液種法の特徴とストレート法との違いをプロが解説【ポーリッシュ法だけじゃない!?】

液種法

液種法ってなんだか難しそうだけど、どんなメリットがあるの?

中種法とはどんな違いがある?

ストレート法や中種法についてはその知識と認識が広く知れ渡っているようですが、液種法についてはあまり知られていないのが実情です。

実は、液種法にはポーリッシュ法以外にも様々な方法があるのをご存じですか?

この記事では様々な液種法の特徴や他の製法との違いについて解説します。

液種法とは

液種法えきだねほうとは、事前に液状の発酵種を作ってからそれを本捏ね時に加える製法で、中種法に並ぶ発酵種法の一種です。

ポーリッシュ法が最も一般的な液種法なので「ポーリッシュ法=液種法」として広く認知されていますが、実はそれ以外にも様々なタイプの液種法があります。

それぞれで微妙に特徴も異なるので、それぞれ詳しく見ていきましょう!

ポーリッシュ法

ポーリッシュ種

ポーリッシュ法(フラワーブリュー法)とは、使う粉の約2割を事前に水・少量の酵母等と混ぜ合わせ、数時間常温で発酵させた後に冷蔵庫で一晩寝かせて液種を作る手法です。

この時に使う水の量は粉と同量かそれ以上なので、中種と違ってかなりゆるい発酵種となります。

水分量が多い環境では酵素活性が高まるため、粉のでんぷん分解をはじめ様々な微生物の働きも促進されます。

特徴

小麦粉に付着していた乳酸菌の働きにより、粘性のある多糖類「デキストラン」が生成されます。

デキストランにはパンのしっとり感や保湿性を向上する効果があることがわかっています。

これは排水溝のぬめりなどでもよく見られる成分で、細菌が自己の細胞を乾燥など外的ストレスから守るために生成したものです。(デキストラン自体は無味無臭なのでご安心ください。)

同様に粉に元々含まれている酵素の働きによって、でんぷんやたんぱく質が分解され、麦芽糖や旨味成分アミノ酸が生成されます。

これらは味わいを濃厚にするのはもちろん、パンの焼き色と香りの元となる焼成時の化学反応「メイラード反応」で必要な物質のため、焼き色は濃くなり香りも向上することが期待できます。

更に乳酸菌の働きによって同様の効果を得られますし、同時に様々な有機酸などが生成され複雑で奥行きある発酵風味を得られることが期待できます。

粉を使わない液種法

液種法というと少量の粉を使用して作るポーリッシュ法が一般的ですが、実は粉を使わない製法も存在します。

アドミ法
アドミ法の液種

アドミ法とは、使用する仕込み水の約半量に予め砂糖・塩・酵母と脱脂粉乳を加えて数時間常温で発酵させた後に冷蔵で一晩寝かせて液種を作る製法です。

液種法の印象として広く知られているのは粉の一部を使うやり方ですが、この製法は粉を使わないことが大きな特徴です。

代わりに脱脂粉乳を使うことで、緩衝作用1により液種のpH低下を一定範囲内で収まるようにしています。

ブリュー法

ブリュー法とは、使用する仕込み水の約半量に予め砂糖・塩・酵母と炭酸カルシウムを加えて数時間常温で発酵させた後に冷蔵で一晩寝かせて液種を作る製法です。

アドミ法と似ていますが、こちらは緩衝剤として脱脂粉乳ではなく炭酸カルシウムを使用するのが特徴です。

ポーリッシュ法との違いは?

ポーリッシュ法と大きく異なる点は、粉と一緒に発酵熟成させるか否かです。

ポーリッシュ法では粉に付着している乳酸菌の働きや酵素の働きが期待できる一方、これらの粉を使わない液種ではそれが期待できません。

そのため複雑な発酵風味や甘味・旨味の向上という点では劣ります。

また、粉の水和を事前に進められるかどうかという点も異なります。

パンの保湿性を高めるには、粉と水を合わせた状態をより長く設けることが重要です。

ポーリッシュ法では粉の2割を多量の水と長時間寝かせるので、その2割の水和率はかなり高くなりますが、アドミ法とブリュー法ではその恩恵が得られないので、やはり保湿性の観点から見ても効果が劣るでしょう。

特徴の違いについての注意点

これらの液種法が紹介されている書籍では、その参考として提示されているレシピにはイーストフードや製パン改良剤などが使用されています。

製法に応じてそれらの使用量が微妙に異なるのと、その他の配合も差があります。

特にアドミ法には脱脂粉乳が使われている一方で、ポーリッシュ法とブリュー法には使われておらず、その状況で「アドミ法は甘い香りがする」という説明が記されています。

ですがこの比較は純粋な製法の違いによる比較と言うよりも、脱脂粉乳の有無による違いと言えそうです。

もし、純粋に製法の違いによるパンの変化を知りたいなら、水以外の配合は極力同じに揃えて比較をしないと正確な原因を突き止められないでしょう。

液種法とストレート法の違い

実際に液種法とストレート法にどれだけの違いがあるのかを比較してみました!

