きび砂糖でパンを作ってもちゃんと膨らむの?
上白糖の代わりにきび砂糖使っても大丈夫?
この記事では、きび砂糖でパンを作ってちゃんと膨らむのかどうか、白砂糖をきび砂糖で代用する場合の違いや注意点について解説します。
- きび砂糖と上白糖など他の砂糖との違い
- きび砂糖でパンを作ると生地感と焼き上がりにどんな違いがあるのか
- ミネラル分がパンに与える影響
- 効果的な砂糖の使い分け方
きび砂糖と白砂糖の違い
上白糖の特徴
日本のパン業界で最も多く使われているのが上白糖です。
ショ糖純度が97.8%で、「転化糖」が1.3%含まれているのが特徴です。
転化糖というのはショ糖の元であるブドウ糖と果糖のことです。
ブドウ糖と果糖、それぞれの分子が一個ずつ合わさったものがショ糖で、合わさっていない状態のものが微量含まれているということです。
転化糖はショ糖よりも吸湿性が高いため、上白糖独特のしっとり感の要因となっています。
グラニュー糖の特徴
海外では上白糖よりもグラニュー糖の方が多く使われており、日本では主にクッキーやケーキなどの菓子製造ではグラニュー糖がよく使われています。
上白糖と違って転化糖がほとんど含まれておらず、お砂糖の中で最もショ糖純度が高い99.95%となっています。
きび砂糖の特徴
こちらも主成分はショ糖で、スーパーなどで最もよく見られる「カップ印」のきび砂糖では98.8%となっています。
しかし、きび砂糖はメーカーごとに名称が異なり、「きび和糖」や「素焚糖」などそれぞれ微妙に成分割合が違います。
こちらは完全には精製せず、精製途中の糖液を煮詰めて作られるため微量のミネラルが残っています。
転化糖は含まれていないので上白糖よりもサラサラで、独特な香ばしさがあるのが特徴です。
もちろん、メーカーごとに違う味と香りを楽しめるのも大きな魅力と言えます。
三温糖はきび砂糖と何が違う?
三温糖って上白糖より健康に良いんでしょ?
実はそれ、誤解です!
三温糖は色が茶色いため、きび砂糖のような砂糖だと思っている方が多いですが、それは間違いです。
実際には上白糖と同じ精製糖の一種であり、ミネラルを含みません。
上白糖やグラニュー糖を製造する過程で残った糖液を、さらに数回煮詰めて砂糖にしたものです。
「三回温めて作った砂糖」という意味で三温糖という名称となっています。
じゃあなんで茶色いの?
幾度にわたる煮詰める工程によって糖の一部がカラメル化することによって色が付きます。
商品によってはカラメル色素を添加している場合もあります。
使い分けるとパンはどう変わる?
生地感の違い
ごく一般的なパン作りにおいては、同量で作り比べても生地感の違いは感じられません。
砂糖15%配合でもきび砂糖生地と白砂糖生地に違いは感じられなかったので、おおよそどのようなレシピであっても生地感の差は無いと捉えて良いでしょう。
※ただし、きび砂糖に含まれるミネラルがある条件においては間接的に左右する可能性は理論上あります。それについてはもう少し↓の項目で解説します。
きび砂糖で作ると膨らまない?
まれに「きび砂糖 膨らまない」と検索する方もいらっしゃるようですが、きび砂糖でも他の砂糖と同じようにちゃんと発酵は進みます。
ミネラルが含まれている分だけ糖分率が白砂糖に比べてやや低いのは事実ですが、その差は1%にも満たないので何の影響もありません。
もし、きび砂糖に変えたから膨らまなくなったと感じるのであれば、それはきび砂糖が原因ではなく別の部分で普段と同じように作れていなかった可能性が高いです(というか100%それです)。
むしろ理論上は各種ミネラルがプラスの方向に作用すると考えられます。これについてはもう少し↓の項目で扱います。
味・香りの変化はある?
上白糖・グラニュー糖・きび砂糖すべてを同量で作り比べても、正直それほど大きな違いは感じられません。
ですが、違いを吟味するように味わうと、グラニュー糖よりも上白糖の方が甘味を感じる初速が早いような気がするのと、きび砂糖の甘味は白砂糖の甘味とは違って「自然な感じ」という印象でほんの少し甘さ控えめにも感じること、こういった微妙な違いはあるように思えます。
ですが、非常に微々たる違いであり、人によっては全くわからないかもしれません。
香りに関してもほとんど差は感じられませんが、菓子パン生地のように砂糖高配合レシピであれば、焼きたて直後に限ってきび砂糖の深みのある香りの恩恵が感じられます。(冷めると目立たなくなります)
【置き換え方法】上白糖の代わりにきび砂糖で作る
上白糖をきび砂糖で代用する場合、特に配合量を調整する必要はありません。
ただし経験上、塊が溶けにくい点に注意が必要です。
特に業務用ミキサーで大量に生地作りをする場合には、フックとミキサーボウルの隙間(クリアランス)にきび砂糖の塊が残ってしまうことがあります。
上白糖に比べて水に溶けにくいのでしょう。
なので、特に捏ねないパンなどミキシング時間の少ないパンを作る場合や、湿気で固まってしまっている場合などは、事前に水に溶かすなど工夫をすることをオススメします。
きび砂糖のミネラルが持つパンへの影響
そのまま置き換えて使えるってことは、きび砂糖のミネラルは特に効果が無いってこと?
