ハチミツはパン作りでも良く使われる材料の一つですが、得られる効果として説明されているものの中には都市伝説のようなモノも多く、使い方を正しく説明されていない場合も多いです。
そこで、はちみつをパン作りで使うと、砂糖で作るのとでは実際にどんな違いが体感できるのか?比較検証を元に、本当に得られる効果と使う際の注意点をまとめました。
読者・視聴者様の声
ハチミツの甘味度についての真相に衝撃を受けました!
オススメのハチミツで作ったらすごく香ばしいパンが焼けました!
ハチミツを生地に練り込む効果は?
砂糖とハチミツでパンの違いを比較
正直「パン作り はちみつ」でGoogle検索しても、本当に効果を正確に検証したのか不確かな情報が多く、ネットや本で調べた内容をそのまま書き写しているような印象を受けました。
なので、実際に我々人間が感じられる範囲で得られる効果があるのかどうか検証するため、「上白糖で作るパン」と「はちみつで作るパン」を作り比べてみました。
検証で使った配合(レシピ)
結果だけ早く知りたい方はスキップしてください。
ここでは正しく検証を行った証拠を提示しています。
材料 | 上白糖パン(%) | 蜂蜜パン(%) |
強力粉 | 100 | 100 |
イースト | 1.2 | 1.2 |
上白糖 | 12 | |
はちみつ | 15 | |
食塩 | 1.8 | 1.8 |
脱脂粉乳 | 3 | 3 |
仕込み水 | 68 | 65 |
ショートニング | 6 | 6 |
今回の検証でのポイントはマーカー部分です。
はちみつは糖分80%と水分20%1が含まれています。
そのためはちみつを15%使うことで上白糖12%と同じ糖分量になります。
こうすることで同じ同分量でも甘味の強さが異なるかどうか比較できます。
更に、はちみつには水分が含まれているため仕込み水の量を調整しないと吸水過多となってしまいます。
はちみつの成分そのものの効果を知りたいのに、その調整をしないと得られる結果は「水が多すぎることによる効果」なのか「ハチミツの効果」なのかわからなくなります。
はちみつ15%の中に含まれる糖分が12なので、残りの3が水分量ですね。
なので、元の仕込み水68%から3を引いて、65%となります。
これでもし、同じ水分量でも生地の質感に違いがあれば、それは吸水過多による影響ではなく確実にハチミツ成分による効果であると判断できます。
生地感の違い
「ハチミツを使う生地はベタつく」とよく言われますが、そのような違いは感じられませんでした。
もちろん捏ねはじめはベタつきますが、それは上白糖生地でも同じことです。
最初からベタつかない生地があるとしたら、吸水量の少ないベーグル生地くらいです。食パン生地ならむしろベタつきが無い方がおかしいと言えます。
捏ね進めていくことでベタつきはほぼ無くなり、非常に良い生地が出来ました。
ただし、この実験は過去にこちらの動画にて別配合でやったことがあり、その時は生地感の違いも感じられなかったのですが…
この時とは使ったハチミツが違うのです。
だからなのか、今回の検証ではほんの少しだけハチミツ生地の方が柔らかい気がしました。
はちみつ生地の方が伸びやすく、よりハッキリと指紋が透けて見える薄い膜になっていますね。
ですが「ハチミツを使うとベタつく!」と騒ぐほどのデメリットは感じられません。
はちみつ生地の方が柔らかくなる要因を発見しました!
ほぼ同じ水分量であるハチミツと水あめがなぜ硬さに違いがあるのか?
それは主成分が何糖類であるかによって物性が異なることが原因でした。
糖の分子が多い多糖類ほど粘度が高く硬さが増す傾向にあり、水あめは主成分が多糖類(デキストリン)でハチミツは主成分が果糖とブドウ糖(単糖類)です。
だからあんなに質感が違うんだ!でも上白糖は…?
