最強力粉って名前からして凄いパンが作れそうだから買ってみた!
実はそれ、手ごねで扱うには不向きな粉なんですよ。
強力粉よりも多くのたんぱく質(グルテン1)を含む最強力粉と超強力粉は、より大きく膨らむパンが作れると思われがちです。
しかし実際には、手ごねで上手く扱うのは難易度が高い粉なのです。
この記事では、最強力粉や超強力粉をそれ単体でパンを作るのに向かない理由と、効果的な使い方について解説します。
- グルテン量は多ければ多いほど良いわけではない意外な理由
- ゆめちからで作ったパンがあまり膨らまない原因
- 最強力粉や超強力粉の上手な使い方
グルテンは「水飲み」である
グルテンはとにかく「水飲み」で、小麦粉の主成分であるでんぷんの5倍の吸水能力があります。
一般的な強力粉のたんぱく量が12%前後であるのに対し、最強力粉や超強力粉は13%前後と、たったの1%しか差はありませんが、その吸水能力の強さ故により多くの水を必要とします。
そのためグルテンが多い粉で作る場合、より多くの水分が必要であり、十分な吸水が無いと硬く伸びの悪い生地となるため、かえって膨らみに悪影響を及ぼすということです。
グルテンが多い=弾力が強い≒伸びが悪い
グルテンはパン生地の骨格であり、膨らみを支える重要な物質であることには違いありません。
その「支える」役割はグルテンの「弾性」が担っていますが、同時にそれは生地の「伸び」を阻害する要因にもなり得ます。
なぜ焼成前に十分に発酵させる(休ませる)必要があるのか?それは成形で強くなった弾力を十分に緩ませる必要があるからです。
十分な緩みが得られないと、どんなに良い生地でも大きな膨らみは得られません。
このように、弾力は時としてパンの膨らみに悪影響を与える要因となるため、上手にコントロールする必要があります。
以上のことを踏まえて最強力粉と超強力粉のことを考えましょう。
普通の強力粉よりグルテンが多い分、生地の弾力もより強くなります。
そのため上手に扱わないと、普通の強力粉で作った場合よりも「弾性による生地伸び阻害」が顕著に出てしまうのです。
手ごねが大変になる
グルテン量の少ない粉と多い粉、ミキシング時間がより短いのはどちらでしょう?
答えは前者です。
グルテンが少ないほど生地はすぐに完成するため手ごねは楽ですし、多いほど生地の完成は遅く手ごねが大変です。
そのため薄力粉だけで作る生地は最も捏ね時間が短く、逆に最強力粉や超強力粉だけで作る生地は最も捏ね時間が長く必要です。
熟練の手ごね技術が無いと十分なこね具合に仕上げることは困難だと言っていいでしょうし、慣れてる人でも生地量が多いとかなり厳しいです。
要するに「こね不足になるよ」ってことですね。
こね不足だと何が問題なのかと言うと、膨らみが悪くなることです。
全く捏ねない「混ぜるだけ」のレシピなら、膨らみは劣っても歯切れの良さに特化しているので異なる美味しさが楽しめますが、中途半端なこね不足は食感・風味ともに劣る傾向にあります。
そもそもパン生地のミキシングにおいて、初期は弾力が弱くベタベタですが後半に進むにつれて生地が繋がってきて弾力が強くなります。
さらに捏ね続けてベストなこね具合になると弾力が少し弱まり伸展性が向上します。
つまり、中途半端にこね不足だと生地伸びは良くないのに弾力だけがやたら強くなってしまい、歯切れが良いわけでもなく膨らみも良くない中途半端なパンになってしまうのです。
グルテンの少ない粉で作るときは「じっくり長く捏ねろ」って言われたけど…?
それはオーバーミキシングにならないように「低速で慎重に捏ねろ」ということですね。
最強力粉・超強力粉は高難易度
以前、僕は薄力粉のみで作るパンをいくつか動画でお届けしていますが、見るからにしっかり膨らんでるように見えますよね?
食パンの山と側面の境目にできる裂け目は、焼成中にしっかり窯伸びした証です。
タンパク量が少なくてもベストな捏ね具合にすれば良く膨らむのです。
逆に、タンパク量が多くても捏ね不足であれば、粉が持つ膨らみポテンシャルを発揮できません。
そして、タンパク量(正確にはグルテン量)が多ければ多いほど、ベストな捏ね具合になるまでより多くの捏ね時間を必要とします。
スーパーキング・ゴールデンヨット・ゆめちからといった最強力粉・超強力粉は、それ単体でパンを作ろうとすると普通の強力粉よりも難易度が高いと言えます。
手ごねで作るなら無理せず少量で
普通の強力粉単体で作る場合でも手ごねで作るなら粉量150g前後が最も作りやすい量だと僕は考えています。
食パン一斤分の粉250g前後だと、標準的な成人男性の体系である僕ですら少しキツいと感じてしまいます。
それを最強力粉・超強力粉で作るとなると…かなり覚悟が必要です。
もしどうしてもスーパーキングやゆめちから単体でパンを作りたいなら、粉量150g前後で作ることをオススメします。
それ以上で作るなら結構な運動になることを覚悟した方が良いかもしれません。
効果的な使い方は「グルテン補強」
最強力粉・超強力粉の良さを存分に活かすなら、普通の強力粉では生地のパワーが足りなくなってしまう場合に使うと良いでしょう。
以下にその例を挙げます。
- クルミやレーズンなど大物具材を練り込むパン
- グルテン量の少ない粉など生地が緩みがちな粉をメインに使いたい場合
- 風味は良いけど生地が緩みがちなイーストを使いたい場合
- 成形冷蔵法で作る場合
- 中種法で作る
それぞれ詳しく見ていきましょう!
