準強力粉は強力粉・薄力粉をブレンドで
代用できるって本当?
フランスパンなどハード系のパンを美味しく作るために開発された「準強力粉(フランスパン専用粉)」。
その中で最も日本でポピュラーな「リスドォル」ですが、これを「強力粉+薄力粉」のブレンドで代用しても同じものは出来ません。
この記事では、リスドォルを強力粉・薄力粉のブレンドで代用すると何が違うのか、そして代用時に注意する点について解説します。
リスドォルと強力粉+薄力粉ブレンドの違い
「強力粉8:薄力粉2」で準強力粉の代用ができる
とよく言われていますが、決して全く同じモノにはなりません。
もし同じだったら皆わざわざ準強力粉を買わないですよね
では、一体何が違うのか?
粉自体の特徴として大きく異なる点はこの2点です。
- 粉末麦芽の存在
- 製粉方法の工夫
それぞれ詳しく見ていきましょう。
粉末麦芽の存在
リスドォルはフランスパン専用粉ではありますが、実は使われている小麦自体は北米産が中心です。
いわゆる一般的な強力粉や薄力粉と同じ産地です。
フランス産じゃないの!?
なら代用で同じになるんじゃない?
ここでリスドォルの原材料表示をご覧ください。
リスドォルには「粉末麦芽(モルトパウダー)」が添加されています。
粉末麦芽はフランスパンのレシピでもよく使用される食材で、同じ目的で使われるもので「モルトシロップ」というものもあります。
いずれも発芽大麦を原料としており、酵素が豊富に含まれています。
粉末麦芽が原材料に使用されているリスドォルは、通常の強力粉や薄力粉に比べて酵素量が多いということになります。
リスドォルから話は逸れますが、国産準強力粉「TYPE ER」には「麹粉末」が添加されています。
これも粉末麦芽と役割は同じで、麹菌が持つ豊富な酵素を利用するための食材です。
また、準強力粉の中には粉末麦芽も麹粉末も添加されていないものがあります。
それらは小麦に含まれる酵素が元から多く、「何も添加する必要が無いと判断されたから添加されていない」と捉えて良いでしょう。
もちろん、それぞれで含まれる酵素の量には差があります。
酵素はハード系パン作りで超重要
酵素の量が違うと何が問題なの?
酵素には様々な種類がありますが、とりわけ製パンで最も重要な役割を持つのが「でんぷん分解酵素(アミラーゼ)」です。
砂糖を使わないハード系の無糖生地は、酵母菌の発酵で使用する栄養源をどこから調達するのでしょうか?
答えは小麦粉のでんぷんです。
小麦粉のでんぷんを酵素の力で麦芽糖に分解することで酵母菌のエサが用意できます。
酵素の量が多ければそれだけ発酵のエサが豊富に用意できるということで、発酵による消費よりも分解による糖生成が上回ればそれだけ糖度の高いパンとして焼きあがります。
その結果としてどんなパンになるかは、後ほどの項目で詳しく解説します!
製粉方法の工夫
フランスパンを美味しく作るために開発された準強力粉は、その製粉方法にも特徴があります。
一般的な強力粉と薄力粉は機械で製粉されます。
常に回転し続ける金属ローラーは高温です。その熱で酵素は壊れてしまいます。
更に薄力粉は原料となる小麦が「軟質小麦」という柔らかい小麦のためかなり細かく粉砕されてしまいます。
そのため物理的にも強力粉よりも多くの酵素が壊されます。
リスドォルをはじめとした準強力粉は、こうしたローラーによる酵素の失活を考慮して、大小様々な粉粒子が混在するように配合されています。
粒子の大きな粉はローラーによるダメージが少ないため、細かく砕かれた粉よりも残存活性酵素が多いのです。
このような製粉の工夫によって、小麦が本来持っていた酵素を残すような努力がなされています。
リスドォルとは話が逸れますが、石臼挽きの粉をハード系に使うお店も多いです。
石臼製粉は金属ローラー製粉と違って温度が上がらないため、比較的多くの酵素が残る特徴があります。
そのため粉末麦芽や麹粉末が添加されていなくとも、比にならないほど酵素活性が高い場合もあります。
焼き上がるパンへの影響は?
残存酵素の量に差があるのはわかったけど、実際にどんな違いが現れるの?
残存酵素量の違いはパン作りの様々な部分に影響を与えます。それぞれ詳しく見ていきましょう!