上白糖はショ糖(二糖類)です。
パン生地の中では上白糖もはちみつも仕込み水に溶け込んで「水溶液」となっているため、糖分量・水分量が等しいショ糖水溶液と果糖ブドウ糖水溶液を比較することになります。
となると、より粘性の高いショ糖水溶液で作った生地の方が硬さが増すのは不思議ではありません。
発酵スピードの違い
手ごねだと特に今の時期(冬場)は僕の手がとても冷たい故に、生地の温度を同じに捏ね上げるのが難しいです。
なので、はちみつ生地の方が少し温度が高く捏ねあがってしまい、故に少しだけ発酵が早いような気がしました。
では実際のところ理屈上はどうなのか?
実は上白糖よりハチミツの方がガスが発生し始めるタイミングが早いです。
ハチミツはブドウ糖と果糖という2種類の単糖類で成り立ち、どちらも酵母菌が直接分解することができる糖類です。
一方で上白糖はショ糖という二糖類です。
ショ糖はブドウ糖と果糖が結合したもので、この結合を一旦解かないと二酸化炭素とアルコール(又は水)に分解することができません。
このように上白糖で作った生地は、発酵によるガス発生までに手間が一つ増えるので、材料が混ざり合ってから炭酸ガスが発生するまでの時間が10分ほど長くなります。
このような理論から、ハチミツは上白糖よりも「膨らみ始めるのが」早いといえます。
僕は「発酵の立ち上がりが早い」って言ったりします。
※立ち上がりが早いだけで膨張速度そのものが早いとは断言できません。使うイーストが耐糖性なのか否かによっても変わります。
焼き上がりの違い
動画では目立つ違いは見られませんでしたが、これは違いがわかりますね。
特に違うのが焼き色です。(この写真だと色味がわかりづらいですが)ハチミツで作ったパンの方が焼き色が濃くなりました。
それはなぜか?糖分の種類によってメイラード反応による着色性に差があるからです。
糖分は種類によって分子の数が違い、分子量が多いほど着色性が低い傾向にあります。
ハチミツの主成分は単糖類(ブドウ糖・果糖)、上白糖は二糖類(ショ糖)です。この違いが焼き色に現れたと言えるでしょう。
では、動画の検証と今回の検証の違いは何か?
…実はイーストが違います。なぜイーストが違うと検証結果に差が出るのか?
耐糖性イーストの科学的な仕組みを知ることで理解できるかもしれません。
味の違い
メイラード反応は褐色物質と同時に香り成分も生成します。
そのためより焼き色の濃いハチミツ生地の方が香りは濃く感じました。
ですが、甘味の差はほとんど感じられません。
しいて言えばクラスト2だけほんの少し甘味が強い気がしたけど…
「ハチミツは砂糖の3倍甘い」は流石に言いすぎだと思えるほど、今回の検証では違いを体感できませんでした。
ハチミツにまつわるウソとホント
「ベタつきやすい」と言われるのはナゼ?
今回のレシピでの比較検証では、「はちみつでパンを作ると生地がベタつく」と言えるほどの変化は見られませんでした。
強いて言うなら少しだけ生地の柔らかさが増して伸びが良くなったぐらいです。
じゃあベタつきやすいってウソなの?
恐らく、正しい比較検証のやり方を知らない人が発信した情報が知れ渡ってしまったのだと思います。
例えば初心者の方がレシピのアレンジをした際に陥りがちなのが「ただハチミツをプラスするだけ」というパターン。
砂糖10g・水140gのレシピにハチミツ10gをただ加えるだけだと、当然ハチミツの分だけ糖分も水分も増えますから、ベタつくのは当たり前ですよね。
「砂糖をはちみつにただ置き換えただけ」のパターンもあるあるです。
砂糖15gをはちみつ15gにただ置き換えるだけでは、はちみつに含まれる3gの水分がありますから、使う水を減らさなければこれもベタついて当然です。
これらのやり方で現れた違いは「糖分や水分が元のレシピより増える事による効果」であって、「はちみつ自体の効果」ではありません。
こういった科学的な組み立てをしないまま情報を発信するサイトはすごく多いので、結果として一般的に知れ渡ってしまったのでしょう。
「パンがしっとりする」はウソ?
