塩分摂取量を控えたいんだけど…
塩を減らしたらどうなるの?
パンの味を濃くしてみたいけど塩を増やしても良いの?
塩はパン作りでは少量しか使わないながらも、とても重要な役割を担う材料です。
使う量が少し違うだけで大きな影響が出るとは言いますが、実際にどのような違いがどれくらい出るのでしょうか?
この記事では、異なる食塩量で作った3種のパンの比較実験をもとに、塩分量の違いがパンに及ぼす影響について解説します。
塩無し・普通・塩二倍の比較実験
今回は、塩の量が違うことでどのような変化が現れるのかを検証するため、以下の3種の生地で作り比べてみました。
- 食塩2%配合(普通の食パン)
- 食塩0%の塩なしパン
- 2倍の食塩4%配合
使用した基準のレシピはコチラ。
材料 | BP(%) |
強力粉 | 100 |
SDY(金) | 1.4 |
上白糖 | 5 |
食塩 | 2 |
水 | 70 |
油脂 | 5 |
捏ね上げ温度 | 27℃ |
一次発酵 | 60分 |
分割丸め | 68g |
ベンチタイム | 冷蔵 |
成型 | 楕円丸め |
最終発酵 | 32℃ 75分 |
焼成 | 210℃ 16分 |
食塩の部分だけをそれぞれ変えて、他は同じ配合量に揃えて比較します。
乳・卵不使用のため、違いがよりハッキリわかる配合となっています。
どんな違いが現れるのか、それぞれ見ていきましょう!
生地の違い
「塩が無い生地はベタつく」とよく言われるけど、捏ね時間はどうなると思いますか?
ベタつくんだから、長く捏ねないといけないんじゃないの?
実はその逆で、塩無し生地は生地の完成が早く、捏ね時間は短時間で済みます。
逆に塩が多いほど生地のまとまり感が出るまでに時間がかかり、捏ね時間も長く必要になります。
その理由は、グルテン形成に必要な水を塩が奪ってしまうからです。
塩は小麦粉よりも早く水を吸収して結合します。
塩と結合した水分子は「結合水」と呼ばれ、何とも結合していない「自由水」と区別されます。
グルテン形成には十分な自由水が必要で、塩が多いと自由水が減ってしまうことでグルテン形成が阻害されるのです。
しかし、塩二倍程度の量ならミキシング時間を延長すればちゃんと良い生地が完成出来ました。
【驚愕の事実】本当にベタつきが強いのはどっち?
「塩無し生地はベタつきが強い」
とよく言われますが、手ごねの場合は正反対の体験をすることになります。
塩無し生地の方が捏ね中のベタつき感覚は少なく、塩2倍生地の方がベタつき感覚が長く続きました。
これも先ほど解説した原理が理由で、塩無しは素早いグルテン形成により生地がすぐにまとまってベタつきが弱くなりますが、塩2倍だとグルテン形成が遅いことで生地がまとまるまで時間がかかるためベタつきが弱まるまで時間がかかるということ。
ですが、実際に生地が完成した後は塩無し生地の方が表面のベタつき感が残っており、しっかり丸めた生地でも指で押すと粘着性があります。
一方で塩2倍生地は表面がサラっとしており触りやすい感覚です。
塩無しは捏ね時間が短くなるのに、なんで生地はベタつくの?
塩が生地のべたつきを軽減する仕組みはコチラをチェック!
