パン作りで使う砂糖って何を使うのが一番良いの?
パン作りで一般的に使われるのは上白糖ですが、レシピによって異なる種類の砂糖が指示されていることもありますよね。
それぞれ味に違いが出るのか、お互いに代用できるのか、気になりませんか?
この記事では、6種類の砂糖を使ってパンを作った結果を比較して、特徴や使い分け方を解説します。
読者・視聴者様の声
砂糖の種類でどんな違いが出るのかよくわかった!
レシピ作りでどの砂糖を使うべきか、アイディアが湧いてきた!
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6種類の砂糖の特徴
今回実験で使用したのは上白糖・グラニュー糖・三温糖・きび砂糖・てん菜糖・黒糖の6種類です。
まずはそれぞれどんなお砂糖なのか、その特徴について解説します。
材料の使い分けをする上では、特徴を把握しておくことは重要です!
上白糖
上白糖は日本の製パンで最も多く使われている精製糖(白砂糖)です。
上白糖の特徴は「転化糖」が添加されていること。
砂糖の主成分はショ糖(単糖類である「ブドウ糖」と「果糖」が結合した二糖類)ですが、上白糖は製造工程の最後に転化糖液(ビスコ)をまぶします。
すると転化糖液はショ糖の結晶表面に付着し、湿度を保つ役割を果たします。
それによりショ糖純度100%のグラニュー糖よりもしっとりした質感となり、また甘味も強く感じられます。
ショ糖純度は97.8%、転化糖が1.4%。
ショ糖を分解して得られるブドウ糖と果糖。
ショ糖はブドウ糖と果糖が結合した状態で存在しているが、転化糖はそれぞれ独立して存在している。
グラニュー糖
こちらはショ糖純度99.9%以上の精製糖で、世界で最も使用量の多い砂糖です。
日本の製パン業界ではメロンパンの皮生地やカスタードクリームなど、パン生地以外の製菓的分野で多く使われており、海外ではパン生地でもグラニュー糖が一般的です。
転化糖をほとんど含まない(0ではない)ためサラサラしており、上白糖よりあっさりした甘味が特徴。
三温糖
三温糖は見た目が茶色っぽいのできび砂糖のようにミネラルを含んでいると思われがちですが、実は上白糖と同じ精製糖の一種で、ミネラルはほとんど含みません。
上白糖との違いは製造工程にあります。
上白糖の製造後に余った糖蜜にはまだ糖分が残っているため、更に煮詰めてショ糖の結晶を取り出して有効活用します。
その工程を数回繰り返すことでカラメル化反応が進み、その化学反応で多種多様な褐色物質・香り成分が生成されます(カラメラン・カラメレン・カラメリンなど)。
カラメルソースの香りがほんのり発生するってことだね
カラメルの風味が影響し、上白糖よりもまろやかでコクのある甘さが特徴。
きび砂糖
きび砂糖はサトウキビ特有の温かみのある香りが特徴的なお砂糖です。
先述の三種類の精製糖と異なり、こちらは精製途中の糖液を煮詰めて作られます。
精製途中、つまり不純物の濾過が完了していないタイミングで結晶化して作るわけですが、このタイミングが早ければ不純物がより多く残りクセが強く、遅ければ不純物がより多く取り除かれクセの弱い砂糖になります。
タイミングの違いや原料のサトウキビの違いによってきび砂糖の風味も大きく変わってくるため、メーカーによって個性が様々です。
てん菜糖
今回の実験で使う6種類のうち、唯一原料が異なるお砂糖です。
てん菜糖の原料は「甜菜(ビート、さとう大根)」と呼ばれる根菜類で、主に北海道で生産されている大根のような見た目をした作物です。
ラフィノースというオリゴ糖が含まれているのが特徴で、大腸まで届いてビフィズス菌のエサとなるため健康志向の消費者に人気があるお砂糖です。
てん菜糖と言うと写真のように粒度が粗く茶色っぽいものや、粉末でクリーム色のものが身近ですが、実際には上白糖やグラニュー糖など精製糖もてん菜から作られています。
てん菜から作られたお砂糖をてん菜糖と呼ぶのに対して、きび砂糖から作られたお砂糖は甘蔗糖と呼ばれ区別されます。
黒糖
黒糖はサトウキビのしぼり汁をそのまま加熱して作られます。
白砂糖は完全に精製されており、きび砂糖も途中まで精製されているのに対して、黒糖は精製されていないためサトウキビ本来の風味やミネラルがたっぷり残っています。
黒糖に含まれる糖分は全体のうち約90%で、他に水分5%、ミネラル3.6%、たんぱく質1.7%といった成分が含まれている。
ミネラルが圧倒的に多いのはもちろん、たんぱく質は他のお砂糖にはほとんど含まれていないため大きく異なる点と言えます。
生地感は変わる?変わらない?