発酵力
フランスパンなど砂糖を入れない無糖生地では、発酵に使う栄養源を生み出すために酵素の働きが必要不可欠です。
酵素が少ないと麦芽糖の生成量が減ります。
ですが酵母菌は構わず麦芽糖を消費し続けるため、生産が間に合わず途中でエサ不足となる可能性があります。そうなると後半の工程(特に最終発酵)での発酵力に悪影響を及ぼします。
じゃあ酵素が少ない場合は
イーストを減らせばバランス取れるってこと?
そうなります!逆に酵素が多い場合はイーストも増やした方が良いですよ
自然な甘み
酵素によるでんぷん分解が盛んな生地では、麦芽糖が多く生成されます。
酵母菌による糖分消費よりも麦芽糖生成の方が多ければ、最終的に麦芽糖が余ります。
その残存糖分はパンの自然な甘味として働きます。
逆に酵素が少なければ酵母菌に糖分を消費され尽くしてしまう恐れがあり、その分だけ甘味も残らず焼き上がります。
焼き色
残存糖分はパンの焼き色を濃くすることにも繋がります。
パンの焼き色の元となる化学反応「メイラード反応」と「カラメル化」は、どちらも糖分の存在が必要不可欠。
残存糖分が多いほどそれらの反応も促進され、パンの焼き色が向上します。
逆に酵素が少ないことで糖分があまり残存しなかった場合、焼き色も薄くなってしまいます。
糖分と焼き色の関係についてはコチラの記事で詳しく解説しています。
香り
焼き色の元となる化学反応「メイラード反応」と「カラメル化」では、同時にパン特有の香り成分も生成されます。
残存糖分が多ければ焼き色と共に香り成分も多く生成され、少なければ焼き色が薄くなるのと同様に香りも薄くなります。
焼き色を付けず白く焼くパンだと
それらの香りも得られないんです
リスドォル代用時の注意点と対策
先述のように、リスドォルと強力粉+薄力粉ブレンドでは根本的な違いがあるために、全く同じものだと思って作ると様々な壁にぶつかります。
ですが、工夫をすることでそれらの違いの差を縮めることもできます。
ここからはブレンド代用をする場合に注意する点と対策について解説します。
発酵が遅くなることを視野に入れる
砂糖を使うレシピであれば問題ありませんが、無糖生地の場合は発酵に使う糖分はでんぷん分解による麦芽糖に頼るほかありません。
何の工夫もせずただ代用するだけでは、発酵が遅くなる場合があります。
発酵が遅くなる?じゃあイースト増やせばいいよね?
それは絶対にダメです!!!
イーストを増やしたら、糖分生成がさらに追いつかなくなり、その生地の発酵持久力はもっと悪くなります。
この問題を解決する方法としては、
- モルトを追加
- イーストを減らす
- 酵素活性の強い強力粉を使う
主にこの3点になります。詳しくみていきましょう!
モルトを追加
リスドォルは粉末麦芽を添加することで酵素活性を調整した製品です。
ということは、強力粉+薄力粉ブレンドで酵素が少ないなら、同じことをすればいいのです。
モルトパウダーでもモルトシロップでも、どちらでも構いません。
この対策をとれば、甘味・焼き色・発酵持続力の問題は解決できますし、リスドォル自体が元々そこまで小麦の香りが強いわけでもないので香りの点でもかなり補うことができます。
イーストを減らす
あるいは、酵素分解による糖分生成がリスドォルに比べて遅いことに寄り添って、イーストを減らして糖分消費も遅くしてあげる方法も考えられます。
もちろん、この場合は必要な発酵時間が長くなりますので、個人的にはモルト追加の方が手っ取り早くてオススメです。
酵素活性の強い強力粉を使う
元から酵素活性の強い強力粉を使えば、リスドォルにも負けない酵素分解が期待できます。
スーパーで手に入るような一般的な強力粉は酵素活性が低いのですが、専門店で入手できる灰分値が高めの粉や石臼挽きの粉は酵素活性が高い傾向にあります。
特に後者はかなり活性が高いので、リスドォル単体で作るよりも酵素が多くなるかもしれません。
むしろ分解の進み過ぎで生地がダレてしまう懸念を持っておく必要があるくらいです。
その場合は水分量を減らしたり、イーストを増やして生地がダレないうちに早く完成させるという選択肢も有りです。
石臼挽きは穀物らしいワイルドな香りがあるので一石二鳥!
香りを補う
ブレンド代用による弊害は酵素量だけでなく、香りの差も重要です。
リスドォルに関して言えば元々そこまで強い香りの粉ではないので注視するほどでもないですが、他の準強力粉は香りの強いものが多いです。
そういった粉を強力粉+薄力粉で代用すると確実に香りが弱まります。
ブレンド代用でも香ばしさを補いたいのであれば…
- 全粒粉・ライ麦を少量配合する
- 灰分値高めの粉や石臼挽きを使う
こういった工夫が考えられます。
ブレンド割合は必ずしも8:2ではない!
