「老麺法」って実際どんな効果があるの?
中種法と老麺法って実際どっちが良いの?
パン作りの製法の中ではあまり詳しく解説されることのない「老麺法」ですが、実は多くのパン屋さんで使用されている製法です。
この記事では、老麺法でパンを作るメリット・デメリットや、ストレート法や中種法との違いについて解説します。
老麺法とは
老麺法とは、事前に発酵熟成させたパン生地を新たに作る生地の材料の一部として加えて作る製法です。
発酵した生地を材料として使うため、中種法や液種法と同じ「発酵種法」の分類として扱われることが多いです。
中種法とは何が違う?
発酵種がそのままパンになるかどうか
老麺法と中種法の決定的な違いは、完成された正規のパン生地を材料として加えるのか否か、という点です。
老麺法で使われる老麺(古生地とも呼ばれる)は、これから作ろうとしている生地と同じ生地か、あるいはフランスパン生地が使われることが多いです。
老麺がよほど過発酵にでもなっていない限り、老麺をそのままパンとして焼いても十分美味しいものが出来ます。
しかし中種法で使われる中種は基本的には粉・酵母・水のみで作られ、しかも水の量も少な目で固めの種に仕上げることが多いです。
そのため中種をそのまま焼いても美味しいパンにはなりません。
老麺はサブアイテムとして、中種はメインアイテムとして使われる
中種には材料に使うイーストのほぼ全量を入れる場合が多いです。
そして、工程全体を通して見た時に中種発酵の時間が長く設けられる代わりに一次発酵の時間が大幅に短くなります。
パン生地の発酵の深さを中種でほとんどまかなう、そんなイメージです。
一方、老麺はあくまで調味料的な感覚で使われることの方が多く、老麺の発酵力だけで本生地を発酵させることは特殊な場合を除いてあまり無いです。
老麺の配合量によっては一次発酵の時間を少し短縮することはありますが、中種法ほど大幅なカットはありません。
老麺は言うなれば「発酵風味料」や「製パン改良剤」の役割を持たせられていることが多いのです。
パン屋さんではこんな使い方をする
どんなに正確に分割しても、多少の誤差は出てしまうためパン屋さんでは生地が少し余ることが多いです。
余った生地を捨ててしまうのは勿体ないので、「古生地(老麺)」として冷蔵庫に一晩保存しておき、翌日同じ生地の仕込みの際に他の材料と一緒に混ぜて消費します。
この時に投入した古生地は、実際に作る生地量に対して微々たる量でしかないため効果はほとんど得られませんが、やってることは同じなのでこれも一種の老麺法と言えます。
また、フランスパンなどのハード系をなるべく短時間で美味しく作るために老麺法を用いることもあります。
無糖生地であるハード系はストレート法で作ろうとすると一次発酵だけでも最低3時間は要するため、かなりの早朝出勤を強いられます。
そこで老麺を20%程度配合することで、発酵時間を短縮しつつも同程度の発酵風味を再現することが可能となるため、職人の負担軽減に役立ちます。
翌日に使う老麺の分だけ多めに生地を仕込んでおけば、中種法のように仕込みが二度手間になることも無いため一石二鳥です。
老麺法の特徴
メリット
- 発酵風味の向上
- 発酵時間の短縮
- ミキシング時間の短縮
- コシの強い生地が出来る(※)
- 余った生地を有効活用できる
事前に充分な発酵をさせた生地を材料として使うことで、発酵風味豊かなパンに仕上がります。
その分、発酵時間を短縮することも可能です。
また、中種法と同じ原理でミキシング時間の短縮が出来る上、ストレート法よりコシの強い生地になります。
※ただし老麺に使用する生地が本生地配合よりユルいものであったりダレやすい粉で作られたものだと、逆にコシが弱くなる恐れもあります。
デメリット
- 素材の風味が弱まる
- 「捏ねない」製法には不向き
老麺法は他の発酵種法と比べて「ミキシング工程が二度手間になる」というデメリットが無いのが大きな特徴です。