今回の実験では、砂糖による違いが明確に現れるよう、砂糖20%使用と高配合の生地で比較しました。
材料 | BP(%) |
強力粉 | 100 |
セミドライ | 1.4 |
砂糖 | 20 |
食塩 | 0.9 |
脱脂粉乳 | 2 |
水 | 64 |
マーガリン | 5 |
砂糖の種類によって糖分やミネラルなど成分割合が微妙に違いますが、今回はあえて20%に統一して作りました。
黒糖やきび砂糖など、塊が溶けにくいお砂糖は水に溶かしてから使用しないと「ジャリ感」が残ってしまいます。
ただしそれだけを水に溶かして使うと不公平なので、全て砂糖は仕込み水に溶かしてから使いました。
ミキシングはPanasonicのホームベーカリー「ビストロ」を使用し、全て同じ捏ね時間で作りました。
(Lv1:1分 Lv2:2分 Lv4:5分 ↓(油脂入れ)Lv4:8分 合計16分、後に20回折りたたむ「ツッコミ」)
結果はご覧の通り、元の素材の色の影響で生地の色が若干違いますが、生地感はあまり違いを感じられません。
グルテン膜のチェックをしてみましたが、どれも指紋がハッキリと透けて見える良い生地であり、違いはありませんでした。
高配合の生地ですら大きな生地感の違いを感じられないくらいなので、基本的なパン作りならどの砂糖を使っても問題なく生地が作れると言えるでしょう(人工甘味料を除く)。
発酵力に差はある?
これは最終発酵後の様子です。
それぞれ同じ発酵室内で同じ時間発酵させました。
ほんの微妙な大小の差はありますが、丸めや成形での締め加減によっても膨らみやすさは変わってくるので、この程度なら誤差の範囲と言っても良いでしょう。
黒糖は糖分率が他より低いけど、大した問題にはならないね
焼き上がりの違い
全て200℃/14分で焼成した結果です。
オーブンは庫内の場所によって焼け方に差があるため、同時に焼くと必ず誤差が生じるものです。
この結果はその誤差の範囲内と言えるでしょう。意外とどれも焼き色に差がありません。
上白糖の膨らみ具合が最も大きいように見えますが、これも庫内の場所による熱当たり具合で生じる誤差の範囲内と言っても良いでしょう。どれも十分に膨らんでいます。
黒糖が最も小さいように見えますが、これも発酵具合と熱当たりの誤差による結果だとも考えられますし、もう一つミネラルによる生地への影響も考えられるかもしれません。
ミネラルがパン生地を変える?
ミネラルがパン作りに与える影響として思い当たるのが、仕込み水の硬度による生地の変化です。
軟水
↓
柔らかく緩い
硬水
↓
硬く締まる
これはグルテンの元となるたんぱく質「グルテニン」に対して結合を促すよう働きかけることによるものです。
硬く締まった生地は風船で例えると新品で硬く膨らませにくい風船です。
パン生地は酵母菌が内側から頑張って膨らませてくれる風船と言えますよね。
硬く伸びにくい生地はそれだけ膨らませるのが大変です。
なので発酵時間を少し延長して生地を十分に緩ませる必要があります。
黒糖は他の砂糖に比べて圧倒的にミネラルが多いため、硬水で仕込む効果と似たような作用が起こっている可能性を考えました。
加えて糖分は生地を緩ませる働きがあります。
黒糖は糖分率が約90%であり、レシピとしては他と同様に20%配合していても実際には18%の糖分で作っていることになります。
ミネラルが生地を締め、生地を緩ませる糖分は他より少ない。であれば、他より膨らみが劣っても不思議ではありません。
しかし、生地を触った感触など体感的にはあまり差を感じられませんでした。
なので原理としては生地にいくらかの差はあっても、作る上では誤差の範囲内として十分対応可能でしょう。
いざ試食!断面の比較
まず断面の色の違いがハッキリわかるのはきび砂糖と黒糖。
黒糖でパンを作るときは恐らく皆さん色も変えたくてやっているはずですから何も問題ありませんが、きび砂糖は白砂糖の代わりとして使っている人も多いでしょう。
砂糖の多い菓子パン生地できび砂糖を使うとクラム1の色合いがくすんでしまうことは留意しておきましょう。
次に香りと味の特徴についてそれぞれ解説していきます。
上白糖
上白糖はそれ自体に香りが無いお砂糖のため、「小麦粉の臭い」が際立ちます。
この特徴は素材の風味を際立たせたい場合にはメリットとなるでしょう。
味は舌に直接響くような強い甘味で、6種類の中で最も甘味を強く感じました。
咀嚼し始めてから甘味が舌に伝わるのが早い!
