ以外にも役割がいっぱい!【アレンジする際の注意点も】

砂糖の役割

なるべく砂糖の摂取量を控えたいんだけど

レシピの砂糖を無くしてもいいかな?

ナオキパン
ナオキパン

ちょっと待った!

砂糖はパン作りにおいて味の変化以外にも様々な効果をもたらす重要な存在です。
様々な役割を担っているため、レシピの砂糖を勝手に増減すると失敗に繋がる恐れもあります。

この記事では、パン作りにおける砂糖の効果と役割について解説し、砂糖を入れる理由について紐解いていきます。

この記事を読むと…
  • 砂糖の役割を知ることで、レシピの意図がわかるようになる
  • 配合を見るだけで完成品の味や食感をイメージできるようになる
  • レシピをアレンジする際に配合調整ができるようになる

パン作りにおける砂糖の役割と効果

砂糖

砂糖は製パン必須材料には含まれていません。
なので砂糖が無くてもパンを作ることは可能です。

それでもなぜ、あえて砂糖を入れる必要があるのか?

ここではパンのレシピに砂糖が入っている際の目的や役割について見ていきましょう!

食欲をそそる焼き色・風味の付加

砂糖は焼成によってパン生地が高温になった時に、様々な化学反応によって美味しそうな焼き色や香り成分を生み出します。

パンの焼き色と香り成分の元となる化学反応は「カラメル化」と「メイラード反応」です。
それぞれ詳しく解説します。

カラメル化

表面温度が185℃を超えてくると、糖分が水分を失う過程で分解や結合など様々な反応が生じ、褐色物質や苦み物質が生成されます。これをカラメル化といいます。

メイラード反応とは違って、カラメル化は糖分単体で作用します。

プリンのカラメルソースがまさしくこの反応を利用したものであり、パンにおいてもそのような風味と色味をもたらしています。

メイラード反応

表面温度が160℃以上になってくると、糖分アミノ酸が結合しメラノイジン(褐色物質)や各種香り成分を生成するメイラード反応が起こります。
パン特有の香りと焼き色の大部分がこの反応によって形成されます。

メイラード反応

アミノ酸が無ければこの反応は起きないのですが、通常のパン生地においては小麦粉由来のアミノ酸や脱脂粉乳など乳製品に含まれているアミノ酸が作用します。

他にもこんなものがメイラード反応の効果で作られています。

  • 肉を焼いた時の焼き目と香ばしさ
  • 玉ねぎをじっくり炒めた際の飴色と香ばしさ
  • 味噌や醤油の色味と香り

味噌と醤油は加熱されてないよね?

モノによって色味も違うけど…

あくまで加熱によって反応速度が急速になるというだけで、加熱しなくとも反応は進みます。
特にメイラード反応の材料である糖とアミノ酸が多い味噌なら、放置しているだけでも反応がよく進みます。
味噌の色味がモノによって異なるのは、放置による熟成期間の差が影響しています。

ナオキパン
ナオキパン

常温で味噌を置いておくと徐々に色が濃くなりますよね。
メイラード反応が進んだ証です。

甘味をつける

砂糖を入れることでパンに甘味をつけます。

ですがその配合量の微妙な違いによって、甘味の感じ方が大きく異なるようです。

Case.1
食パン

食パンの砂糖配合を6%、8%、10%、12%とそれぞれ作り分け多数の人に試食をしてもらうと…

  • 10%までは「甘い」と感じる人は少なく、「コクがあって美味しい」という反応が多い
  • 12%では「甘い」と感じる人が多い

(引用:竹谷光司 著「これからの製パン法」)

日常食としての”生地パン”である食パンにおいては、12%以上だと「甘味」として感じられ、10%までなら「旨さ」のように感じられるのでしょう。

たった2%の差で大きな変化がある一方で、菓子パン生地では様子が異なります。

Case.2
あんぱん
クリームパン
メロンパン

あんぱん、クリームパン、メロンパンのような菓子パンで使う生地においては、砂糖20%で作ったものと25%で作ったものの間には、そこまで大きな甘味の差は感じられない

中身や外側の甘い具材がメインである菓子パンにおいては、生地の微妙な甘さの違いは生地パンである食パンに比べるとあまり目立たないのでしょう。
(食パン生地に比べると菓子パン生地の食塩量が半分程度であることも影響している可能性はあります)

加えて、個人的には砂糖3%と5%の違いもとても大きいと感じています。

Case.3
セミハード系のパン
  • 砂糖3%の生地…小麦の香りや発酵風味が際立ち、「ハード系」に近い。
  • 砂糖5%の生地…ハード系っぽさは感じられず、食パンらしさがある。