実は、ある条件においてはきび砂糖のミネラルが生地に影響を及ぼす可能性もあります。
これはきび砂糖に限らず、水の硬度や粉の灰分によるミネラル分の違いでも同様のことが言えるのですが、ミネラルには「補酵素」という働きがあります。
その名の通り「酵素の働きをサポートする」作用です。
パン作りにおける酵素の働きには以下のような作用があります。
- 酵母菌がショ糖(砂糖)をブドウ糖・果糖に分解する(ショ糖分解酵素)
- 酵母菌がブドウ糖を二酸化炭素・アルコールに分解(チマーゼ)
- 粉に含まれる酵素が生地のでんぷんを分解(でんぷん分解酵素)
- モルトや麹の酵素が生地のでんぷんを分解(でんぷん分解酵素)
- 粉やモルト・麹などの酵素が生地のたんぱく質を分解(たんぱく質分解酵素)
etc…
全て「発酵と熟成」に関わる働きです。
発酵で酵素がどんな働きをしているのか、その詳細はコチラで解説しています!
きび砂糖を有効活用する方法
ミネラル分の補酵素としての効果が十分に発揮されるのは、主に自家製酵母でのパン作りや極少イーストでのパン作りです。
特に自家製酵母は酵母菌の頭数が少ないため、ミネラルの有無が発酵種完成にかかる時間やその後の発酵力への影響が目立つ傾向にあります。
ですが普通にイーストを使って作るレシピでは、きび砂糖のミネラルはおろか粉の灰分1が低くてもパンは問題なく膨らむため、あまり効果は目立たないでしょう。
その上、サワー種など粉から起こす発酵種は砂糖を加えず粉の自己消化2に頼るのが通常のセオリーです。
なので、しいて言えばレーズンや果物から起こす発酵種「フルーツ種」で、発酵促進目的で加える砂糖を白砂糖ではなくきび砂糖にしてみると良いかもしれません。
なぜパンにきび砂糖を使うのか?
ここまでの解説から「きび砂糖をわざわざ使う必要もないかな」と感じてしまった方もいるかもしれません。
ですが、実際にパン屋さんでも白砂糖ときび砂糖は使い分けられているパターンは見られます。
なぜ、わざわざ使い分けるのでしょうか?
一番効果がわかりやすいのはトッピングとしての利用です。
トッピングであれば素材の味がダイレクトに伝わりますので、本来グラニュー糖などをトッピングするような場面できび砂糖を使えば簡単に個性を生み出すことが可能です。
パン作りにおいては前半の工程よりも後半の工程で使う材料ほど、その素材の個性が際立つので品質に気を使うべきだとよく言われます。
これは砂糖に限らず全ての材料において同じことが言えますね。
焼成前に振りかける「化粧粉」を、強力粉の代わりに上新粉を使ったり…
トッピングはこだわりポイントですよ。
もう一つは「謳い文句」としての理由です。
パン屋さんでパンを開発する時、どんな味わいにしたいか云々だけでなく時に「顧客への訴求効果を高めるにはどうすればいいか」という視点でレシピを考えることもあります。
わかりやすい例でいうと、何の変哲もない「食パン」という名で売られているものと、「十勝産小麦使用の食パン」という名で売られているものなら、後者の方が目につきますよね?(値段の差はさておき)
まったく同じ材料のバゲットでも、「バゲット」として売られているものより「2種の粉を自家ブレンド!低温長時間発酵バゲット」と謳われているものの方がなんとなく興味そそられますよね?同じ値段でこれらが並んでいたら間違いなく後者の方が人気出そうです。
砂糖の選択も同様に、何の変哲もないパンに訴求効果を持たせたいなと思った時に、「きび砂糖使用」という一言が加えられれば「健康に気を使って普段からきび砂糖を料理でも使っている」ような客層に対して強くアプローチできます。
もちろん、味や香りの微妙な変化を表現したいから使い分けているお店もたくさんあるでしょうし、一概に理由が何かと断定はできませんが、こういったカラクリも実はあるよということでご紹介しました。
パン作りにおける砂糖の役割
パン作りでは砂糖の役割は甘味の向上だけではありません。
酵母菌のエサになるんでしょ?
それだけではありません!もっとたくさん!
砂糖は皆さんが思うよりもっと多くの役割を背負っています。
詳しくはこちらのページにて解説しています。
レシピをアレンジしてオリジナリティを出したパン作りをしたい方、オリジナルレシピを作れるようになりたい方は必見です!
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- きび砂糖には微量のミネラルが含まれており、ミネラルには「補酵素」としての効果がある。
- 白砂糖ときび砂糖で作り比べると、微妙な違いは現れるが微々たる差である。
- 同量での置き換えアレンジが可能。
作り比べると微妙な差でしかありませんでしたが、その少しの差も無意識レベルでは大きな差かもしれません。
作りたいパンのイメージを再現するために、明確な目的を持ったうえで細部へのこだわりを追求してみるのも面白いでしょう。
ぜひご自分のオリジナリティに活かしてみてください!
<脚注>