家族の健康のために、白砂糖の代わりにきび砂糖でパンを作っています!
それ、実は全くの無意味です!
白砂糖と比べて様々なミネラルが含まれているため健康志向のイメージが強いきび砂糖。
健康的なパンを作るためにきび砂糖を使っている、もしくは使用を検討している人も多いでしょう。
ですが、パン作りにおいては白砂糖をきび砂糖に変えたところで、パンの健康効果の向上は期待できません!
この記事では、きび砂糖でパンを作っても健康的なパンが作れない科学的な理由を解説し、どうすれば健康的なパンが作れるのかご提案いたします。
白砂糖パンときび砂糖パンの違い
そもそも、白砂糖ときび砂糖ってどう違うの?
上白糖やグラニュー糖などの白砂糖は、分類上では精製糖と呼ばれ、ミネラルなどの不純物を全て取り除いた砂糖です。
対するきび砂糖は精製途中の糖液を煮詰めて結晶化したものです。
つまり、未精製である黒糖と完全精製された白砂糖の中間と言えるものです。
きび砂糖で健康的なパンが作れると誤解されている理由
白砂糖には無いビタミンやミネラルが含まれていること自体が、きび砂糖の健康的イメージを高めています。
また、食の情報サイトによっては「きび砂糖は白砂糖よりも低GI値で血糖値上昇が抑えられる」と解説しているところもあり、そういった情報がきび砂糖の健康的イメージを更に高めていると言えます。
しかし、これには大きな落とし穴があります!
GI値(グリセミック指数)とは、食品に含まれる糖質の吸収度合いを示した数値のこと。数値が高いほど吸収が血糖値が急上昇する。
参考:大塚製薬
なぜ、きび砂糖で作っても健康効果が向上しないのか?
「血糖値上昇が抑えられる」という嘘
まず大きな誤解の元であるGI値について解説します。
「きび砂糖は白砂糖よりも低GI値で血糖値上昇が抑えられる」
これ、半分正解ですが、半分間違いです。
ここで白砂糖ときび砂糖のGI値を比較してみましょう。
グラニュー糖 | 上白糖 | きび砂糖 | |
GI値 | 110 | 109 | 100 |
確かに白砂糖と比べるときび砂糖の方が数値は低いですが、どちらも高数値であることに変わり有りません。
これはなぜかというと、糖質の吸収効率に大きく関与するのは糖の分子的構造の違いや食物繊維の有無だからです。
三種どれもサトウキビが原料であり、ショ糖という二糖類が成分の95%以上を占めています。
分子的構造はどれも同じであり、そして食物繊維が入っているわけでもない。
だから、「きび砂糖は白砂糖よりも低GI値」の部分までは正解ですが、「血糖値上昇が抑えられる」はほとんど効果が期待できないためほぼ不正解と言えます。
70以上は高GI、56~69が中GI、55以下が低GIとされています。
このように砂糖単体で見てもGI値における優位性が少ないのに、パン作りで使うとどうなるでしょう?
パンに使う砂糖は小麦粉100に対して2~25%と、パンの種類によって差はありますが、結局のところ主成分は小麦粉であるため、白砂糖をきび砂糖に変えたところでパンのGI値を大きく変えることは出来ません。
ミネラルやビタミンは微量である
きび砂糖にはビタミンB1、B2、B6が含まれていると言われていますが、これらのビタミンは熱に弱くパンの焼成の過程において一部が失活してしまいます。
一方でミネラルは熱に強いため焼成後も残りますが、どちらも含有量は微量です。
パン作りで使う砂糖の量が多くても小麦粉に比べて3割未満であることは先程述べた通り。
つまり、パンの中では砂糖のミネラル分など取るに足らない微々たる量であるということ。
実際に基本的な食パンの配合において、上白糖をきび砂糖に変えた場合にミネラル分がどのくらい増加するのか計算してみたところ、たったの0.8%程度しか増加していませんでした!
※カリウム・カルシウム・リン・鉄・銅の合計値で計算
砂糖に含まれるミネラル分より、小麦粉や脱脂粉乳などの乳製品に含まれるミネラル分の方が圧倒的に多くの割合を占めているため、ミネラル分を増やしたいならこちらに着目すべきです。
本当に健康的なパンを作るには?