これは上白糖には転化糖液(ビスコ)が含まれていることが要因でしょう。
グラニュー糖
上白糖と同様に、グラニュー糖はそれ自体に香りが無いため「小麦粉の臭い」が際立ちます。
しかし味は上白糖と比べてあっさりした甘味です。舌に直接響くような感じではなく、甘味が舌に伝わってくるのも上白糖よりやや遅いような印象がありました。
上白糖とグラニュー糖でパンのしっとり感は変わる?
「上白糖で作った方がしっとり感が増す」とよく言われていますが、実際には食べて違いがわかるほどの差は感じられません。
確かに上白糖には転化糖液がまぶされているので、理論上は保湿性が増してもおかしくありません。
しかしその転化糖液は上白糖のうちわずか1.4%ほどです。
逆に言えば上白糖とグラニュー糖は97.8%同じ成分であるため、パンを作る上で生地感にも完成品にも大きな変化が見られないのも無理はありません。
三温糖
グラニュー糖よりは甘味が強く感じられ上白糖に近い印象ですが、上白糖よりも甘味がまろやかで丸みがある印象を感じられました。
恐らくカラメル成分の味が合わさることによる微妙な差でしょう。
香りも若干異なり、上白糖のような「小麦粉の臭い」の際立ちはやや弱く、深みのある香ばしさを感じました。
そもそもカラメルの香り成分は、普通に作ったらクラスト2部分でしか発生しません。
焼成による「カラメル化反応」ですね。
普通はクラストにしか発生しえない香ばしい成分を、三温糖を使えばクラムからも醸すことが出来るという事です。
ただし、それは僅かな差なので普通の人が何の意識もせず食べるだけではその違いに気付かないでしょう。
きび砂糖
きび砂糖は上白糖や三温糖よりも甘味が控えめに感じられました。グラニュー糖の甘さに近いですが、きび砂糖の方が若干優しめです。
特徴的なのは香りです。
サトウキビ由来の深みのある香りが薄っすらと感じられ、白砂糖で際立っていた「小麦の臭い」はマスキングされているような印象です。
三温糖との香りの違いを言い表すなら、三温糖はカラメルの香りできび砂糖はサトウキビの香りです。
深みは深みでも、その種類が異なります。
クラストからもサトウキビ由来の独特な香りが感じられるため、焼きたての香りなら普通の人でもそれなりに違いを感じられるかもしれません。
てん菜糖
上白糖やグラニュー糖とは違う香りが少しだけ感じられるものの、その違いは微々たるもので三温糖やきび砂糖ほどの効果は感じられません。
しかし味はハッキリと差がありました。
舌で感じられる甘味の質が、甘蔗糖の甘味の質とは違う印象です。
甘味自体はしっかり感じられるものの、丸みのある質感の甘味のため「優しい甘味」のように感じられます。
黒糖
甘味の強さは6種類の中で最も控えめですが、黒糖の深みのある風味が甘さをより強く感じさせます。
流石に20%も配合したので香りの違いはしっかり感じられましたが、それでもスーパーに売ってる「黒糖マーガリンロール」と同等かそれ以下に思えます。
パンをしっかり黒糖味にするには意外と高配合にしないといけないんだね。
今回使用したのは粉末黒糖でしたが、より香りを際立たせたいなら固形の黒糖を使うべきです。
コーヒーは挽きたてが一番香りが際立ちますし、市販のすりごまより自分で挽いたすりごまの方が香りが強いですよね?