砂糖3%はいわゆる「セミハード系」でよくみられる配合率です。
砂糖らしい甘味はほとんど感じられず小麦粉本来の味が目立ち、フランスパンなどハード系の印象に近い味わいを感じます。
塩が甘味や旨味など他の味覚を引き立たせることは有名ですが、パンにおいては微量の砂糖も「甘味」としての役割ではなく「小麦の味を引き立てる」役割を担うのでしょう。
(実際、発酵過程で糖分は分解されるため、焼きあがったパンに残っている砂糖(ショ糖)の量は3%よりかなり少なく、1%前後であると考えられます。)

一方で砂糖5%はセミハード系でも見られますが、基本的なソフト系食パンの配合でもよく使われます。
「甘い」と感じるほどではありませんが、砂糖3%のパンと比べると小麦の味はそこまで強調されず、例え油脂を使わずフランスパンのような形で焼いても「いかにもな食パンらしさ」が感じられます。
この場合、発酵過程でショ糖が消費されてはいるものの3%程度は残っているはずです。

砂糖量の差による食感の違いももちろんありますが、この微妙な残糖量の差が味覚の印象を大きく変えている可能性も十分考えられます。

老化を遅らせる

砂糖には高い保湿性があります。

パン生地の中でもその保水性が発揮され、焼成による生地中水分の蒸発を防ぎ、焼きあがったパンの老化(乾燥)も防ぎます。
そのため砂糖が多いほどしっとり感が強く、また老化も遅いという特徴があります。

また、砂糖が多いパンは焼き色も早く付くため必然的に焼成時間が短くなります。
焼成時間が短ければ水分蒸発も少なくなり、この結果も影響してしっとり感が強く老化の遅いパンになります。

酵母菌の活動を促す

酵母菌の出芽のようす

砂糖は酵母菌のエサとなり、適量の配合はパン生地の発酵促進に繋がります。

近年は様々なタイプのパン酵母が製造されているため、モノによって適正量の範囲が全く異なってきますが、一般的なパン酵母では砂糖配合量が5~7%程度で発酵促進の恩恵をより強く受けられます

画像引用:オリエンタル酵母工業株式会社

歯切れを良くする

砂糖は生地作りの際に生地の骨格であるグルテンの結合を阻害する効果があります。
無糖の生地ではガッチリと強く結合できるため弾力が強く伸びにくい生地になりますが、砂糖が多いほどゆるい結合となり柔らかく伸びやすい生地になります。

生地の質感はそのまま焼き上がりの食感となり、砂糖が多い生地ほど歯切れの良い柔らかなパンになります。

砂糖の量が多いとどうなる?高配合生地での働き

砂糖の配合量が25%前後と著しく多い菓子パン生地では、そのメリットとデメリットが浮き彫りになります。
そのため菓子パン生地の様相を理解することは、砂糖の役割についての更なる理解に繋がります。

ここではごく一般的な菓子パン生地(砂糖25%配合)における砂糖の働きについて見ていきましょう!

メリット

  • 甘味が増す
  • 焼き色の向上
  • 焼き立ての甘い香り
  • しっとり感の向上
  • 老化が遅くなる
  • 歯切れが良くなる

焼き色と香りに関しては、糖分単体による「カラメル化」と、糖分・アミノ酸による「メイラード反応」によるもの。
しっとり感の向上と老化の遅延は砂糖の保湿性によるもの。
歯切れの良さはグルテン結合の阻害によるもの。

このどれもが菓子パン生地では大事ですが、皆さんが一番見落としてしまいがちなのが「歯切れの良さ」の重要性です。

あんぱん

食パン生地であんぱんなどを作ったことはありますか?
甘さ控えめ生地と甘さのある具材の対比で美味しくなるかと思いきや、”引き”の強さ(歯切れの悪さ)が目立つ食べにくいパンになってしまいます。

パンにおいて食感と味のマッチは皆さん思う以上に重要で、生地の引きが強いと具材の味より生地が目立ってしまい、本来具材を味わってほしい菓子パンにおいては本末転倒です。

そのため、甘さ控えめ砂糖少な目の生地で菓子パンを作ろうと考えるなら、砂糖を減らしたことによる歯切れの悪化を視野に入れ、砂糖以外で歯切れを良くする対策などを講じる必要性が出てきます。

デメリット

  • 発酵を阻害する
  • グルテン結合を阻害する
  • 上に高く膨らむ力が弱くなる

砂糖は食塩と同様に、パン生地中の浸透圧を高くする働きがあります。
浸透圧が高くなると酵母細胞の水分が糖に奪われてしまうため活性が弱まります。

ナオキパン
ナオキパン

野菜や果物に塩や砂糖をまぶすと水分が出てきますよね?
それと同じ原理がパン生地内部でも起こるのです

なので、砂糖高配合の生地で支障なく作るには

  • 耐糖性イーストを使う
  • イースト量を増やす(減らしすぎない)
  • 砂糖量の増加に合わせて食塩を減らす

などの対策が必要となります。

また、パン作りにおいては砂糖だけでなく副材料の全ては多く入れるほどグルテン結合は阻害されます。
グルテン結合に必要なものはたんぱく質(グリアジンとグルテニン)と水、この二つだけ。
たとえ食塩であってもミキシングでのグルテン結合は阻害されます。

塩はグルテンを引き締めるって聞いてたから
てっきり結合も促進するのかと思ってた!