砂糖を変えても意味ないって言うなら、一体どうすれば健康に良いパンが作れるの?
全粒粉を使う
パンの主成分は小麦粉であるため、小麦粉を変えることがパンの健康効果を高める最も大きな手段です。
使う小麦粉の半分を全粒粉にするだけでミネラル量は約1.9倍、全量を全粒粉に置き換えれば約2.7倍にもなります。
強力粉100%食パン | 5:5ブレンドの食パン | 全粒粉100%食パン | |
ミネラル量 | 334.3mg | 629.5mg | 912.6mg |
また、全粒粉には食物繊維が豊富に含まれており、こちらはそれぞれ2.9倍、4.8倍にもなります。
強力粉100%食パン | 5:5ブレンドの食パン | 全粒粉100%食パン | |
食物繊維 | 2.4g | 7g | 11.5g |
白いパンのGI値は90前後であるのに対して、全粒粉パンは50前後と低水準であることからも、本当に健康的なパンを作りたいのであれば全粒粉を使うのが良いでしょう。
乳製品を使う
脱脂粉乳の有無もパンのミネラル量を大きく変えます。
小麦粉100に対して脱脂粉乳を5%使用する食パンと、脱脂粉乳不使用の食パンでミネラル量を計算したところ、前者は約1.9倍ものミネラル量であることがわかりました。
脱脂粉乳5%使用 | 脱脂粉乳なし | |
ミネラル量 | 471.4mg | 254.3mg |
脱脂粉乳5%の差は、ミネラル量だけで言えば全粒粉を半分ブレンドするかしないかと同じ程度の差だと言えるのです。
また、脱脂粉乳をはじめとする乳製品には、小麦粉など植物性食材に不足しがちな必須アミノ酸「リジン」が豊富に含まれます。
そもそも必須アミノ酸は全ての種類をバランス良く摂取しないと体内で余すことなく有効活用することが出来ません。
余ってしまったアミノ酸は排出されるだけです。「バランス良く食べましょう」と言われるのはアミノ酸の摂取量バランスを整えるためでもあるのです。
もちろん、主菜や副菜など食事の内容でバランスを整えれば問題ないのですが、パンに乳製品を使えばパン自体のアミノ酸バランスが改善されるため、牛乳が苦手な人には効果的です。
ただし、全粒粉のようにGI値を下げる効果は無いので、血糖値が気になる方は全粒粉の使用を検討してください。
※バターには乳製品特有の栄養価の高さはあまり期待できません。
乳糖不耐性でも大丈夫!
牛乳を飲むとお腹を壊すため、パンに牛乳や脱脂粉乳を使うことを避けている人もいるでしょう。
しかし、実はパンの材料として使う分には乳糖不耐性でも問題ない場合が多いです。
牛乳でお腹を壊すメカニズムは、乳糖を分解する酵素「ラクターゼ」の量が少ないことも確かに理由の一つですが、それ以上に牛乳が腸をスピーディに通過してしまい消化吸収が不十分のまま大腸に到達して腐敗してしまうことが大きな原因です。
同じモンゴロイド系民族であるモンゴルの遊牧民は、日本人と同じくラクターゼはさほど多くないはずですが、それでも牛乳をはじめとした乳製品を主な食料として生活しています。
彼らが飲む牛乳は日本で流通している「超高温殺菌・ホモジナイズド牛乳」とは全く異なり、牛乳本来の「胃の中でゲル化する」性質が残っているため、腸をスピーディに通過することはありません。
十分に小腸で消化・吸収されてから大腸に到達するから、腐敗することもない。
だから牛乳で頻繁にお腹を壊すこともないのです。そもそも、そんなことがあったら初めから乳製品が主な食料にはなっていなかったはずです。
ということは、普段は牛乳でお腹を壊す人でも、パンという固形物になれば話は別ということ。
ただし個人差はあるのでよほど過敏な人は摂取を控えるか、少量から徐々に挑戦すると良いでしょう。