匂いというのは香り成分が揮発して嗅覚神経に到達することで感じられるものです。
成分が揮発しているということは、放っておけば香りはどんどん無くなっていくのです。
そのため基本的にはどんなものでも挽きたてが最も香りが多く残っているのです。
黒糖も同じで、固形黒糖を自分で溶かして使った方がより香り高い黒糖パンになります。
砂糖の使い分け方
ここまで砂糖の違いによるパンの変化について解説してきました。
違いがあるのはわかったけど、どう使い分けたらいいの?
細かいことを考えないのであれば、基本的にはどの砂糖を使ってもレシピ調整の必要もなく作れるので問題ありません。
ここからは、こだわりの一品を生み出したい人のためにオススメの砂糖の使い分け方について考え方をご紹介します。
上白糖 or グラニュー糖
上白糖とグラニュー糖は使い分けることで甘味の質感を選ぶことが出来ます。
ハッキリした甘味を全面に出したい時には上白糖を、少量でも効果的に甘味を出したい時にも上白糖を使用すると良いでしょう。
では、グラニュー糖はどんな時に使えば良いでしょうか?
まず、砂糖を使う目的は甘味だけでなくその物理的性質を引き出すためでもあります。
パンの場合は生地の伸展性や保湿性、製菓においては卵の泡立てにおける気泡の補助として使われることが多いです。
特にケーキ作りでは結構な量の砂糖が必要不可欠ですが、それを上白糖で作ってしまうと甘さがくどい生地になりかねません。
なので、量たっぷり使う必要があるけど出来るだけ甘さが前に出すぎないようにしたい場合にグラニュー糖は最適です。
上白糖 or 三温糖
上白糖は他の素材の香りを一切邪魔しないため、他に際立たせたい素材がある場合には上白糖を選択するのが良いでしょう。
他に際立たせたい素材もなく隠し味として香りに深みを与えたいなら三温糖を、逆にマスキングしたい臭いがある場合にも三温糖を選択すると良いでしょう。
小麦粉特有の青臭さや個性的な粉のクセを緩和したい時など、効果的な場面はいくつか考えられます。
小麦粉生地って独特な青臭さを感じませんか?
※イースト臭のようなキツい臭いのマスキングには牛乳や脱脂粉乳に含まれるカゼインが最も効果的です。
ただし全く逆の考え方で、香りと香りを組み合わせて別の美味しさを生み出すことも出来ます。
フードペアリングにおいては同じ(似た)香り成分を持つ食材同士を合わせると相性が良いとされています。
例えばパンとコーヒーがなぜ相性が良いかと言うと、どちらも高温加熱で生じるメイラード反応の副産物が主な香り成分だからです。
三温糖はカラメルの香り成分が含まれますが、実はチョコレートにも同様に含まれているため組み合わせることで相乗効果が期待できます。
白砂糖 or きび砂糖
こちらも他に香りを際立たせたい素材があるなら白砂糖を使うと良いでしょう。
きび砂糖にはサトウキビ由来の独特な風味があるため、マスキングしたい臭いがある場合や隠し味として深い香りを与えたい場合に選択すると良いでしょう。
また、きび砂糖のような中途精製のお砂糖はメーカーによって様々な風味の違いがあります。
色々試してみて好みのものを見つけるのも面白いかもしれません。
甘蔗糖 or てん菜糖
甘蔗糖(サトウキビ由来のお砂糖)とてん菜糖の大きな違いは、オリゴ糖の含有量です。
真っ先に思い浮かぶ使い分けとしてはやはり健康志向の有無です。
オリゴ糖を摂取することで腸内のビフィズス菌を増やしたいならてん菜糖を使うと良いでしょう。
甘味の質がそれぞれ微妙に異なることも大きなポイントです。
最終的には人の好み次第ですが、てん菜糖で作られたパンを「優しい味わい」と感じる人も少なくないので、そういう味を再現したいなら試してみるのアリだと思います。
ただし「オリゴ糖」をパン作りで使う場合にはいくつか注意が必要です。
まとめクイズ
A.「×」。
三温糖の色も香りも、カラメル化反応で生成された成分によるものです。
A.固形の黒糖。
粉末黒糖よりも香りが残っているため、手間はかかりますが自分で溶かして使うのがオススメです。というか、粉末黒糖も微妙に粒が残っているのでどちらにせよ事前に溶かすべきです。
<脚注>