とはいえ、食塩に関しては使用量がそもそも極微量であることと、最終的にはグルテンを引き締める効果があるのでむしろメリットとして感じられるのですが、砂糖の場合はそうもいきません。
砂糖に引き締め効果は無く、むしろベタつきが強いというマイナス要素が増え、さらには食塩とは比較にならないほど多量の配合をします。
そのため、砂糖高配合の菓子パン生地はミキシング時間が長くなります

さらに、十分に捏ね上げた生地であっても生地は柔らかくコシが弱いので、上に高く膨らまず横に広く膨らむことが得意な生地になります。

砂糖の量が少ないとどうなる?減らすことによる影響

ダイエット中の方もそうでない方も、なるべく砂糖の摂取を控えたいと思う方は多いでしょう。

パン作りにおいてもレシピで指示されている砂糖の分量をほんの少しでも少なくしようと自らアレンジする方もよく見かけますが、砂糖を減らすと甘さ以外にも様々な影響があります。

焼き色が薄くなる

コッペパン

砂糖はパンの焼き色を生成する化学反応の元となる材料です。
そのためレシピより減らすことで焼き色は薄くなります。ついでに焼き色と同時に生成される香り成分も減るため、焼き上がったパンの香りも変わります。

生地の伸展性が低下し、弾力が強くなる

砂糖には生地の伸展性を向上し弾力を緩める作用があるため、それを減らすことで弾力が増し生地が固くなったように感じるでしょう。

生地の固さを改善するには水を増やせば解決できますが、それだとグルテン結合はゆるくできないので、やはり元より弾力の強い生地にはなってしまいます。

歯切れが悪くなる

砂糖を減らすほどグルテンはより強固に結合できるようになるため、生地の弾力が強くなりパンの歯切れも悪くなります。

無糖生地ではどうやって発酵するの?

フランスパン

酵母菌は糖分を栄養源として発酵することで生地が膨らみますが、フランスパンなどハード系のレシピには砂糖が一切入っていません。

砂糖が無いのにどうやって発酵してるの?

無糖生地における発酵の仕組みについて見ていきましょう。

小麦粉に含まれる微量の糖分

小麦粉に含まれるほとんどの糖質は「でんぷん」で、これは酵母菌の栄養としては使えません。
しかし、ごく微量に発酵の栄養として使える糖分も存在しています。

この糖分が発酵で消費されますが、とても量が少ないので当然これだけでは不足してしまいます。

でんぷんを分解して得られる麦芽糖

無糖生地でも酵母菌が発酵できる一番の要因はこれです。

小麦粉の主成分である「でんぷん」を、でんぷん分解酵素「アミラーゼ」が分解することで麦芽糖を生成します。
この麦芽糖を使って酵母菌は発酵します。

でんぷんの分解

アミラーゼは元々小麦粉にも微量含まれているため、生地を長時間寝かせることで麦芽糖がゆっくりと生成されていきます。
もしイースト量を多くしてしまうと酵素による麦芽糖生成が酵母による消費に追いつかなくなってしまい、生地の発酵持久力が低下します。
これはフランスパンなど無糖生地のイースト量が他のものと比べて極端に少ない理由でもあります。

フランスパンを少ないイーストで作る理由

古典的なハード系のレシピでは小麦粉に元来含まれている酵素だけを頼りに麦芽糖を生成していきますが、アミラーゼを豊富に含む材料を添加することで麦芽糖生成を促進して作ることの方が現代ではポピュラーです。

アミラーゼを豊富に含む材料
  • モルトシロップ
  • モルトパウダー(粉末麦芽)
  • 麹粉末
  • 非加熱甘酒

etc…

この中で最も製パンに使用されるのがモルトシロップとモルトパウダーです。
モルトパウダーは有名なフランスパン専用粉「リスドォル」に添加されていたり、麹粉末は国産のフランスパン専用粉に添加されていることがあります。

金属ローラーで小麦粉を製粉すると元来の酵素がローラー熱で失活してしまい、酵素活性の低い粉になってしまいます。
そのままでは美味しいフランスパンを作ることが難しいため、酵素活性を調整する意味合いでブレンドされています。

ナオキパン
ナオキパン

リスドォルやTYPE ERを買う際には

原材料表示を確認してみてね!

