赤サフと金サフ、よく膨らむのはどっち?様々な要因で変わる発酵力と耐糖性の仕組みを比較実験で解明!

赤サフ金サフ発酵力の違い

インスタントドライイーストの定番と言えば、赤サフと金サフ。これらのイーストをレシピの糖分量によって使い分けている方も多いでしょう。

ですが、こんな疑問ありませんか?

砂糖が少なくも多くもないレシピではどっち使えばいいの?

砂糖が少ないレシピで金サフは使えないの?

赤サフと金サフの違いは耐糖性の有無ですが、糖分量の多い少ないだけでなく様々な要因によってこれらの発酵力は変わってきます。

この記事では、赤サフと金サフを様々な条件で比較実験してその発酵力の違いを解説します。

赤サフと金サフ、どっちがよく膨らむ?

金サフに耐糖性があって多糖生地でも良好な発酵が得られることは比較的よく知られている事実です。

しかし、その事実から連想してこのように考えていませんか?

糖分に強いくらいだから、赤サフよりも発酵力が強いんじゃないの?

実は発酵力自体は赤サフの方が強いのです。

それを証明すべく、様々な糖分率で発酵力を比べてみました。

赤サフと金サフの発酵力の違い

水20gに対して、砂糖を入れないもの・砂糖2g入れたもの・砂糖8g入れた発酵種で比較しました。

糖度でいうとそれぞれ無糖生地・砂糖8%配合生地・砂糖24%配合生地に相当します。

バゲット
無糖と言えばフランスパン
角食パン
砂糖8%はややリッチな食パン
あんぱん
砂糖24%は菓子パン生地

砂糖8gの種だけは金サフの方が発酵が早く進みましたが、それ以外は両方とも赤サフの方が早く進みました。

金サフは糖分に強いから発酵力も強いというわけではなく、基本的には赤サフの方が発酵は早いと言えます。

なぜ糖度によってこのように変わるのか?それは金サフの「耐糖性」の仕組みに原因があります。

配合
薄力粉20g
赤or金1g
上白糖0g
20g
糖度0%
薄力粉20g
赤or金1g
上白糖2g
20g
糖度9%
薄力粉20g
赤or金1g
上白糖8g
20g
糖度28.5%

それぞれ混ぜ合わせた後、30℃/50分の発酵。

※真ん中の砂糖2g生地は、一般的な砂糖8%配合のパン生地に相当する糖度です。

砂糖よりハチミツの方が発酵が早くなる⁉

パン作りにおける「発酵」と呼ばれるプロセスでは、酵母菌が糖を分解してアルコールと共に二酸化炭素を排出することで生地が膨らみます。

しかし、実は使用する糖分の種類が違うとそのスピードが変わるのです。

例として、上白糖とハチミツで発酵力を比較した結果をお見せします。

赤サフ_上白糖:はちみつ

水20gに対して糖分2g、パンのレシピで言うと砂糖8%配合の生地(やや砂糖の多い食パン等)に近い糖度です(配合の詳細は後述)。

ハード系よりは糖分が多く、菓子パンよりは少ないこの環境では、ハチミツを使った方が発酵が早く進みました

その理由は、上白糖とハチミツでは糖の種類が異なるからです。

上白糖とハチミツの主成分の違い
上白糖の主成分
ハチミツの主成分

酵母菌はブドウ糖や果糖といった単糖類を分解することで二酸化炭素とアルコールを生成します。

しかしショ糖という結合した状態の糖はそのままでは分解できません。

酵母菌は自身が持つ「ショ糖分解酵素(インベルターゼ)」を使ってショ糖を分解してから、再度それぞれを分解するのです。

砂糖を使った時の酵母菌の仕事
インベルターゼによるショ糖分解

チマーゼによるブドウ糖分解の仕組み

しかし、ハチミツの主成分は果糖とブドウ糖、つまり既に分解済みであるため、ショ糖を分解する手間が一つ省けるのです

手間が一つ減ることで、ハチミツは砂糖より発酵が早く進むということです。

配合
薄力粉20g
金サフ1g
上白糖2g
20g
糖度9%
薄力粉20g
金サフ1g
蜂蜜2.5g
19.5g
糖度9%

それぞれ混ぜ合わせた後、30℃/50分の発酵。

※ハチミツは「糖分:水分=8:2」のため、上白糖2gと同じ糖分率になるよう2.5gに調整し、そこに含まれる水分0.5gを水20gから差し引いて19.5gとすることで、総糖分量・総水分量を同率に揃えました。

金サフだと差がより大きい

耐糖性イーストである金サフはインベルターゼ活性が低いため、ショ糖の分解が遅いです。

そのため上白糖生地とハチミツ生地を金サフで作り比べると、その差は赤サフよりも目立ちます。

金サフの耐糖性、使う糖分によっては効果なし!

