
バゲットのクープが全然開かない…どうすればいい?
家庭用オーブンは業務用オーブンと構造が異なるため、どうしてもクープは開きにくくなってしまいます。
ですが、考え方と工夫次第で家庭用オーブンでもクープを開きやすくすることが出来ます!
この記事では、クープが開く原理を解説し、その原理を家庭用オーブンで再現する方法をご紹介します!
- クープを入れる理由がわかる。
- クープの原理を知ることで、クープ成功のために重要なポイントがわかる。
クープが開く原理を知ると、クープを入れる理由がわかる!

生地が窯に入れられた直後、表皮から内側へと徐々に熱が伝わっていきます。
表皮は一番最初に熱を受けるので先に焼き固められていきますが、生地の中心部まで熱が伝わるには時間差があります(①)。
生地の内側に熱が伝わると、生地中の水分や炭酸ガスが膨張するため膨らもうとするのですが、その頃には表皮がある程度固まり始めているため、中の気圧がどんどん高まります(②)。
その結果、表皮に弱い部分があると、膨らもうとする力はその一点に集中して逃げようとします(③)。
結果としてクープが開き、開いた分だけボリュームが増加し軽い食感になります(④)。
この時、何も切込みを入れていない場合は底面のとじ目や側面のたまたま弱くなっていた部分が裂けて広がります。
これだとどこが裂けるかわからないので見た目も食感も不揃いになってしまいます。
なのであらかじめ人為的に表皮の一番弱い部分を作っておくことでその原理をコントロールする必要があるのです。そのために入れるのがクープです。
ハード系にクープを入れるのに、なぜソフト系には入れないのか?

柔らかいパンはクープを入れなくても十分キレイに膨らむけど…
それは生地の質感の違いが大きな理由です。
ハード系の生地の多くは砂糖や油脂などの副材料を入れないシンプルな配合のため、生地の伸展性があまり高くありません。
その上、グルテン量の多くない粉を使いながらもあまり強くは捏ねないため、生地の丈夫さもソフト系に比べて劣ります。
一方でソフト系の生地には副材料が豊富に入るため、生地の伸展性が高く、またグルテンの多い粉でしっかり捏ねて作るため丈夫さもあります。
伸びやすいから窯の中で生地が勢いよく動くため表皮の焼き固まりが遅く、丈夫だから表皮のどこかが裂けることもありません。
焼き固まりが遅いから、自由に膨らむことが出来ます。
わざわざクープを入れなくてもキレイに大きく膨らむから、ソフト系ではクープを入れないパンが多いのです。

ハード系でもあえてクープを入れずにギュッと詰まったパンにすることもありますよ。
家庭のオーブンでクープが開きにくい理由
下火調整ができない
まず一番大きな理由として挙げられるのが、下火加熱が無いことです。
パン屋さんで多く使われているのは、下火と上火を個別に温度調整できる「デッキオーブン」です。

庫内天井にはもちろん、庫内の床板(炉床)にもヒーターがついており、それぞれ個別に稼働しています。
家庭用オーブンレンジの多くは熱風を循環させて加熱する「コンベクションオーブン」です。

ヒーターは庫内上部にしかありません。
熱風循環によって焼きムラは少なくできますが、オーブン底部はヒーターが無いので下火調節ができません。
なのでパン生地を載せた天板ごとオーブン庫内に入れることになるのですが、これだと生地は上と横からしか熱を受けることが出来ません。
庫内に入れた数分後に天板が温まってようやく底部から熱を受けられます。
一方で、パン屋さんではハード系を焼くとき天板に生地を載せずオーブンの床板に直接置いて焼きます。
なので窯入れ直後の時点で底部から直接熱を受けられます。

この時点で家庭用オーブンが不利なのがわかりますね
そして、これがクープにどう影響するのかというと…
家庭のオーブンは下からの熱が無い分、ようやく中心部が膨らもうとした時点で既に表皮がそこそこ焼き固ってしまいます。
その時、クープまでも焼き固まっているともう開きません。
クープが焼き固まるまでに如何に大きく膨らますことができるか、それが勝負どころというわけです。