味の違い
流石に塩二倍だと普通にしょっぱく感じます。
あまり体が喜ぶ味ではありません…
一方で塩無しパンは、舌先で少し触れた瞬間に違和感を覚えます。
そして実際に咀嚼してみると、とにかく美味しくない。
トーストすれば焼き目の香ばしさはあります。口から鼻へ抜けていく風味そのものはいつも通り美味しい感じがするのですが、舌で感じる味覚だけが「美味しくない!」と訴えてくるような、そんなイメージです。
これこそが本来の「小麦粉の味」であり、普段我々が食しているパンの味は「小麦粉と塩の味」であるということを身に染みて感じます。
同じイネ科の穀物でも「お米」は塩をかけなくても美味しいんだから、やっぱり素敵な主食なんだね~
焼き色の差
塩には酵母菌の発酵を程よく抑制する効果があります。
一次発酵や最終発酵など全工程を通してなるべく同じ発酵具合になるよう意識して作っても、塩が無いと焼き上がりは必ず薄い色となります。
見た目のボリュームは発酵が進みすぎているようには見えませんが、どれはどういうことでしょう?
恐らく「ガス保持力」が関係しています。
塩には生地のガス保持力を高める効果があり、塩無しだとガス保持力が弱まります。
ガス保持力が弱い生地からは、例え生地切れ無く上手に成形した生地であっても目に見えないミクロの穴からガスが多く漏れます。
そのため、同じ膨らみ具合に見えても中身ではもっと発酵が進んでしまっているのでしょう。
発酵が進みすぎると生地内の糖分が消費されすぎて、焼き色を生成する「メイラード反応」や「カラメル化」が弱くなります。
塩2倍のパンは大して焼き色が濃いようには見えないけど…
塩2倍生地は明らかに発酵が遅かったです。
同じ膨らみ具合まで膨らませないとパンとして形にならないため、とにかく膨らむまで発酵時間を延長しました。
だから結果的に糖分もしっかり消費されて焼き色がそこまで濃くならなかった、と言えるでしょう。
ボリュームの差
やはり通常の食塩量の生地が最もボリュームの大きなパンになりました。
塩無し生地は窯伸び自体はしっかりしているように見えますが、少し小さくなっています。
これもガス保持力が原因で、塩無しでガス保持力が弱いために焼成中に膨張するガスをいくらか逃がしてしまうのでしょう。
逆に塩2倍生地は生地の弾力が余分に強いせいで、生地が伸びにくくなっています。
強い弾力が焼成時の膨張を押さえつけてしまい、窯伸びが明らかに悪化してしまいます。
無塩パンの美味しい食べ方
無塩パンを単体で食べるのはオススメしません。美味しくないからです。
ですが、実はイタリアには「パーネ・トスカーノ」という伝統的な無塩パンがありまして…
これは単体で食べるものではなく、味の濃い料理と一緒に食べるパンです。
それに倣って、単体ではなくサンドにしたり、シチューに浸して食べるなど、具材の味を受け止める器の役割として活用するのがオススメです。
他にも美味しい食べ方の例をコチラの記事でご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
塩を減らすアレンジをする場合の調整方法
今回の実験では、元々塩有りのレシピで食塩だけを無くして作っただけです。
最終発酵の時間が少し短くしましたが、それ以外の調整をせずとも意外と形にはなりました。
なので特に意識せずとも作ること自体は可能ですが、より良い減塩パンを作りたいなら以下のポイントを意識して調整すると良いでしょう。
- 発酵時間を短くする
- 焼き色を濃くする材料を加える
- ビタミンC入りのイーストを使う
- 弱酸性になるよう調整する
- 旨味の活用
詳しくはコチラの記事で解説しています。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 無塩生地はグルテン形成が早いため、捏ね中のベタつき感は少ないが完成した生地には粘着性が残る。
- 塩の量は焼き色にも影響を及ぼす。
- 無塩だと発酵が早くなるがガス保持力が低下するためやや小さく焼きあがる。
- 塩が多いと発酵が遅くなり、余計な弾力が膨らみを押さえつけるため小さく焼きあがる。
塩がパン作りでいかに重要な役割を担っているかおわかりいただけたかと思います。
小さじ計量や1g単位計量だと作る生地量によっては思わぬ誤差が生じ、今回のような違いが現れてしまう可能性もあります。
0.1g単位で正確に計量して、安定して美味しいパンを作れるようにしましょう!