「ハチミツを使うとしっとりしたパンが出来上がる」という説明もよく見ますが、これも今回の実験では体感出来ませんでした。
じゃあしっとり感が増すっていうのもウソなの?
間違ったハチミツの使い方をした人が「しっとり感が増した」と感じて広めたのかもしれません。
置き換え換算をせずただ加えるだけなら、糖と水が増えることでしっとり感が向上するのは当たり前ですね。
もう一つ考えられる理由が、一見もっともらしい科学的根拠もあるから。
ハチミツのしっとり効果の理由として多く語られている理由が以下の2点です。
吸湿性
結合水
確かにハチミツの主成分である単糖類は、上白糖の主成分である二糖類よりも吸湿性が高いです。
ですがショ糖に吸湿性が全く無いわけではありません。
その上、ショ糖はパン生地の中で酵母菌によって一旦は果糖・ブドウ糖に分解されます(焼くまでにすべてが分解されることは無いと思いますが)。
更に焼成時にもショ糖はいくらか熱で分離し果糖・ブドウ糖になります。
二糖類は熱で分離し単糖類になって初めてアミノ酸と結合出来るようになります(メイラード反応)。
結合水とは、糖や塩の分子と結合した水分のこと。
逆に何とも結合せず自由に動ける状態の水分を「自由水」と言います。
自由水は蒸発しやすく菌の繁殖などにも使えてしまうのですが、結合水は自由に動けない水分なので蒸発もしにくく菌の繁殖にも利用されません。
ハチミツに含まれる水分はまさに糖と結合した結合水です。
だからハチミツで作ったパンの方がしっとり感が強いんでしょ?
ですが、パン作りにおいては例え上白糖で作った場合でも捏ねている間に仕込み水に溶け込むことで結合水が出来ますし、お菓子作りと違って焼成まで長時間を要するので、砂糖が溶け残ることは考えにくいです。
なので結合水という観点から見ると、ハチミツも上白糖もどちらも仕込み水に溶け込むことで結合水が存在することに変わり有りません。
ただし、結合水が発生する量で言うと確かに単糖類主体であるハチミツの方が多いのも事実です。
ただ、あくまで理論上であって少なくともパン生地で使用する程度の量では違いを体感出来ないのでしょう。
ですがカステラなど焼き菓子でのはちみつ使用でしっとり効果を体感したという声は良く聞きます。
焼き菓子系はパンよりも糖分量が圧倒的に多く、工程時間も短い、ミキシングも水ではなく卵と合わせて泡立てる場合が多く、パンとは異なる様々な条件によって体感でき得る差が生まれるのかもしれません。
「甘味が強くなりすぎてしまう」は本当?
今回の検証では、甘味度が特段高くなった印象はありませんでした。
なぜハチミツは砂糖より甘いと言われているのか?
- 果糖の甘味度がショ糖の1.2倍以上であるため。
- ショ糖はどの温度帯でも甘味度が一定だが、果糖は温度によってはショ糖の1.5倍の甘味度になるため。
このような理由を掲げて「ハチミツは砂糖の3倍甘い!砂糖の1/3量で同じ甘さになる!」と謳っている情報が多いです。
- ハチミツには確かに果糖が含まれているが、果糖とブドウ糖の2種類で成り立っており、ブドウ糖より果糖の方が少し多い程度。
- ブドウ糖の甘味度はショ糖の0.6倍と低い。
- 果糖の甘味度が跳ね上がるのはあくまで5℃近辺の低温度帯。パンをこの温度で食べる人はまずいない。
常温25℃で食べる場合と仮定すると、果糖の甘味度はショ糖の約1.2倍、ブドウ糖は0.6倍以下です。これだとブドウ糖が足を引っ張るので合算するとショ糖よりも甘味度が低くなります(蜂蜜の糖分割合がブドウ糖45:果糖55と仮定すると0.93となる)。
さらに40℃時点で果糖の甘味度はショ糖と同一に、それ以上になるとショ糖よりも甘味度は低くなります。
トーストして食べる場合を考えたら明らかにハチミツパンの方が砂糖パンより甘さが弱いということになります。
味覚の分野はとても複雑なので掘り下げきれないのですが、ミクロに考えるほどパン作りで砂糖をハチミツに変えると3倍も甘くなることは無いはずです。
ハチミツの風味は期待できるのか?