天板を事前に熱くしておけば、デッキオーブンの下火が再現できる!?
とても有効な方法ではありますが、それでも完全再現は出来ません。
デッキオーブンは下火のヒーターがあるため、炉床の温度が低下すると自動的に加熱されます。
しかし、家庭用オーブンでそれを再現すべく天板予熱をしても、生地をのせたら天板の熱がどんどん奪われて温度が低下してしまいます。
天板にはヒーターがついていないので、一度下がってしまった天板の温度は中々戻りません。
スチームの質が全く違う
最近の家庭用オーブンレンジには過熱水蒸気機能が搭載されていることも多いですが、残念ながら業務用のデッキオーブンにはスチーム量とスチームの質で敵いません。
家庭のオーブンのスチームは水タンクから常温の水を庫内に吸い上げて蒸発させる仕組みですので、スチームというよりは庫内加湿に近いです。
一方デッキオーブンのスチームは、水道からの水を一旦ボイラーで高温にし、そこで出来たアツアツのスチームを庫内に勢いよく噴出します。
なのでスチームの質と量が圧倒的です。
スチームの質が良ければ、パンの表面はより焼き固められるまでの時間が稼げます。
また、庫内湿度が上がること生地への熱伝導も良くなります。
家庭用オーブンレンジの弱いスチームでは、これほどの恩恵は得られません。

もちろん、無いよりあった方がマシです!
【誰でも簡単!】クープが開きやすくなるコツ
以上、家庭用オーブンレンジにはクープが開きにくい不利な点がいくつもあるため、お家で見栄えのいいクープを再現するにはコツがいります。
それぞれ詳しく見ていきましょう!
クープにオイルを垂らす

クープにオイルを垂らすことで焼成時の焼き固まりをその部分だけ遅らせることが出来ます。
コンベクションタイプでは庫内をくまなく循環する熱風のせいで、生地表面のみならずクープまで乾燥しやすくなるため、お家でのパン作りで非常に有効な手段です。

フランスパンに油脂を使うって邪道な気がする…

僕も昔はそう思いましたが、目的をよく考えてみましょう!
確かにフランスパンには油脂を配合しないため、いくらクープのためとはいえオイルを使うのに抵抗を感じるのも無理はありません。
しかし、本来の目的は美味しいフランスパンを作ることのはずです。
「クープが開かない=膨らみが弱い=中が詰まってる=火通りが劣る」です。
美味しくて消化に良いフランスパンを作るためには、クープの開き具合は重要課題と言えます。
オイルを使わずクオリティの低いパンになるくらいなら、使って美味しいパンを作る方が賢明だと思いませんか?
パン屋さんで売っているフランスパンだって全く油脂が入っていないとも限りません。
発酵コンテナにくっつき防止のスプレーオイルを使っていたり、ミキサーはソフト系と共用だったり…何かしらの形で油脂は微量なりとも混入します。
何より、目的の無い思い込みに縛られず柔軟な考え方でパン作りをした方が楽しさの幅が広がるはずです。ぜひやらず嫌いせずに試してみてください。

米油がおすすめだよ!
ちょっと深めに切り込む
クープの最深部は元々熱が当たりづらいという性質があるため、デッキオーブンで焼くならごく浅いクープでも十分に開きます。
しかしコンベクションタイプだとデッキオーブンと比べて最深部にも熱が行きやすいので、オイルを垂らしてもクープが開かないようならもう少し深めに切込みを入れてみましょう。
高めの温度で予熱する
家庭用オーブンは業務用に比べて蓄熱性に劣ります。
そのため、210℃で焼くために210℃で予熱し、その後生地を入れるために扉を開けると温度が一気に逃げてしまいます。
温度が下がることを見越して予め指定温度よりも高く予熱をしておくことで、扉を閉めた後の庫内温度が丁度良くなります。
また、予熱完了でブザーが鳴ったとしても、すぐに焼き始めるより数分そのまま待機させた方が予熱クオリティは高いです。
使う温度にもよりますが、特に高い温度で焼きたい場合ほど予熱時間は長く儲けましょう。