液種法とストレート法の違い
参考レシピ

アドミ法

材料BP%
液種IDY0.7
上白糖3
食塩1.5
脱脂粉乳3
30
本捏強力粉100
IDY0.2
上白糖3
食塩0.5
33
油脂6
吸水合計63%
液種27℃ 4時間
一晩冷蔵
一次発酵27℃ 40分

ポーリッシュ法

材料BP%
液種強力粉20
IDY0.7
上白糖2
食塩1
50
本捏強力粉80
IDY0.2
上白糖4
食塩1
脱脂粉乳3
13
油脂6
吸水合計63%
液種27℃ 4時間
一晩冷蔵
一次発酵27℃ 40分

ストレート法

材料BP%
強力粉100
IDY0.9
上白糖6
食塩2
脱脂粉乳3
68
油脂6
吸水合計68%
一次発酵27℃
90P30

イースト(IDY)の量は全て統一した上で、それぞれ最適な工程時間を選択。

※IDY…インスタントドライイースト(Instant Dry Yeast)

実際、違いはわかる?

このミニ食パンでの比較実験では、ストレート法とポーリッシュ法の間では微妙な味の違いをギリギリ感じ取れたものの、正直ほとんど同じと言っていいレベルの差でした。

唯一、ポーリッシュ法は焼きたての香りが他より濃厚な印象がありましたが、時間が経つとその差も目立たなくなりました。

実は液種法などの製法比較では、使用する粉のスペックや比較の条件で結果が大きく変わってきます。

粉の種類で効果の程が変わる

小麦粉

結論から言うと、酵素活性の高い粉を使うほどポーリッシュ法の効果は高まります

ミニ食パンでの実験では、ソフト系のパン作りでよく使われる北米・カナダ産小麦主体の強力粉(イーグル)を使用しました。

似たような粉は他にもカメリヤなど多数ありますが、この手の強力粉は主に工場での大量生産向けに製粉されていると言えるもので、酵素活性が低い傾向にあります。

酵素活性が高いと自己消化2が進みやすく生地管理の難易度が上がるため、大量生産では酵素活性が低く扱いやすい強力粉が重宝されます。

ですが、粉と水を合わせて長時間寝かせるポーリッシュ法においては、酵素活性が高い粉を使う方が麦芽糖アミノ酸がより多く生成されるため味の変化も大きいです。

シンプルなパンほど違いが目立つ

ミニ食パンでの実験のほかにフランスパンでの比較実験も行ったところ、こちらは味も香りも明確な違いを感じられました。

ポーリッシュ法とストレート法の違い

ストレート法とポーリッシュ法での比較ですが、明らかに後者の方が味が濃く、クラムから香る発酵風味もより濃厚でした。

ストレート法はフレッシュで明るい香りの印象ですがパンチが弱く、特にクラムの発酵風味は弱い印象です。

(本捏ね後の一次発酵はポーリッシュ法の方が60分短いにも関わらず、です。)

味の濃厚さに大きな違いが出た理由は、使用した粉がそれなりの酵素活性を誇る「リスドォル」であったからだと推測できますが、発酵風味の濃厚さが際立つのは副材料が無いパンであるからという理由が大きいでしょう。

作業性の違い

一般的に液種法で作ると生地のベタつきが増すため吸水量を減らした方が良いと言われています。

その理由は液種に生成されるアルコールと、ポーリッシュ法では粉の酵素分解です。

アルコールにはグルテンを軟化させる作用があり、パン生地を発酵させると生地が緩くなる要因の一つともなっています。

液種法ではこのアルコールが事前にいくらか生成されるため、本捏ねでは実質アルコールを加えているようなものです。

結局、どっちが美味しい?

