赤サフと金サフ、どっちを使えばいいの?
おすすめのインスタントドライイーストとして紹介されることの多い「赤サフ」と「金サフ」ですが、これらの間には大きな違いがあるため、うまく使い分けることが重要です。
この記事では、赤サフと金サフの違いを科学的に解説し、オススメの使い分け方をご提案します。
ついでに青サフについても紹介します!
- 「耐糖性イースト」がなぜ糖分に強いのか、その仕組みがわかる。
- 様々なイーストの効果的な使い分け方がわかる。
- ビタミンCが生地に及ぼす影響を理解できる。
赤サフと金サフの比較
赤サフとは?
赤サフとは、フランスのルサッフル社が製造する低糖生地用インスタントドライイーストの通称です。
パッケージが赤いことから「赤サフ」と呼ばれています。
メーカー側からは砂糖の配合量が0~12%の生地に使用することが推奨されています。
耐糖性はあまり高くない故に多糖生地では発酵力の低下がみられますが、低糖生地では強い発酵力を発揮します。
金サフとは?
金サフとは、フランスのルサッフル社が製造する多糖生地用インスタントドライイーストの通称です。
パッケージが金色であることから「金サフ」と呼ばれています。
メーカー側からは砂糖5%以上の生地に使用することが推奨されています。
耐糖性が高いため、多糖生地でも持続する安定した発酵力が得られます。
違いは「耐糖性」の有無
サフ・インスタントドライイーストの赤サフと金サフの違い、それは「耐糖性」の有無です。
酵母菌は糖分をエサにして発酵しますが、多すぎると発酵力が低下してしまいます。
耐糖性のある金サフは、多糖生地でも発酵力の低下をある程度防ぐことができるため、菓子パン生地など砂糖の多いパンを作るのにうってつけです。
「耐糖性」の仕組み ~糖分に強いワケじゃない!?~
「耐糖性」と聞くとなんだか人工的な施しがされているように聞こえますが、そうではありません。
人間と同じく酵母菌の中にも様々な個性の菌が存在し、その中から多糖生地に向いている個性の菌を選んで培養しているだけです。
田舎町で大女優の卵を発掘するのと同じです!
では、どんな個性の違いがあるのでしょう?
酵母菌は適量の砂糖を配合した生地では活発に発酵できますが、多糖生地では高い浸透圧1によって発酵力が衰えてしまいます。
ということは…浸透圧に強い個性の酵母菌ってこと??
きっとほとんどの人がそのように考えているでしょう。ですがこれは間違いです!
耐糖性イーストは決して浸透圧に強いから耐糖性が高いわけではありません。
「耐糖性」の本当の仕組み、それは「インベルターゼ活性の差」です。
自滅を防ぐ!?低インベルターゼ活性
インベルターゼとはショ糖(砂糖の主成分)を分解する酵素「ショ糖分解酵素」のことで、酵母菌が保有している酵素の一つです。
そもそも酵母菌はショ糖のままでは発酵につかえないため、インベルターゼの作用でショ糖をブドウ糖・果糖に分解する必要があります。
インベルターゼ活性が高ければショ糖がどんどん分解されて発酵に使える糖が増え、逆に活性が低ければ発酵に使える糖の生成が遅いと言えます。
そして、金サフをはじめとした耐糖性イーストは低インベルターゼ活性、つまりショ糖の分解が遅い酵母菌です。
発酵に使える糖の生成が遅いのに、なんで多糖生地向きなの!?
逆に発酵が遅くならない!?
そう、実は単純な発酵力で比較すると低インベルターゼ活性である金サフは赤サフと比べて発酵がやや遅いです。
しかし、多糖生地においてはそれが大きなメリットとなるわけです。
その理由はショ糖とブドウ糖・果糖の浸透圧の違いにあります。
ショ糖と単糖類の浸透圧差、これが本質
ブドウ糖と果糖は同じ量のショ糖と比べて2倍もの浸透圧があります。
高インベルターゼ活性である赤サフは、生地中でショ糖をどんどん分解して単糖類(ブドウ糖と果糖)にしていきます。
生成された単糖類を一瞬で炭酸ガスとアルコールに分解2できれば何の問題も無いのですが、そんなことは出来ません。分解にはある程度の時間を要します。
分解にもたついている間に生地内には単糖類が溜まり、浸透圧がどんどん高くなっていきます。
このように、赤サフをはじめとした非耐糖性イーストは、高いインベルターゼ活性によって自分で自分の首を絞めてしまうのです。
ですが、低インベルターゼ活性である金サフはショ糖の分解がゆっくりなので、単糖類が生成されたらその都度消費することが出来、生地内に単糖類が溜まりません。
そのおかげで生地中の浸透圧が急上昇することなく、金サフの酵母菌は平穏に過ごせるということ。
これが耐糖性の本質です。
「浸透圧に強い」のではなく、「浸透圧の上昇が少ない」ということですね。
耐糖性が効かなくなる身近な材料に注意!
