こんにちは、パン作り研究家のナオキパンです。
皆さんは「グルテンとは何か?」って聞かれたら、何と答えられますか?
そんなの簡単!
答えは「小麦粉に含まれるたんぱく質」でしょ?
実はそれ、不正解です!!
驚きましたか?
この記事では、パン作りで生地の骨格としての役割を担う「グルテン」について、その仕組みについて科学的に解説します。
- グルテンの仕組みを理解でき、その奥深さにパン作りがより面白くなる
- ふわふわパンを作るために重要なポイントがわかり、パン作りがレベルアップする
「グルテンとは、〇〇〇の結合体である」その正体に迫る!
パン作りにおいて最も重要な要素となるグルテン。
実は、「グルテン」というたんぱく質が元々小麦粉に存在しているわけではありません。
正しくは、「とある2種類のたんぱく質が結合した物質」それがグルテンです。
小麦粉には8~13%程度のたんぱく質が含まれており、その中の多くを占めているのが「グルテニン」と「グリアジン」という2種のたんぱく質です。
小麦粉と水を混ぜ合わせて生地(ドウ)を作ると、グルテニンとグリアジンが水を吸収しそれぞれが結合します。その結果出来上がった結合体のことを「グルテン」と呼ぶのです。
このようなイメージです。
他の粉では代用できない!グルテンの性質「粘弾性」について
グルテンには「粘弾性」という性質があります。
文字通り粘りと弾力を併せ持つという意味です。
この性質は本来、グルテンの元となる2種類のたんぱく質がそれぞれ別々に持っていたもの。
- グルテニン…弾性。ゴムボールのように弾力があり、元に戻ろうとする力が強い。
- グリアジン…粘性。ベタつき、つきたてのお餅のようによく伸びる。
グルテニンの弾性があるからこそパン生地は形を保てるし、グリアジンの粘性があるからこそ生地を伸ばしたり広げたりと自由に形を変えることができます。
この二つがバランス良く含まれているおかげで、パン生地は様々な成型をすることが可能であり、発酵や焼成によるガス膨張もしっかり蓄えることができるのです。
パン作りにおけるグルテンの役割と「酸化」について
グルテンにはパン生地の骨格としての役割があります。
パン生地を捏ねる「ミキシング」という工程では、生地の中に空気が多く混入されることでグルテンが酸素と結びつく「グルテン酸化」が起こります。
それによってグルテンはより強靭な骨格となります。
粉と水をザックリと混ぜ合わせただけの状態だと、このグルテンは生地の内部でとても粗い網目構造として張り巡らされているのですが、ミキシングが進んで生地が幾重にも折りたたまれることでさらに細かい網目構造となります。
酸化による分子レベルでの強靭化と、物理的な力による構造の複雑化。
この二つが生地の粘弾性を高め、伸びが良くガス保持力の高い生地を作り上げます。
酸化による生地の強化と、ミキシングによる構造変化。
これらを別々で考えられるようになると理解が一層深まります!