実際に何℃高く設定すべきかは、何回か試して良いポイントを見つけましょう。
天板を事前に予熱する
クープを開かせるには下火からのダイレクトな加熱が重要です。
そのためオーブン予熱時には天板も中に入れて温めておく必要があります。
先述の通りデッキオーブンは炉床の温度が下がると自動的にヒーターで加熱されますが、コンベクションタイプだと天板をピンポイントで加熱してはくれません。
生地をのせると天板の熱は生地にいくらか奪われるため、それを見越して少し高めの温度で十分に予熱をしておきます。

予熱の間、生地はどうするの?どうやって庫内に入れるの?
予熱の間は天板に生地をのせておけないので、ダンボールか何かの上にオーブンシートを敷いてそこにのせておきましょう。
焼くタイミングになったらオーブンシートごとシュッと滑らせて庫内に入れます。
テーブルクロス引きのイメージで勢いよくやると成功します。
庫内に蒸気を充満させる
家庭用オーブンのほとんどは、焼き始めてからスチーム機能を使用しても十分な効果が得られません。
そこで、予熱の段階から庫内を蒸気でいっぱいにしておくことをおすすめします。
予熱モードではスチームが出せないものであれば、予熱終了のブザーが鳴ったら一旦そのまま何も入れずに本加熱をスタートさせて、そこでスチームを出しておきます。
ただし、扉を開けると熱い蒸気が出てくるので、至近距離で顔をのぞかせながら開けるのは避けましょう。
あるいは、庫内の床に石をたっぷり入れたトレーを置いて予熱し、焼成開始時に水を注ぎこみ一気に蒸気を作る方法もあります。

石は温まりにくく冷めにくい性質があるので、一度熱くなればその蓄熱効果は頼りになりますが熱くなるまで時間がかかります。
予熱時間を前もって30分以上は見込んでおく必要があるため、手間や電気代のことを考えるとそこまでしなくても良いように個人的には思います。
魔法の天板を使う
家庭用オーブンの初期装備として付属されている天板は熱伝導があまり良くありません。
また、平らになっていないためシートごとスライドさせて入れる時に不便さがあります。
それらの欠点を全て克服したのが「魔法の銅板」シリーズです。

銀色のステンレス製(又はアルミ製)の板と銅板の2枚1組のセットとなっており、先にステンレス板を予熱で温めておき、生地をのせた銅板をその上に置いて焼成することが出来ます。
銅板は熱伝導が非常に良く、ステンレス板がしっかり温まっていればその熱を十分生地に伝えることが出来ます。
もちろん、銅板も一緒に予熱しておく使い方も出来ますし、その方が下火の低下を防げてより良い結果が期待できます。
下火のクオリティはハード系だけでなく食パンなどの型焼きパンでも重要なポイントです。
今よりワンランク上の美味しさのパンを作りたいなら、ぜひお試しください!
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僕はもう7年使い続けているので、十分元は取れたと感じています!
【要確認】コレが出来ていないと絶対開かない!
クープを開きやすくするコツはいくつもありますが、それらは言ってしまえば「家庭用オーブンを業務用オーブンの状態に近づける」ための手法です。
基本が出来ていないといくら業務用オーブンでもクープは開きません。
ここからはクープを開かせるために必須な基本について解説します。
成型でしっかりハリをつけてるか?