耐糖性イーストの仕組みをかいくぐってしまう、発酵力低下を避けられない材料があります。
それはハチミツです。
ハチミツはショ糖ではなく果糖・ブドウ糖から成り立ちます。これはミツバチの唾液に含まれる酵素によって既に分解された証です。
耐糖性イーストの強みは「ショ糖の分解が遅い」ことだったはず。
ですが、ハチミツは既に分解されています。耐糖性の強みは発揮できません。
最初からショ糖の二倍の浸透圧であるハチミツを高配合で使えば、耐糖性イーストであっても発酵力の低下は避けられません。
ハチミツを大量に練り込む生地を作ること自体そんなにないかと思いますが、もしアレンジでハチミツ高配合の生地を作りたいと思った時はこのことを思い出してください。
赤サフの特徴と向いているパン
砂糖を入れない無糖生地から、砂糖12%程度まで、いわゆるリーンな生地に対応しているとメーカー側から表明されています。
そのためフランスパンなどのハード系や、フォカッチャなどセミハード系、シンプルな食パンなどに向いています。
発酵の立ち上がりの早さから、これらのパンにおいて安定した膨らみを獲得することができます。
逆に多糖生地だと発酵力が持続せず、安定した膨らみを獲得することが困難です。故に菓子パン生地に使うのはオススメできません。
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金サフの特徴と向いているパン
砂糖12%以上の高配合のリッチなパンを作る際には金サフに切り替えることをメーカー側は推奨しています。
あんぱんやメロンパンなどの菓子パンはもちろん、砂糖12%以上の生地を扱う際には金サフを使うことで持続力のある発酵を得られます。
逆に、発酵の初速は赤サフと比べると劣る傾向があるので、低糖生地で使うのは推奨されておらず、同じ発酵力を再現するにはイースト量を増やす必要が出てくるためオススメできません。。
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青サフは他のサフと何が違う?
青サフとは、赤サフや金サフと同様にフランスのルサッフル社が製造するインスタントドライイーストの通称です。
青いパッケージからそのように呼ばれています。
青サフは赤サフと同じ低糖生地用のイーストですが、一つだけ大きな違いがあります。
それは「ビタミンC」の有無です。
ビタミンCは製パン改良剤の中でも「酸化剤」の一種です。
ビタミンCには酸素を引き付ける作用があり、生地に配合するとグルテン酸化3を促進し、より丈夫で強いグルテンにすることができます。
ガス保持力が高まりパンのボリュームが大きくなりますが、生地の弾力が過剰となり成型での縮みやすさやパンの歯切れの悪さなどのデメリットがあります。
赤サフと金サフにはビタミンCが添加されていますが、青サフはビタミンC無添加です。
そのため、赤サフと金サフよりも歯切れの良いパンになる上、クロワッサンやチョココロネのような複雑な成型がしやすい生地となります。
実はパン屋さんで一般的に使われている生イーストにもビタミンCは含まれていないので、赤サフ金サフよりも青サフの方がよりお店のパンに近い食感になると言えます。
ただし耐糖性は無いので砂糖0~12%の生地で使うことが推奨されています。
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まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 赤サフと金サフの違いは「耐糖性」の有無。
- リーンなパンには赤サフを、リッチなパンには金サフを使うと良い。
- 耐糖性の本質は低インベルターゼ活性。故に発酵の初速は遅い。
- 青サフはビタミンC無添加のため、生地伸びが良く歯切れの良いパンになる。
イーストはどれも適材適所なので、色々なパンを作りたいなら赤サフ・金サフ両方とも持っておくことをオススメします。
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<脚注>