今回の比較検証ではパンからハチミツの甘い香りは感じられませんでした。
ですがこれは使うハチミツの種類によっても得られる効果は変わってきます。
マヌカハニーのようにクセの強いハチミツを25%と高配合で使用した場合、明らかなハチミツ風味が感じられました。
使用するハチミツ自体が香り高いものでなければ、小麦粉やイーストなど他の強い匂いに負けてしまうのです。
パン作りでハチミツを使う時の注意点
置き換え換算を行う事
パン作りでハチミツを使う時、いくつかの材料の割合を計算しなおす必要があります。
そうしないと元のレシピよりもベタつきが過剰に増してしまったり様々な影響が出ます。
具体的な置き換えのやり方については下の方の項目で専門的に解説します。
ガスの出始めが10分早くなる?
既に述べた内容ですが、ハチミツはブドウ糖と果糖で出来ていて、砂糖はショ糖で出来ています。
実はこれ、生地から炭酸ガスが発生し始めるタイミングにも影響を及ぼします。
コチラの項目で既に解説した通り、糖の分解の手間が一つ減るためガスが出始めるタイミングが約10分早くなると考えておいた方がいいです。
あくまで目安ですが、砂糖使用の生地なら材料を混ぜ合わせてから約30分後から本格的にガスが多く出て、はちみつの生地なら約20分後から多く出ます。
なので、手ごねを20分以内で終わらせられない人は注意が必要です。
ミキシング中にガスが発生してしまうと、ガス気泡がクッションとして働き圧力を分散してしまい、ミキシング効率が悪くなってしまいます。
…というのが科学的理屈です。
すごくミクロな話なので、これこそ体感できるかどうか微妙なところですが…
粉量300g以上など大きく生地を作って40分もコネコネしているような人はその辺を考慮した方がいいでしょう。
菓子パン生地での発酵阻害効果に要注意!
砂糖の量を25%など多く配合する菓子パン生地ですが、このように多すぎる糖分は逆に発酵力を阻害する、というのはご存じでしょうか?
糖分や塩分が増えれば増えるほど生地内部の「浸透圧」が上昇し、酵母菌の細胞内水分が脱水され活性が低下します。
(フルーツに砂糖をまぶしたり、野菜に塩をまぶすと水が出てくるのと同じです。ナメクジに塩をかけても脱水されて小さくなりますよね)
この浸透圧ですが、塩分なのか糖分なのかで強さが変わるのはもちろん、糖の種類によっても変わってくるのです。
二糖類よりも単糖類の方が、同じ量でも浸透圧が2倍になるため、それだけ発酵への影響が大きいのです。
耐糖性の金サフ使ってるから大丈夫でしょ⁉
実はそれ、違います!
なぜダメなのか?それは「耐糖性イースト」の仕組みを知ればわかります。
耐糖性イーストを使う意味も無くなってしまう
非耐糖性イーストはインベルターゼ活性が高いため、生地中のショ糖を猛スピードでブドウ糖と果糖に分解してしまうのです。
それら分解後の糖を炭酸ガスとアルコールに分解するのはチマーゼという酵素の仕事ですが、それがインベルターゼの仕事に追いつけなくなるのです。
すると生地中には単糖類が溜まっていき、浸透圧も上昇します。
つまり酵母菌は自ら分解した糖分によって結果的に自らの首を絞めているのです。
ところが耐糖性のイーストはインベルターゼ活性が低いので、ショ糖分解が遅く単糖類が溜まりません。
単糖類が生成されたらその都度チマーゼが炭酸ガスとアルコールに分解してくれるので、浸透圧の上昇も抑えられます。
だから、砂糖25%配合とかいう高配合であっても途中で発酵力が衰えたりしないのです。
じゃあ、その砂糖25%を全てハチミツに置き換えたらどうなるか?