ちなみに、小麦粉の主成分はでんぷんです。グルテンが柱ならでんぷんは壁と例えられます。
グルテンが生地の柱として膨らみを支える役目を担いながらも、最終的には焼成時にでんぷんという名の壁がしっかり焼き固められることでパンの膨らみが維持されます。
生地からでんぷんを完全に洗い流し、グルテンだけで焼いてみたことがありますが、これだと膨らみはしても焼きあがって窯から出したらしぼんでしまいました。
また、グルテンパウダーを添加して生地のグルテン割合を多くしてパン作りをしても、生地の弾力が強すぎたり壁となるでんぷんが不足したりして、かえって焼きあがったパンの大きさが小さくなりました。
グルテンが多ければ良いってわけじゃないんだね
グルテン酸化を促進するもの
上記で説明したミキシングによる空気混入以外にも、グルテン酸化を促進する要素があります。
- 生地を長時間寝かせる
- 酸化剤(ビタミンC、臭素酸カリウムなど)の添加
- 小麦粉のエージング(古い粉の使用)
ミキシング直後にはまだグルテンと結びついていない酸素が残っており、長時間寝かせることで自然とグルテンと反応が進みます。
捏ねずに、粉気が無くなるまでただ混ぜただけであっても生地に酸素は入るので、全く捏ねていない生地であっても寝かせることで生地は変化します。
酸化剤は意外と皆さん気付かずに使っています。
ご家庭で使われているイーストの多くは「インスタントドライイースト」ですが、成分表示を見て頂くと「乳化剤、ビタミンC」と書かれているはずです。
このビタミンCこそ酸化剤で、生地に酸素を引き付ける効果があります。
小麦粉のエージングとは、製粉会社が小麦を製粉した後に一定期間寝かせる工程です。
これには小麦に含まれる酵素の活性を落ち着かせる役目もありますが、粉に酸素を吸着させる効果が大きいです。
小麦粉には微量の脂質が含まれており、これが酸素を吸着します。
これによってミキシング前から既に酸素がある程度含まれた状態となるため、エージングを行わない粉に比べてグルテン酸化の度合いに差が出ます。
ちなみに、賞味期限切れの粉でパンを作ると、新鮮な粉で作った時よりも生地の弾力が強く締まりのある印象になります。
これも粉の酸化が大きな原因です。かといってわざとこのようにするのは、不快な酸化臭があり小麦本来の風味もかなり薄れるためオススメしません。
今の時代に売られている小麦粉のほとんどは既にメーカー側でエージングがある程度なされており、皆さんが購入したタイミングこそ最適な使用タイミングと言えるでしょう。
グルテンは子持ち昆布のような分子構造
分子レベルで構造を見ると、グルテニンは分子が直鎖状に何個か連なっており、グリアジンは分子が単体で存在しています。
結合してグルテンになると、細長いグルテニンの周りにグリアジンが付着するような形となり、それはまるで子持ち昆布のようなイメージです。(グルテニン=昆布、グリアジン=魚卵)
子持ち昆布のような形状となったたんぱく質の結合体「グルテン」が幾重にも複雑に織り重なって、パン生地の骨格となる網目構造を形成しています。
米粉を小麦粉の代用としてパンを作れるのか?
小麦粉の代わりに米粉で
パンを作りたいんだけど…
小麦粉以外の穀物粉はグルテンを形成するために必要なグルテニンとグリアジンの2種を併せ持っていないため、残念ながら小麦粉の代わりになる粉はこの世に存在しません。
それなら、米粉パンとは一体何なのか?これには3つのタイプがあります。
- 小麦粉をベースとして、米粉を数割ブレンドしたタイプ
- 米粉をベースとして、粉末小麦グルテンを添加したタイプ
- 小麦粉も粉末グルテンも未使用のグルテンフリータイプ
このうち上の2タイプはあくまで小麦のグルテンの力に頼っているため、小麦粉の代用としての役割は果たせていません。
その代わり、小麦パンらしいふわふわ感と成型耐性がありながらも米粉特有の風味や食感が味わえます。
一方で3つ目のタイプは小麦を全く使用していないため、小麦アレルギーでも食べられる小麦パンの代替食品ではありますが、グルテンが無いため小麦パンとは風味も食感も全くの別物です。
生地の性質も小麦生地とは全く異なるため、製造法もパン作りというよりはお菓子作りに近い感覚で、「パンを作っている感覚」はあまり味わえません。
こうした理由から、米粉を小麦粉の完全代用としてパンを作ることは出来ないと言えます。
仮に小麦粉の数割を米粉に変えるアレンジをする場合であっても、最適な吸水量も膨らみ方も大きく変わってくるので、粉の特性を熟知していないと失敗することが多いです。
米粉を使ってパンを作りたいなら
それ専用のレシピを使うのが無難で安全!
