ストレート法だとすぐパンがカチカチになる…
中種法ならふわふわになるって聞いたからやってみようかな
ちょっと待って下さい!
実はそれ、大きな間違いです!
中種法と聞くと、誰でも簡単にパン屋レベルのふわふわパンが作れる魔法の製法のように捉えている方も多いですが、実際はデメリットも多くあります。
この記事ではパン作りの製法の一つ「中種法」について、ネット上に数多くある誤解を解明しながらその特徴やメリット・デメリットについて解説していきます。
- 中種法とストレート法の仕上がりの違いがわかるようになる
- 中種法に最適なパンの種類がわかる
- 中種法にまつわる誤解を解決できる
読者・視聴者様の声
中種法が意外と万能じゃないことがわかり
基本が大事なんだと実感しました
今までイマイチだった○○パンを
中種法で作ってみたら過去一の出来になりました!
中種法の特徴
中種法(なかだねほう)とはパンの製法のうちの一つで、使う粉の一部(または全部)を取り分け事前に水・酵母と混ぜ合わせて中種を作り発酵させた後に、残りの材料と混ぜ合わせて本生地を作る、ミキシングが二段階となる製法です。
このように事前に発酵させた生地を本生地作りで混ぜ合わせるため、「発酵種法(はっこうだねほう)」の一種として扱われます。
通常の製法(ストレート法)と比べると手間が増えるように見えますが、いったいどんな特徴があるのでしょうか?
以下に中種法のメリット・デメリットについて解説します。
メリット
- ミキシング時間が短縮される(本捏ねがラクになる)
- 扱いやすい生地で機械耐性も高い
- 材料や工程の影響を受けにくい
- 酵母菌の活性が高まる
- 完成品のボリュームアップ
中種自体はほとんど捏ねずに作りますが、発酵させている間にグルテン酸化が進むため、本捏ねの時点では既にグルテンがある程度繋がった状態と言えます。
ストレート法だと本捏ねの時点ではそもそもグルテンすら出来上がっていないただの粉ですから、ミキシング時間が短縮されるというのも容易に想像できますね。
手ごねでのパン作りにおいては、捏ね時間が短縮されることで良い生地をよりラクに捏ね上げることができる手法と言えるでしょう。
「グルテン酸化」って何?
生地の発達に欠かせない科学的メカニズムです。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また、中種の段階で発酵をかなり進めているため、本捏ね後の一次発酵はストレート法と比べてかなり短時間です。
一次発酵がゼロまたは少ない生地は、捏ね上げ直後の柔軟性が残っているためしなやかで丈夫です。
そのおかげもあって傷みにくく扱いやすい生地です。
機械製造ではこの柔軟性が助けになり、機会を通した後の生地傷みも最小限に抑えられますし、手作りの場合も「丸めすぎて生地が破れる」といったスキル不足によるリスクも少なくなります。
簡単に言えば「パン作りの工程のシビアさが減る」といったところでしょうか。
パン作りでは使う副材料によっては、生地の質感や発酵力にマイナスの影響を及ぼすものもあります。
例えばココアパウダーはストレート法で最初から加えると、確実にグルテン形成を阻害しガス保持力の弱い生地になります。
スキムミルクなど乳成分の多用は、発酵による生地pHの低下を抑止してしまうため、発酵力向上の妨げになります(緩衝作用)。
ですが中種法なら、先にある程度グルテン結合を進められるためココアパウダーを使っても伸びの良い生地ができますし、中種発酵で先にpHが低下するのでストレート法で最初から緩衝作用を受けることに比べたら幾分マシです。
このことがいわゆる「材料の影響を受けにくい」というところでしょう。
そして同じイースト量で作るストレート法に比べて、本捏ね以降の酵母活性が高まる傾向にあります。
これは事前に発酵させる中種のpHが発酵に最適な弱酸性に傾くことや、2回目のミキシングで再び酸素が生地内に供給されることで酵母菌の呼吸が促されることなどが関係しています。
「パンチによって生地に新たな酸素が入り、発酵(呼吸)促進される」というのはご存じの方も多いかもしれませんが、中種法における本捏ねにはとても強いパンチ効果があるとも言えますね。
強くしなやかな生地が出来て、なおかつ発酵力も向上する。
こうした理由から結果的にパンのボリュームが大きくなります。
デメリット
- 粉の風味が薄れる
- 手間が増える
- 中種を置いておくスペースが必要
中種法で生地を作るとグルテンの酸化が進みやすく、それは生地の強さやボリュームアップに貢献する一方、粉が本来持っている風味が薄れる原因にもなります。
実際、ストレート法と中種法でパンを作り比べると、焼き上がりのパンの香りは前者の方が確実に際立っています。
そして何より手間が増えるというのが大きなデメリットです。
特に生産効率を重視したいベーカリーの現場では、大きな中種を仕込むだけでも一苦労な上、それを発酵させるために店内の一部スペースが潰れることになるため、狭い厨房だとそもそも厳しい場合もあるでしょう。
「中種法はストレート法よりパンがしっとりする」は本当か?