クルミやレーズンなど大物具材を練り込むパン
クルミやレーズンなど大き目の具材を練りこんだ生地は、プレーンの生地に比べてガス保持力が劣ってしまう傾向にあります。
クルミパンやレーズンパンを作った結果、普通の食パンと比べてふわふわ感に欠けた仕上がりになってしまった経験ありませんか?
そんな時は、使用する強力粉の数割を最強力粉または超強力粉に置き換えて、仕込み水の量も増やしましょう。
生地のグルテン量が増えることでガス保持力が向上し、普通の食パンに負けない膨らみとふわふわ感を得ることが出来るでしょう。
グルテン量の少ない粉など生地が緩みがちな粉をメインに使いたい場合
例えば、個性豊かな国産小麦の中にはグルテン量が少ないけど風味が素晴らしい粉があります。
フランスパン専用粉の中にも香りが強いけどグルテン量が少なかったり酵素活性が高く生地がダレやすい粉があります。
そのようなパワーの弱い粉だけで生地を作ると、どんなに最適なこね具合に仕上げても普通の強力粉と比べて膨らみやふわふわ感に劣ってしまいます。
「小麦の香り際立つパンを作りたいけど、膨らみも手放したくない」そんなときは最強力粉や超強力粉と併用して生地のパワーを補うと良いでしょう。
とりあえず半々でブレンドして作ってみて、出来上がりを見て割合を調整しましょう。香りを優先したいのか、膨らみを優先したいのか、そのバランスで割合を考えます。
風味は良いけど生地が緩みがちなイーストを使いたい場合
予備発酵が必要なタイプの「ドライイースト」や「とかち野酵母」など、これらで作ったパンの風味は素晴らしいのですが、インスタントイーストや生イーストと比べて生地が緩みやすい傾向にあります。
特に食パンのように上に膨らませたいパンを作る時には生地のコシ不足で膨らみもかなり劣ってしまいます。
「イーストは変えたくないけど、もっと上に膨らませたい」そんな時は最強力粉・超強力粉を併用して生地のコシを補うと良いでしょう。
なんで予備発酵タイプのイーストだと生地が緩むの?
その原因は死滅酵母の含有にあります。詳しくは以下の記事を参照してください。
成形冷蔵法で作る場合
オーバーナイト法の中でも特に成型後に冷蔵庫でオーバーナイトさせる「成形冷蔵法」では、最強力粉・超強力粉のポテンシャルを発揮するのにうってつけです。
というのも、成形冷蔵法だと成型後に長時間生地を寝かせるわけですが、それによって生地のコシが弱くなってしまうのです。
成形より前の工程でのオーバーナイトなら、オーバーナイト後に一度生地に手を加えることで生地のコシが復活するので問題ないのですが、成形冷蔵法は手が加えられないので膨らみ・形状ともに劣ってしまいます。
そのため水分量を減らすなどして硬めの生地を作るのが定石なのですが、それだとパンのしっとり感を少し手放すことになるため抵抗がある方もいるでしょう。
生地のコシを補う方法には色々ありますが、その中の一つが最強力粉・超強力粉をブレンドして成形冷蔵法向きの生地を作る手法です。
ただし、成形冷蔵法以外のオーバーナイトでは逆に生地のコシが強くなりすぎてしまうので、むしろ薄力粉をブレンドして生地を弱める方が定石です。
中種法で作る
ガス保持力が低下するようなレシピでも無く、プレーンなパンを作るつもりだけど最強力粉・超強力粉を消費したい時もあるでしょう。
頑張って手ごねするのも良いですが、中種法を採用することで捏ねの労力を減らしつつ良さを確実に活かすことが可能です。
最強力粉と超強力粉、難易度がより高いのは?
単体で扱う上での難易度がより高いのは超強力粉です。
超強力粉と呼ばれる「ゆめちから」はグルテン量が多いだけでなく、でんぷんの質も国産小麦らしい特徴があるため生地のコシがかなり強いです。
一方で最強力粉と呼ばれるスーパーキングやゴールデンヨットはグルテン量は多いですがあくまで北米産主体の小麦粉なので、でんぷんの質は一般的な強力粉とあまり変わりません。
更に原材料表示には「粉末麦芽」と記されています。
これは別名モルトパウダーと呼ばれるもので、各種酵素が豊富に含まれている素材であり、生地の熟成を促す効果があります。
熟成とはパン作りにおいてはでんぷんやたんぱく質が酵素で分解されることを指します。
つまり、最強力粉は酵素の力によってでんぷんやたんぱく質が程よく分解され、グルテン量が多い割にはコシの強さが軽減され伸びやすい生地になるのです。
「最強力粉と超強力粉は手ごねでは高難易度」と理屈上の解説でお伝えしてきましたが、最強力粉と超強力粉の間には大きな難易度の差があり、そして手ごねが上手な人なら最強力粉単体でも難なく生地を作ることが可能であることも事実です。
なので今まで最強力粉単体でパンを作って問題なく良いパンが焼けていたのであれば、この記事を見たからといって最強力粉の使用を辞めたりする必要はありません。自信を持って使い続けてください。
まとめクイズ
A.5倍
小麦粉の主成分ではないたんぱく質の量がほんの1%違うだけで生地が大きく変わるのは、この吸水能力の高さが大きな原因と言えます。
A.最強力粉100%生地
グルテン量が多い粉で作るとより多くの捏ねが必要になります。その代わり、より強い生地になります。
<脚注>