クープの入れ方ばかりに気を取られている人が見落としがちなのが成型です。
バゲットなどのフランスパンの成型では、ただ棒状にすれば良いわけではありません。
いかに生地表面に「抗張力」を与えられるか、それが最重要です。
ピンと張った輪ゴムの一部分に切れ込みを入れると、徐々に避けてきて最後は勢いよく切れてしまいますよね?
これも抗張力によるもので、輪ゴムはピンと張られた状態から常に元の状態に戻ろうとしているのです。
パン生地も成型時に表面に張りを与えるよう成型することで、最終発酵後も抗張力が程よく残るためクープを入れると自然と開くようになります。

この動画で詳しい成型のコツがご覧になれます!
発酵は十分にとれているか?
窯伸びしやすい生地を作ることは、クープの開き具合に大きな影響を与えます。
そこで特に重要なのが発酵具合です。
発酵が十分にとれている生地は以下の理由から窯伸びがしやすい状態と言えます。
- 炭酸ガスが多く内包されているから
- 生地が程よく緩んで膨らみやすくなっているから
生地内に発生した炭酸ガスは窯の中で熱膨張します。
生地内の炭酸ガスが多ければそれだけ膨張も大きいということです。
そして成型直後の生地は弾力が強すぎて膨らみにくい状態です。
それを寝かせて程よく弾力を落ち着かせることで膨らみやすい状態になります。
発酵で生成されるアルコールもグルテンを軟化させる作用があるため、生地の緩みに貢献します。

発酵不足の生地を焼くというのは、例えるなら新品で硬く膨らませにくい風船を、空気注入量の少ないポンプで無理に膨らませるようなものです。
発酵を十分にとった生地なら、手で伸ばしほぐして柔らかくなった風船を特大ポンプで一気に膨らませるようなもの。

けど成型がしっかり出来ていれば、発酵不足でもクープは開く場合が多いよ!
発酵オーバーに注意
発酵不足はもちろん、過発酵もクープの開き具合に悪影響です。
特に最終発酵がオーバーすると、成型で生地表面に蓄えた抗張力が落ち着きすぎてしまうことで開き具合が弱くなります。

発酵不足と過発酵、どっちの方が影響大きいの?
クープの開き具合で言えば過発酵の方が影響は大きいと言えそうです。
発酵不足の方がクープは開きやすいですが、生地表面の抗張力が残りすぎていると表面は全く伸びずにクープ部分だけが膨らんでしまい、まるでラクダの背中のようにいびつな形状に焼きあがってしまいます。
「クープを開かせる」という目的は達成しているかもしれませんが、それだとあまり自由に膨らんでいないのも事実です。食感や口溶けに影響するでしょう。
やはり適切な発酵具合で抗張力と緩みのバランスを整えることが重要です。
捏ねすぎるとクープが開かないって本当?
「捏ねすぎると開かないから、なるべく捏ねないのが正解」と思っている方も多いですが、それは間違いです。
むしろ、しっかり捏ねて作る方がクープは開きやすいです。

じゃあなんでハード系は捏ねない方が良いって言われてるの?
それは捏ねれば捏ねるほど小麦本来の香りが弱くなるからです。
ハード系はいかに小麦の香りを残すかが美味しさに繋がります。
だから捏ねない製法を選択する人が多いのです。
ただし、ただ捏ねないだけだと生地の伸展性と丈夫が劣ってクープは開きにくくなるので、代わりに一次発酵でパンチを複数回行ったり、オーバーナイト法でグルテン酸化を進めたりと様々な調整を行うのです。

捏ねて作る方が大失敗のリスクは少ないですよ。
一本クープで見極めてみよう
三本以上の切込みを入れるクープは、角度や重なり具合など慣れるまでは難しいため、まずは縦に一本のシンプルなクープでしっかり開くか挑戦してみましょう。
バランスなど特に考える必要はないため非常に難易度が下がります。
逆に一本クープでちゃんと開かない場合、やはり基本が出来ていない可能性が高いですので、見極めの手段としても一度やってみることをおすすめします。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 生地表面とクープ部の固まる時間差によってクープが形成される。
- クープにオイルを垂らすことが最も簡単な裏ワザ。
- 成形による抗張力と、発酵による適度な緩みと十分な炭酸ガス生成が重要。
クープの開き具合はパン作りの基本がどれだけ出来ているかを表すと言っても過言ではありません。
ぜひ見栄えも味も美味しいフランスパンを目指して挑戦してください!