中種法はストレート法より
パンがパサつきにくいんだよね!
実は…そういうわけでもないんです!
製パン技術書に書いてある中種法のメリットには、確かに「しっとり感の向上、老化の遅延」があります。
しかし、そういった解説の中で基準として挙げられている中種法レシピは「中種4時間発酵」の食パン生地です。
対するストレート法の基準レシピは「一次発酵2時間」の食パン生地。
確かにこの基準なら「中種法がしっとりしたパンになる」というのも正しいのですが、中種法には1時間発酵や短くて30分発酵のタイプもあります。
そのような短時間発酵中種のタイプだと、他の製法に比べてしっとり感が勝るということはありません。
極端な話、一次発酵2時間ストレート法と中種1時間発酵を比べたら、前者のストレート法が勝ります。
なぜかというと、そもそもパンの保水性の大小に影響を与えるのは「水和」だからです。
水和はミキシングによってもある程度は進みますが、
そのため、より長時間寝かせた生地の方が水和が進み保水性の高いパンになるのです。
仮に同じ配合で作り比べたストレート法と中種法において、明らかにストレート法の保水性が劣っていると感じたのであれば、そもそも上手に作れていないだけかもしれません。
しっとり感やふんわり感などの食感に関しては、完成品のクオリティ次第で感じ方に大きな差が生まれます。
ストレート法で上手に作るには正しい捏ね方やこね具合をはじめ様々な要件をクリアしなければならない一方、中種法では難易度が少し下がるため、クオリティに差が生まれてストレート法が製法的に劣っていると感じてしまうパターンも多いです。
様々な種類の中種法、その違いについて
中種法と一言で言っても、作り方や配合割合の違いによって様々な手法があり、得られる効果も微妙に異なります。
ここでは一般的に見られる中種法の種類とその違いについて解説します。
50%中種法、70%中種法、100%中種法…
製パン技術書などで最も基本的な中種法として紹介されるのは70%中種法です。
これは粉の70%を中種に使い、残りの30%を本捏ねの際に加える製法です。
中種に50%の粉を使えば50%中種法、100%使えば100%中種法…と呼ばれることになります。
(あくまで便宜上このように呼ばれるだけで、正式名称が個別に決まっているわけではない)
このように中種に使う粉の割合を変えることで、中種法の恩恵をどれだけ強く得られるのかが変わってきます。
逆に言うと、中種法のデメリットを抑えたい場合に使う粉の割合を少なくすることが多いです。
例えば50%中種法なら、中種法のメリットが半分になる一方でデメリットも半分になります。
粉の風味もある程度残したい場合に採用されることが多いです。
100%中種法だと粉の全てが中種に使われ最も粉の風味は弱まるので、ココアパウダーや抹茶パウダーなど副材料の風味を重視する場合に採用すると効果的です。
宵種法(オーバーナイト中種法)
ごく少量のイーストと通常より少ない水で硬めの中種を作り、一晩(10~15時間)常温で発酵させる製法です。
通常の中種法だとかなり早めに出勤する必要がありますが、この製法なら前日の最後の作業で中種を作れば当日の出勤時間を遅らせることができます。
本捏ね開始のタイミングも大幅に融通が利くので効率のいい製法です。
しかし常温で長時間発酵させるため酸味が出たり発酵が進みすぎる恐れもあるため、脱脂粉乳や食塩を入れたり季節によってイースト量を調整するなどして、発酵具合を上手くコントロールする必要があります。
なぜ脱脂粉乳を入れると
発酵具合をコントロールできるの?