はちみつ、つまり単糖類が25%あるということは、単純計算で砂糖50%分の浸透圧の強さがあると言えるのです。
耐糖性の要である「ショ糖分解の遅さ」が意味をなさなくなるため、菓子パン生地の砂糖を全量ハチミツに置き換えるのは注意が必要です。
砂糖をはちみつで代用する方法
ここではわかりやすく、上白糖を使うレシピで砂糖をハチミツに置き換えるやり方を、順を追って解説します。
材料 | BP(%) |
強力粉 | 100 |
イースト | 1.2 |
上白糖 | 8 |
食塩 | 2 |
脱脂粉乳 | 2 |
仕込み水 | 70 |
油脂 | 5 |
こんな感じのレシピだった場合…
まず糖分量を揃える
はちみつは約80%が糖分で、約20%が水分です。
なので、8÷0.8=10
10のはちみつを使えば上白糖8と同じ糖分量になります。
そこに含まれる水分量を計算
このままでははちみつに含まれる水分が余分なので、生地のベタつきが増してしまいます。
今度は使う水の量を計算しなおします。
はちみつの水分は先程申した通り約20%ですので
10×0.2=2
2の水分が含まれていることがわかりました。
※ハチミツは糖分と水分以外の成分はごく微量なので、10-8=2という計算で水分量を算出しても良い。
元の仕込み水から差し引く
70-2=68
これで置き換え完了です。
パン作りにオススメなはちみつの選び方
パンに何を求めるかで変わってくる
ここまで解説した通りはちみつにも種類があり、風味はもちろん化学的特性まで異なります。
なので、はちみつに対してどんな効果をパン生地内で発揮してもらいたいのか、それによってオススメは変わってきます。
はちみつの風味を求めるならクセの強いもの
ハチミツ風味の生地を作りたい!
そういうことであれば、あっさりしたハチミツでは他の材料の風味に負けてしまうのでクセの強いハチミツを選択する必要があります。
値段が高いものの方がクセの強いものは多いですが、アカシアはちみつなど高価でもあっさりしたハチミツもあるので一概には言えません。
オススメはマヌカハニーです。
こちらはマヌカハニーの中でもお買い得な値段で、一般的な純粋蜂蜜とは比べ物にならないくらい香りが際立ちます。
パン作りで使う以外にもはちみつバタートーストに使ったりしても美味しいです。ぜひ一度お試しください!
練り込み以外の手段なら…
「練り込み」は、素材の風味が最も薄まってしまう使い方です。
最も素材の風味を強く感じられる使い方は、トッピングです。素材の形がそのまま残っていれば他の材料の風味に邪魔されずダイレクトに味覚と嗅覚にアプローチされます。
なのでハチミツの風味を100%表現したいなら、トッピングとして使用するのが最も効果的です。
つぶジャムのハチミツ味を使う手もあります。
つぶジャムは常温では固形のためクルミやレーズンのように生地に混ぜ込むことが出来、焼成時の熱で溶けてゼリー状になる材料です。
一度溶けてゼリー状になれば再び固まることはありません。
普通のハチミツだと形を残して生地に混ぜ込むことは不可能なので、つぶジャムでしか出来ないアプローチが楽しめます。
「はちみつは砂糖の3倍甘い」コレって本当?検証してみた
最後に、はちみつにまつわる都市伝説「ハチミツは砂糖の3倍甘いから、1/3量で事足りる」という言い伝えの真相を解明していきましょう。
結論から言うと、恐らく大ウソです。
でも言い出した本人にとってみれば本当なのでしょう。それには理由があります。
以下に僕が行った検証について記述します。
まず、ハチミツと砂糖それぞれで同じ糖分量の水溶液を作り飲み比べました。
砂糖5g + お湯50g
ハチミツ6g + お湯49g
※なぜ砂糖が5gではちみつが6gなのか?先述の解説を読めばわかります。
この時、水溶液の温度がまだ熱い時はハチミツよりむしろ砂糖の方が甘く感じました。
だんだん温度が下がっていくうちにハチミツ水溶液の甘味が増してきて、完全に冷めてようやく砂糖の甘さと同等になりました。
しかし常温域ではお世辞にも「はちみつの方が3倍甘い」なんて言えません。
この時点で結果はわかりきっていますが、試しに「砂糖の1/3量で同じ甘さになるのか」という実験もしてみました。
砂糖6g + お湯50g
ハチミツ2g + お湯50g
結果は砂糖の圧勝です。
じゃあなんで「ハチミツは砂糖の1/3量で良い」なんて言い伝えが広まっているのか?