強力粉も薄力粉も、その銘柄によって様々なたんぱく量の商品があります。
使う銘柄が違うだけでも、同じ8:2でブレンドした場合であってもたんぱく量に差が出ます。
たんぱく量11.5%の強力粉の場合
(11.5×0.8)+(8.5×0.2)=10.9%
※強力粉蛋白量+薄力粉蛋白量=合計
たんぱく量12.3%の強力粉の場合
(12.3×0.8)+(8.5×0.2)=11.54%
※強力粉蛋白量+薄力粉蛋白量=合計
※たんぱく量8.5%の薄力粉を使用する前提です。
10.9%と11.5%、その差はわずか0.6%ではありますが、たんぱく量としては大きな差です。
もちろん、たんぱく量のうちすべてがグルテンではなくその他のたんぱく質も含まれているため、必ずしも計算だけでグルテン量を確定することは出来ません。
しかし、たんぱく量が多い粉はグルテンも多い傾向があるのも事実ですから、生地感を予測する目安としては十分です。
ちなみにリスドォルのたんぱく量は10.7%±0.5%です。
「その年の気候などによって前後することもあるよ」という表記ですが、少なくとも上記の「たんぱく量12.3%の強力粉の場合」だとグルテンが多すぎる可能性が高いですね。
リスドォルと本当に近い生地感と吸水能力を得るためには、ブレンド割合を計算し直す必要があります。
以下にブレンド割合の計算方法をご紹介します。
Q.たんぱく量12.3%の強力粉・8.5%の薄力粉を使用してたんぱく量10.7%を再現する場合
(12.3×A)+(8.5×B)=10.7
B=(1-A)を代入する
(12.3×A)+{8.5×(1-A)}=10.7
12.3A+8.5-8.5A=10.7
12.3A-8.5A=10.7-8.5
3.8A=2.2
A=2.2/3.8
A≒0.58
B=(1-A)なので
B=(1-0.58)
B=0.42
よってたんぱく量10.7%になるブレンド割合は…
強58%+薄42%
計算の難易度が高いので
無理なら準強力粉を買いましょう!
オススメの準強力粉の購入はコチラ
cotta フランスパン用準強力粉 リスドォル 2.5kg特に何も調整せず代用できるパターンもある
パン・ヴィエノワやブリオッシュなどフランス発祥のリッチなパンのレシピでは、リスドォルなど準強力粉(フランスパン専用粉)が指定されているレシピも多いです。
このようなパンは砂糖を入れるため粉の酵素量はそこまで重要ではありません。
そしてバターや卵といった副材料の香りを主体とするため、わざわざ小麦の香りが強い粉を使う必要もありません。
逆にクセのない淡白な粉を使った方が風味がクリアーになります。
要するに、無糖生地のハード系パンに比べて、「フランスパン専用粉」の恩恵はあまり活きないのです。
その代わり強力粉一本だと歯切れ・口溶けの良さを演出出来ません。
「食感を再現する」という目的だけ達成すればいいのですから、強力粉と薄力粉のブレンドで十分なのです。
ブリオッシュは完全にバターで勝負するパンですから、バターの種類に拘るべきです。
パン・ヴィエノワならギリギリ粉の風味による違いは出るかもしれませんが、調理パンとして二次加工すると主役は具材です。粉に拘ることによる恩恵は薄れるでしょう。
でもフランスのパンなんだから
フランスパン専用粉で作るべきじゃない?
「フランスパン専用粉」の全てが
フランス産小麦というわけではないですよ
今一度確認しましょう。
リスドォルに使われる小麦の産地は「カナダ・アメリカ・オーストラリア」が主体です。
本場さながらに作りたいという思いがあるなら、粉の産地を十分確認して選択しましょう!
その上で間違いなくフランス産を使うのであれば、ぜひその意志を貫いてください!
副材料との組み合わせが上手くハマれば、すごく美味しくなるかもしれない…
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- リスドォルを強力粉・薄力粉で代用すると酵素量が減ることに注意
- 酵素は無糖生地でのパン作りで味・見た目・香り・発酵全てに重要
- モルトを追加するのが最も手っ取り早い対処法
- リッチなパンならむしろ美味しくなる可能性も
粉の選択は考えるポイントが多くて知恵熱が出そうですが、それだけ奥が深くとても面白い分野です。
ぜひ代用のコツを理解して美味しいフランスパンを作ってください!