乳製品には生地のpH変動を抑える
「緩衝作用」があるからです。
加糖中種法
菓子パン生地など砂糖を20~30%配合するレシピでよく採用される製法です。
通常の中種には砂糖は入れないところ、この製法では砂糖を少量(使う砂糖の2割程度)入れて中種を作ります。
本捏ねでいきなり全量の砂糖を入れる場合に比べて生地内の浸透圧上昇が緩やかになることによって、浸透圧による発酵力の低下を抑えることができます。
中種法にピッタリなパンは何?
粉の風味が薄れるなら
中種法ってあまり良くないんじゃない…?
実は、そのデメリットすら凌駕する
オススメの使い道があるんです!
小麦の香りが際立つパンは確かに美味しいですが、それは全てのパンで重要というわけではありません。
具材の主張が強い惣菜パンや中身で勝負の菓子パンなど、これらのパンにおいては使う粉の違いによる風味の差を感じ取れる人はかなり少ないでしょう。
ここでは中種法のデメリットがデメリットにならず、かつメリットの恩恵をよりありがたく感じられるような、中種法にうってつけなパンの種類について解説していきます。
高配合でリッチなパン
基本的にパン生地は副材料が少なければ少ないほどグルテン結合がスムーズです。
反対に砂糖や卵、油脂といった副材料が多い配合だとミキシングに時間がかかります。
特に砂糖が高配合の菓子パン生地、そして卵とバターが高配合のブリオッシュ生地は、手ごねでクオリティの高い生地を作るのはコツを押さえていてもそれなりの体力を使います。
そこで中種法を採用することで、手ごねの体力負担を大きく減らすことができます。
また、リッチなパンの多くはよりふんわり柔らかく仕上げた方が美味しいです。
そして、小麦の風味よりも卵・バターの風味や中身の具材の味で勝負するパンがほとんどです。
なので例え中種法で粉の風味が薄れたとしてもそれで物足りなさを感じることはほぼ無い上、中種法のメリットであるボリュームアップの恩恵はしっかり効果を果たすため一石二鳥です。
なぜ砂糖・卵・油脂が多いと
ミキシング時間が長くなるの?
その理由については、それぞれの材料の効果について
解説している記事でご覧になれます!
下記をご参照ください。
https://naokibread.com/sugar_effect/
https://naokibread.com/oilfat_effect/
パウダー系の副材料を使うパン
ココアパウダーや抹茶パウダーなどを練り込むレシピで、生地の繋がりや伸びが悪く感じたことありませんか?
基本的に小麦粉以外の粉物はパン生地にとっては異物であり、特にこうした風味系のパウダーは生地の伸展性にもマイナスの影響を与えがちです。
伸展性の悪い生地ではクリームなどを包み込む「包あん成型」の難易度がグンと上がりますし、とじ目の破裂やクリーム流出の危険性も高くなります。
そこで中種法を採用することで生地の繋がりは改善され伸展性の良い生地が得られ、包あん成型もしやすくなるでしょう。
また、このタイプのパンなら粉の風味が薄れることがむしろメリットになります。小麦粉の風味が薄れる代わりにこれらのパウダーの風味が際立つからです。
大物具材を練り込むパン
くるみやレーズンなど大き目の具材を練り込んだ生地は、プレーンの生地に比べて膨らみが劣ります。
どんなにしっかり捏ね上げた生地であっても、その具材が存在する空間においては物理的に生地の繋がりが断ち切られているからです。
そこで中種法を採用することでより強い生地を用意することができ、具材による膨らみの劣化を補うことができます。
ただしこの類のパンだと必ずしも具材勝負というわけではないので注意が必要です。
例えば「くるみのハードトースト」ならくるみの風味と小麦の風味、その相乗効果を楽しむパンです。粉の風味が薄れてしまうのはもったいないですね。
採用するならそこそこリッチな生地の場合か、具材の練り込みがとても多い場合がベストでしょう。
中種法には向かないパン
- 粉の風味を際立たせたいパン
- あまり捏ね過ぎたくないパン
中種法では粉の風味が薄れてしまうデメリットがあるため、粉の風味を際立たせたいリーンなパンには向きません。
また、元から捏ね時間が短いハード系のパンで中種法を使うと、こね具合を控えめにコントロールするのが難しく捏ねすぎてしまうことになります。
こういったパンの場合は、中種法ではなくストレート法や他の製法で作る方がより良い結果を得られるでしょう。
例えばどんなパン?
