ストレート法、中種法、液種法など…
パンの製法には様々なものがありますが、これらの分類に関して多くの人が誤解している点があります。
この記事では、製パン法の分類について正しい考え方をご提案いたします。
- パンの製法に関する知識と理解が深まる
- パン作り以外でも役に立つ論理的思考力が身に着く
「オーバーナイト法で作ったらストレート法では無い」という間違い
えっ!?オーバーナイト法とストレート法って別物じゃないの??
オーバーナイト法とストレート法は、別物かどうかの問題以前にそもそも分類方法が全く違うのです。
どういうことか?わかりやすい例え話で説明します。
タロウ「私は日本人です。血液型はA型です」
ケイト「ボクはアメリカ人です。血液型はA型です」
この2人、決して変な事は言っていませんよね?
では、どちらか片方に対して
「血液型がA型なら、タロウは日本人じゃないよね?ケイトもアメリカ人じゃないよね?」
なんて言えますか?
当然、そんなこと言えませんよね。
人種と血液型はそれぞれ分類方法が全く違いますから、人種が異なっても血液型が同じになるのはおかしくありません。
実は、オーバーナイト法とストレート法の間にも同じような事が言えるのです。
これには製パン法の分類には2つのタイプがあることが関係します。
パンの製法は大きく分けると2種類
<ここに大分類の図解を添付>
「○○法」という分類には主に2つの属性があります。
一つは生地の仕込み方の属性。
ストレート法や中種法、液種法などミキシングにまつわる分類方法です。
中種法や液種法など発酵種を用いた製法はまとめて「発酵種法」に分類することができます。
湯種法は発酵種法ではありませんが、ミキシングの特徴を表す分類であり、ストレート法とも異なる性質を持ちます。
もう一つは生地の管理方法の属性。
一言で言うとオーバーナイト法がこれに入りますが、オーバーナイト法にも様々な種類があり、それらは全てミキシングの方法とは何も関係ありません。
そして、パンはミキシング無しには生地は作れませんから、必ずストレート法か発酵種法、あるいは湯種法のどれかに分類されます。その上で、オーバーナイト法かそうでないかの分岐があるのです。
ストレート法のオーバーナイト法とは?
ミキシングでは発酵種も湯種も使わず本生地を作り、その後のどこかの工程で生地を一晩寝かせれば「ストレート法のオーバーナイト法」になります。
さらに細かく分類すると…
- 分割丸め後のオーバーナイト→「ストレート法の生地玉冷蔵法」
- 成型後にオーバーナイト→「ストレート法の成形冷蔵法」
このようになります。
中種法のオーバーナイト法とは?
中種法で本生地を完成させた後、分割丸め後に一晩寝かせたら「中種法の生地玉冷蔵法」、成形後なら「中種法の成形冷蔵法」となります。
ここで一つ厄介な事があります。
中種法の中には中種を冷蔵で一晩発酵させて作る「冷蔵中種法」があります。
これも実質オーバーナイト法の一種と言っていいのかもしれませんが、それを言い出すと「老麺法」で使う古生地は基本的に前日の余り生地を一晩冷蔵していたものですから、古生地を1%でも入れた時点でそれはオーバーナイト法と言って良いことになってしまいます。
しかしそれではオーバーナイト効果はほとんど得られません。
線引きが曖昧かつ難しい点ですが、ここでは「冷蔵中種法」はあくまで中種の作り方(つまり生地の仕込み方)の属性として扱い、オーバーナイト法には分類しないこととします。
「オーバーナイト法」はあくまで本生地の管理工程において一晩寝かせた場合を言うことにしましょう。
オーバーナイトさせない製法にも名前が欲しい
「それはオーバーナイト法だから、ストレート法とは言えないよ!」
という間違いが生まれるのは、オーバーナイト法ではない通常の製法に名前が無いことも理由の一つだと思います。
ナイトをオーバーしないから、「オーバーじゃナイ法」なんて名前をとりあえずつけておくのはどうでしょうか…?(笑)
冗談はさておき、「発酵種法じゃない普通の製法」にストレート法という名前がちゃんとついているのですから、「オーバーナイト法じゃない普通の製法」にも名前があった方がわかりやすくないですか?
後塩法や加水法などは「飛び道具」
塩を最初から加えずミキシングの後半で加える「後塩法」や生地がある程度完成してから水を加える「加水法」などは、製法の分類と言うよりはテクニックの一種であり、いわば「飛び道具」のようなものです。
もし、「後塩法ならストレート法ではない」と言ってしまったら…
「塩の後入れをしただけでダメなら、なぜ油脂の後入れは後油脂法にならないの?」
という道理になってしまいますよね?
油脂は最初から入れるより後から入れることの方が一般的です。
それが普通だからわざわざ名前が付いていないだけです。
その代わり、最初から油脂を入れるのは一般的ではなため「オールインワン製法」という名前が付けられています。
「オールインワン製法ならストレート法じゃないよね?」なんて言えるわけがありません。むしろ最もストレート法らしいストレート法ですよね?
言葉の綾に振り回されないことが大事
ここまで「正しい分類の考え方」なんていう堅苦しい解説をしておきながら身もふたもない事を言いますが、製法の名前なんて正直言ってどうでも良いんです。
大事なのはどんな目的でどんな製法を手段として選べているのか、この一点のみです。
流石に、思いっきり中種使ってるのにそれをストレート法だと主張してたら「それ違くない?」と言うのは間違っていません。
しかし、製法名の中には個人が考案した新製法名も数多く存在します。その上で、名前なんてつけずにそれと全く同じ製法を自分で考案して行っている人だってこの広い世界には無数にいます。
「それは冷蔵中種法だから、中種法とは言えない」
なんて言うのは、
「あなたは東京都民だから、日本人ではない」
と言うのと同じこと。
誰かが公開しているレシピの製法名に違和感を感じたからと言って、そこに振り回されて本質を見誤ってしまうのは勿体無いことだと思いますし、「あなた、製法名間違ってますよ」という態度で突っ込むのはやめた方が良いでしょう。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- パンの製法の分け方には2種類ある
- 例えオーバーナイト法でもストレート法・発酵種法・湯種法のどれかに分類される
- 大事なのは製法の細かな名前よりも目的に見合った手段を選択出来ているかどうか
製パン法それぞれの特徴についてはコチラで詳しく学べますので、ぜひご覧ください!