老麺の仕込みは最初の一回だけ二度手間になりますが、その後は毎回多めに作って一部を翌日に回す「継ぎ足し」方式で作れば手間数はストレート法と大差ないからです。
しかし、老麺を生地全体に均一に混ぜるためにはある程度捏ねる必要があるため、「捏ねない」製法では不向きと言えます(中種法と同様)。
老麺法とストレート法で比較してみた
一般的な老麺法では老麺は20%程度しか使われません。
しかし今回は老麺法で得られる効果を最大限に体感するため、老麺60%配合の「スーパー老麺法」でストレート法と比較検証してみました。
老麺の量を少なくするほど、ストレート法の特徴に近づいてくる。そのように考えながら実験結果をご覧ください。
生地感の違い
ストレート法に比べて老麺法で作った生地はコシが強めです。
老麺は一晩じっくり寝かせている間にグルテン酸化1が進んでいるため、強い生地と言えます。
既に完成された強い生地を材料として加えることで、短時間の捏ねで強い生地に仕上げることが出来ます。
発酵力の違い
老麺は基本的に一次発酵まで完了した状態の生地を冷蔵保管して使用されます。
「老麺=一次発酵を経て酵母菌が活性化した生地」を材料として加えることで、老麺を全く使わないストレート法に比べて発酵力はやや強くなります。
焼き上がりの違い
最初に目につくのは焼き色の差です。
同じ条件で焼成したストレート法に比べて、焼き色がやや薄くなっているのがわかります。
焼き色が薄くなった原因は主に以下の2点です。
- 発酵が早く進み糖分がより多く消費された
- 老麺自体が既に糖分を消費されているから
今回は老麺法の効果をしっかり体感するために、あえてストレート法と同じ工程で進めました。
発酵力が強くなる老麺法では普通は発酵時間を短縮します。
短縮しなかったがためにストレート法より発酵が深く進み、生地の糖分残留が減ってしまったのです。
加えて、老麺は「既に発酵させた生地」ですから、糖分もある程度消費された生地です。
そのため、ミキシングの段階で既にストレート法より老麺法生地は糖分残量が少なくなっていたと言えます。
また、大きさも差があります。
老麺法の方が上方向に高く膨らみ、ボリューミーな印象です。
コシが強く丈夫な生地となったことで、ガス保持力が向上し発酵で発生した炭酸ガスや焼成での急激な膨らみをしっかり抱え込むことが出来ている、ということです。
コシが比較的弱いストレート法の生地は生地がダラっとして上に伸びる力が劣っていたと言えます。
味や香りの違い
老麺法はクラスト2の香りは弱くなる代わりに、クラム3の発酵風味が香ばしくなります。
一次発酵は同じ時間で作ったのに、なんで香りに差が出るの?
それは老麺自体が既に発酵が進んだ生地だからです。
老麺を配合した生地は一次発酵を120分させると実質の発酵具合は120分以上だと言えます。
だからこそ、発酵時間を短縮できるということです。
本来、老麺法では一次発酵を短縮すべきなのですが、今回は効果の比較なので同じ時間で作りました。
なんで皮の香りは弱くなるの?
理由は大きく二つあります。
一つは発酵具合がより深く進んで残留糖が少なかったために「メイラード反応4」が浅くなったこと。
焼き色と香りは比例します。
もう一つは発酵種法で作ったパンはストレート法に比べて粉の香りが弱くなる傾向があるから。
理由は様々ありますが、グルテンの酸化度合いの強いことが大きな要因と考えられます。
まとめのクイズ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
A.短くなる。
既に完成していて尚且つグルテン酸化が進んだ生地を材料の一部として使用するため、本生地の完成は早くなります。
A.×
発酵種法で作ったパンは基本的に直捏法に比べて粉の香りは弱まります。
その代わり、発酵風味は際立つためクラムが香ばしくなります。
老麺法は最も手軽に出来る発酵種法です。
特に配合の調整をすることもなく作れるので、ぜひ一度はトライしてみてください!
<脚注>