ライ麦粉やオートミール粉でグルテンは形成されるのか?
ライ麦粉やオートミール粉(オーツ麦の粉末)も同様に、グルテンを形成するたんぱく質を併せ持ってはいないためグルテンは形成されません。
ドイツにはライ麦粉100%のパンがありますが、やはりこれも小麦パンに慣れ親しんでいる文化の我々の感覚では、生地感も食感もまるで別物です。
ですが、米粉と違ってこれらを使ったものはグルテンフリーとは言えない場合が多いようです。
その理由は二つ。
- 小麦混入の可能性があるから
- 小麦のグリアジンやグルテニンと非常に似た形のたんぱく質が含まれているから
ライ麦やオーツ麦の多くが外国産ですが、栽培・収穫・保管などの過程で小麦が微量混入する可能性がゼロではないとのこと。
そのため万が一のことを考えて、たとえライ麦粉100%であっても成分表示には「小麦」と書かれている場合が多いです。
原材料に「小麦」って書いてあるから
てっきりブレンドされてるのかと思ってた!
また、アレルギーでは全く同じ種類のたんぱく質ではなくとも、非常に似た形のものであれば症状が出る恐れもあるという懸念もあります。
小麦アレルギーではその多くの原因がグリアジンですが、グリアジンとよく似たたんぱく質を多く含むライ麦、大麦はグルテンフリーとは言えないことになっています。
ちなみにグリアジンは「プロラミン」という分類の一種で、ライ麦や大麦には同じブロラミン分類に含まれるたんぱく質が含まれているのです。それに比べるとオーツ麦はプロラミンが少ないですがゼロではない上、小麦混入の可能性が高いのでやはりグルテンフリーとは言えないのです。
ふわふわパンを作るために必要なグルテンへのアプローチとは?
お店で売ってるレベルのふわふわパンを作るためには、生地のグルテンを十分に発達させてあげることが重要です。
上手に発達させるとはどういうことか?
こちらの項目で解説したことを踏まえると、次の二点が重要です。
- グルテン酸化の促進
- ミキシングによる網目構造の細分化
もし業務用ミキサーで生地を作っているのであれば、この二点は特に意識せずとも達成できるでしょう。
しかし手ごねの場合は、正しい捏ね方を実践しなければ二点の達成は出来ません。
手ごねの正しいやり方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
捏ねずに生地を鍛える方法はある?
捏ねなくても、生地を長時間寝かせたり
パンチ(ガス抜き)を増やせば鍛えられるって聞いたけど…?
確かに、生地を長時間寝かせることでグルテンと酸素はじわじわ結びついて酸化が進んでいきます。
また、パンチを行うことで新たな酸素が生地内に取り込まれて酸化が進みますし、折りたたみ行為によってグルテンに緊張を与え鍛えることは可能です。
ですが、それでは不十分です。
捏ねずに寝かせて酸化だけ促した生地は、確かに生地の繋がりは良くなってはいますが、グルテンの網目構造はとても粗い状態のままです。これではパン屋レベルのふわふわパンにはなりません。
パンチだけで鍛えた生地については多少グルテンの網目構造が細かくはなりますが、折りたたみを何百回と連続で行うミキシングには当然敵いません。
もし、捏ねずにふわふわパンが作れるなら
パン屋さんは高額なミキサーを買わないでしょう
まとめ
ここで学んだ内容をおさらいしましょう!
- グルテンとは、「グルテニン」「グリアジン」というたんぱく質の結合物質である
- グルテンには粘弾性があり、そのおかげで複雑な成型や大きな膨らみが得られる
- 小麦粉以外の粉ではグルテンは形成できない
- ふわふわパンを作るには、化学的な「グルテン酸化」と物理的な「網目構造の細分化」の二点が必要
これらを理解しておくことで、パン作りの工程全てを通して生地の中の変化が想像できるようになるため、レベルアップすることは間違いないでしょう。
以上、グルテンの仕組みについての解説でした。