バゲット、バタールなどのフランスパンや
セミハード系のパンも微妙かも?
初めての中種法にはコレ!基本のマスターレシピ
ストレート法のレシピを中種法に変換する方法
ストレート法のレシピを中種法に置き換えて作る場合、配合や工程の調整が必要です。
- 粉の何%を中種に使うか
- 仕込み水の総量を少し減らす
- 一次発酵を短時間にする
それぞれ詳しく見ていきましょう!
粉の何%を中種に使うか
これに明確な正解はありませんが、自分がどんなパンにしたいのか、その目標に一番近づく選択が正解と言えます。
- 粉の風味を残したいのか、残さなくて良いのか
- 中種法のメリットをどれだけ得たいのか
粉の風味を残したいなら中種に使う粉の割合は少ない方が良いですし、中種法のメリットを最大限に得たいなら100%中種に使うのがベストです。
ざっくりで良いので、完成品イメージをしっかりと思い浮かべて考えましょう。
仕込み水の総量を少し減らす
ストレート法から中種法にする場合、同じ水分量だと生地のベタつきが強くなるため少し減らす必要があります。
使う粉やその他の配合によって変わってきますが、一般的な目安として3~5%は減らすことになると考えておきましょう。
一次発酵を短時間にする
中種の段階で発酵をかなり進めるため、その分だけ一次発酵の時間を減らさないと過発酵になります。
一般的には約15分の発酵時間で事足りますが、中種の配合や発酵時間によってその時間も変わってきます。
一次発酵がより短時間になる主な要因は次の三つです。
- 中種に使う粉の割合が多い
- 中種に使うイーストが多い
- 中種に副材料(脱脂粉乳など)を入れない
次に紹介する「ストレート法から中種法への変換例」をベースにした上で、更に自分でアレンジを加える場合にはこれらの点を考慮して発酵時間を調整しましょう。
ストレート法から中種法への変換例
ストレート法のレシピを中種法に変換する際の参考として、基本的な食パンのレシピにおける例をご紹介します。
ポイントを赤文字にしておきましたので、その部分を中心に考えてみてください。
ストレート法の食パン
材料 | BP(%) |
強力粉 | 100 |
生イースト | 2.5 |
砂糖 | 5 |
食塩 | 2 |
脱脂粉乳 | 2 |
水 | 70 |
バター | 5 |
捏ね上げ温度 | 27℃ |
一次発酵 | 90P30 |
(27℃) | |
ベンチタイム | 25分 |
最終発酵 | 約60分 |
(38℃) |
中種法の食パン
材料 | BP(%) | |
中種 | 強力粉 | 70 |
生イースト | 2.5 | |
水 | 40 | |
本捏ね | 強力粉 | 30 |
砂糖 | 5 | |
食塩 | 2 | |
脱脂粉乳 | 2 | |
水 | 25 | |
バター | 5 |
中種捏ね上げ | 24℃ |
中種発酵 | 180分 |
(27℃) | |
一次発酵 | 20分 |
(27℃) | |
ベンチタイム | 25分 |
最終発酵 | 約50分 |
(38℃) |
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
A.短くなる。
既にグルテン酸化が進んだ中種を材料として使うため、生地の完成は早くなります。
A.直捏法。
発酵種法は直捏法に比べて粉の風味は薄くなる傾向にあります。中種法は特にその傾向が強いですが、粉の風味を重視しないパンならデメリットにはなりません。
しかし粉の風味を重視したいパンやこね具合を控えめにしたいパンには向きません。
中種法のメリット・デメリットをしっかり理解すれば、素材や配合の個性を活かした製法の使い分けが出来るようになります。
ぜひ参考にしてみてください。