液種法(特にポーリッシュ法)はクラムの味と香りが強化されるため、ストレート法よりも美味しくなると思いきやそういうわけでもありません。

ストレート法のフレッシュな素材の香りは、特にクラストから強く香りますし、クラムの味と香りがあっさりしている特徴はメリットになる場合もあります。

アヒージョ

例えばアヒージョのオイルに漬けて食べるシチュエーションだと、ポーリッシュ法の濃厚さはオイルの濃厚さと喧嘩してあまり良さが目立たなくなる一方で、ストレート法だとクラムの淡白さをオイルが補い、クラストの強い香りも同時に楽しめるためバランスが良い印象があります。

料理のお供にはストレート法が良いってこと?

ナオキパン
ナオキパン

それは料理の種類によっても変わってくるでしょう、一概には言えません。

使う粉の種類によってもストレート法と液種法のどちらに適正があるか変わってくるでしょう。

香りは強いがクセが気になる粉はじっくり深い発酵をさせることでクセが緩和されることもあるので、そういうタイプの粉なら液種法が適任でしょう。

逆に個性はあって魅力的な香りだけどパンチは強くない、そんな粉ならなるべく香りを逃さないようストレート法で作った方が良さを十分に活かせるでしょう。

どちらが良いか、それは実際に作って試してみるしかありません。

ポーリッシュ法にまつわる誤解に注意!

「捏ね時間が長く大変になる」は誤解

ポーリッシュ法の記述としてネット上では稀に「水分が多いから生地のまとまりに時間がかかるため、根気よく長く捏ねる必要がある」と書かれることもありますが、これは大きな誤解です。

水分が多いのはあくまでポーリッシュ種であって、本捏ねでの水分量は調整されているはずです。

また、「ポーリッシュ法はベタつくんから捏ね時間も長くなる」という理屈で考える人もいますがこれも誤解。

生地感が同じ程度になるよう水分量調整されたレシピであれば、ポーリッシュ法だからといって捏ね時間が長く必要になることはありません。

粉と水が同量程度のポーリッシュ種だと長時間寝かせることである程度グルテンも繋がるため、理論上は短くできるくらいです。

「水分を多くしてグルテンを壊す」は語弊がある

水分

「多量の水と混ぜるとグルテンが壊れる」という情報もネット上に見られますが、この記述は間違いです。

もちろん水を多くするほどグルテン形成はしづらくなるのは事実ですが、決して壊しているわけではありません。

もし、多量の水分と粉を混ぜ合わせてグルテンが壊れるのだとしたら、パン・ド・ロデブなど様々な高加水パンは全く膨らまないはずです。

ですがちゃんと膨らみますよね?

グルテンが壊れているように感じるのは、ベタつきが増したり生地が緩くなる傾向にあるからでしょう。その原因は以下の三点です。

  • でんぷん分解酵素による麦芽糖の増加
  • たんぱく質分解酵素によるグルテン軟化
  • 液種発酵で生成されたアルコールによるグルテン軟化

ただ一つ、本当にグルテンが壊れる要因を挙げるなら液種の過発酵です。

過発酵によりpHが酸性に傾きすぎると、グルテンの柔軟性が著しく損なわれ全く伸びなくなります。

グルテンが伸びない生地はブチブチと切れてしまうため、捏ねても捏ねても生地は完成しません。

この状態は「グルテンが壊れた」と表現しても良いでしょう。

まとめ

ここで学んだポイントをおさらいしましょう!

  • 主な液種法として挙げられるのはポーリッシュ法の他にアドミ法、ブリュー法がある。
  • ポーリッシュ法では濃厚な味わいと発酵風味が得られる。
  • 使う粉の酵素活性の強さ次第でポーリッシュ法の効果も大きさも変わる。
  • ストレート法と液種法、どちらが美味しいかはシチュエーションや使用材料で変わる。

液種法とストレート法を使い分けることで、作れるパンの幅が広がります。

ぜひ一度、作り比べて違いを体感してみてください!


<脚注>

  1. pHの低下や増加を緩やかにする作用。 ↩︎
  2. ここでは小麦粉に含まれていた酵素が小麦粉のでんぷんやたんぱく質を分解してしまう作用を指す。 ↩︎
この記事を書いた人
パン作り研究家
ナオキパン

当サイト及びYoutubeチャンネル「パン作りの教科書 / ナオキパンchannel」を運営。
パン作りのコツや製パン理論を科学的な観点からわかりやすく解説し、パン作り上達の楽しさを広めることに加え、正確な製パン情報の普及に努める。
ベーカリーや食パン専門店など数々のパン店立ち上げや現場責任者の経験有。
自律神経失調症によりパン業界を一時離脱した際に、自身の知識と経験が誰かの役に立つことを願い、2022年5月から本格的に情報発信活動を開始(現在は寛解しゆる~く復帰)。
パンシェルジュ一級。

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