モルトシロップの糖分

アミラーゼを加えることを目的として添加されるモルトシロップですが、モルトシロップ自体にも既に麦芽糖が含まれているため、もちろんこの糖分も発酵の栄養源として活用されます。

砂糖の量を変える際のレシピ調整方法

水の量

  • 砂糖を増やす→水を減らす
  • 砂糖を減らす→水を増やす

一般的に製パン技術書で基準とされている目安は「砂糖5%の増加で水1%の減少」ですが、必ずしもこの数字の通りにやれば丁度いいわけではありません。その時に使用している他の材料の影響も受けるからです。

やはり最適な吸水量を見極めるには試作してみるしかありませんが、やみくもに砂糖の量を大幅アレンジすると失敗する可能性が高いです。

試作一発目の失敗を避けるには、基本の食パン配合と基本の菓子パン配合を覚えて、それを基準に考えることをオススメします。
例えば砂糖8%の生地であんぱんを作りたいなら食パン配合を基準に変えていき、砂糖18%の生地で食パンが作りたいなら菓子パン生地を基準に調整していくことです。
逆だと調整の振れ幅が大きすぎて考えるのが難しいでしょう。

生地の強さ

砂糖の量は生地の弾力やパンの食感にも影響を与えます。
配合量を変えた結果として得られる食感が自分が求める食感であるならそれでいいのですが、そうでない場合は使う粉の種類やブレンドを調整して生地感を変える必要があります。

Case.1

菓子パンを砂糖25%ではなく15%で作りたい

水の量だけ調整したが、もう少し歯切れ良く食べやすくしたい

強力粉100%ではなく強力90%:薄力10%に変え、水も更に減らす

ブレンド比率はあくまで一例ですが、粉のたんぱく量をコントロールして食感を調整することは菓子パン作りにおいて重要です。

また、粉ではなくイーストを変えることでも生地感や食感をコントロールすることができます。

Case.2

生イーストの代わりにインスタントドライイーストを使ってクリームパンを作ったら
生地を伸ばしてもすぐ縮むため成型が難しく、歯切れも少し悪かった。

セミドライイーストが家に有ったのでそれに変えたら、生地も扱いやすく食感も改善された

皆さんがご家庭でよく使われているインスタントドライイーストには「ビタミンC」という酸化剤が添加されています。
これは生地の弾力を強くする効果があり、上に高く膨らませたい食パンには有効ですがクリームパンなど薄く伸ばしたい場合には弾力が邪魔になります。
ですがセミドライイーストには生イーストと同様にビタミンCは含まれていないため、伸びの良い生地になります。

塩の量

砂糖15%配合のレシピを基準にして砂糖を25%に増やしたい場合、塩の量を減らす必要があります。
砂糖には塩と同じ原理で酵母菌の発酵力を阻害する作用があるからです。

ではどれくらい減らせば良いのでしょうか?
ここでも基準を覚えておくと便利です。

砂糖量5%10%15%20%25%
食塩量2%1.8%1.5%1%0.8%

これはあくまで一例であって、必ずしもこの通りにしなければいけないわけではありません。
ですが基準を目安に配合をいじるだけで、だいぶ考えやすくなるはずです。

まとめ

ここで学んだポイントをおさらいしましょう!

  • 砂糖はパン作りにおいて甘味以外にも香りや食感など様々な役割がある
  • 砂糖は増やす際も減らす際も、他の配合を調整して生地感をコントロールする必要がある
  • 特に砂糖量の差による食感の変化を見落としてはいけない

砂糖と生地感の関係、そして砂糖と食感の関係について理解が深まると、自分でパンレシピを考える際に完成形のイメージがより鮮明になります。

自分だけのパン作りを完成させたいなら、ぜひとも砂糖の役割については熟知しておきたいところです。

この記事を書いた人
パン作り研究家
ナオキパン

当サイト及びYoutubeチャンネル「パン作りの教科書 / ナオキパンchannel」を運営。
パン作りのコツや製パン理論を科学的な観点からわかりやすく解説し、パン作り上達の楽しさを広めることに加え、正確な製パン情報の普及に努める。
ベーカリーや食パン専門店など数々のパン店立ち上げや現場責任者の経験有。
自律神経失調症によりパン業界を一時離脱した際に、自身の知識と経験が誰かの役に立つことを願い、2022年5月から本格的に情報発信活動を開始(現在は寛解しゆる~く復帰)。
パンシェルジュ一級。

ナオキパンをフォローする
砂糖・塩
ナオキパンをフォローする
タイトルとURLをコピーしました