小さじで砂糖とハチミツを計量してみると、なんと小さじ1で取れる量が砂糖よりもハチミツの方が多かったのです!
量とはつまり重さのことです。
普段の料理でグラムではなく小さじ大さじなどの体積を基準に考えている人なら、「ハチミツは砂糖より少なくするのが丁度いい」と感じるのも無理はないでしょう。
(それでも「3倍」は言い過ぎだと思えますが)
ですが、体積で甘さを比較するのっておかしいと思いませんか?
「1㎤の角砂糖と1㎤のわたあめ、比較したら角砂糖の方が甘味が強かった!」って言われたら、「そんなの詰まり具合が全然違うんだから当たり前だろ!」って思いませんか?
それに果糖の甘味度は高くてもショ糖の1.5倍ですがブドウ糖は0.6倍です。
ハチミツは果糖とブドウ糖で成り立っており、その割合は果糖の方がわずかに多いくらいです。
結局ほとんどプラマイゼロになるのに、どこから3倍という数字が出てきたのか理解しがたいです。
ただ、しいて言うならハチミツや砂糖を単体で舐め比べる際に「3倍甘かった」と感じてしまった可能性はあるでしょう。
砂糖は舌の上で溶けて初めて甘味を知覚できますが、ハチミツは既に液体なので舌に触れてすぐ甘味を知覚できます。
この微妙なタイムラグも甘味の強さの感じ方には影響を及ぼすでしょう。
また、人間が感じる「味」は味覚だけでなく嗅覚や視覚による補完も含まれています。
「甘い香りを持つバニラを加えると甘味そのものまで強く感じる」という研究はよく知られていますが、東南アジアの国々ではバニラの香りからは「しょっぱさ」を連想するため塩味を強く感じるようになるそうです。
その観点で考えると、「3倍甘い」と感じた人はとても香り高い高価なハチミツを使っていたのかもしれません。
皆さんはこの問題、どう思われますか?
まとめクイズ
A.上白糖生地。
上白糖はショ糖であり、そのままの状態では酵母菌は発酵に活用できないので、酵母菌はインベルターゼ(ショ糖分解酵素)を使って一旦ブドウ糖と果糖に分解します。
しかしハチミツは果糖とブドウ糖で成り立っており、そのまま発酵に活用できるためインベルターゼを使う必要は無く、直接チマーゼで炭酸ガスとアルコール(又は水)に分解されます。
A.単糖類。
そもそもメイラード反応とは糖とアミノ酸が結合する反応であり、アミノ酸と結合できるのは単糖類のみです。
ではなぜ二糖類であるグラニュー糖(ショ糖)を使ったパンにも焼き色が付くのか?
二糖類は結合が弱い分子であるため焼成時の熱で分離して単糖類になってしまう傾向があります。分離してようやくアミノ酸と結合できるようになるため焼き色が付くのです。
あるいは、糖分単体で起こる「カラメル化反応」によっても焼き色は形成されます。
<脚注>