砂糖をハチミツで代用したら膨らまない⁉

金サフの耐糖性が「浸透圧耐性」ではなく「浸透圧上昇抑制」であることを検証するため、上白糖とハチミツで発酵力の違いを比較してみました。

金サフ_砂糖:はちみつ

低糖配合だとハチミツの方が発酵が早かったのに対し、多糖配合だとハチミツの方が明らかに発酵が遅い結果が得られました。

同じ糖分量なのに発酵力にこれほどの差が出るという事は、やはり金サフの耐糖性の仕組みは「浸透圧に強い」ではなく「浸透圧上昇の抑制」であることがわかります。

配合

一般的な菓子パン生地の糖度に相当する多糖配合です。

薄力粉20g
金サフ1g
上白糖8g
20g
糖度28.5%
薄力粉20g
金サフ1g
蜂蜜10g
18g
糖度28.5%

それぞれ混ぜ合わせた後、30℃/50分の発酵。

※ハチミツは「糖分:水分=8:2」のため、上白糖8gと同じ糖分率になるよう10gに調整し、そこに含まれる水分2gを水20gから差し引いて18gとすることで、総糖分量・総水分量を同率に揃えました。

ハチミツの”抗菌成分”が発酵を阻害する?

ハチミツには抗菌成分が含まれてるって聞いたけど…それが原因じゃないの?

確かに、ハチミツには蜜蜂が蜜を守るために生み出した抗菌成分1がいくつか含まれているのも事実です。

しかしそれがパン作りで酵母菌の発酵を阻害することに繋がるのか?

それを検証すべく、ハチミツと同様に単糖類から構成される「アガベシロップ」で比較してみました。

アガベシロップは竜舌蘭リュウゼツランという植物から取り出した液体を濃縮しただけのものであり、蜜蜂は関与しておらず抗菌成分は含まれていません。

これで発酵力にハッキリと差が出れば、ハチミツの抗菌作用はパン作りに影響すると言えますが…

金サフ_はちみつ:アガベ

50分後の結果はほとんど差が見えませんでした。

わかりやすくするために追加で15分ずつ更に発酵させてみました。

金サフ_はちみつ:アガベ(15~30)

若干ですがアガベシロップの方が発酵が早いように見えますが、この程度だと誤差の範囲とも言えます。

少なくとも、一般的なパン作りにおいてはハチミツの抗菌作用が生地の発酵に大きな影響を与えることは無さそうですね。

配合

一般的な菓子パン生地の糖度に相当する多糖配合です。

薄力粉20g
金サフ1g
蜂蜜10g
18g
糖度28.5%
薄力粉20g
金サフ1g
アガベ10.38g
17.62g
糖度28.5%

それぞれ混ぜ合わせた後、30℃/50分の発酵。15分ずつ追加で様子見。

※アガベシロップは「糖分:水分=77:23」でありハチミツとやや異なるため、同じ糖度になるよう使用量を調整しました。

ハチミツが多い生地では金サフより赤サフ⁉

それでも、ある程度は浸透圧に耐性があるんじゃないの?

耐糖性が「浸透圧耐性」ではないことを証明するため、同じ量のハチミツを用いて金サフ・赤サフの発酵力を比較してみました。

はちみつ多糖_金サフ:赤サフ

よく見ると赤サフの方がほんの少しだけ発酵が早いのがわかりますか?

仮にこれが誤差だとしても、少なくとも金サフが赤サフより発酵が早いわけではないことは確かです。

ということは、浸透圧耐性は金サフも赤サフも大して違わないということになります。

配合

一般的な菓子パン生地の糖度に相当する多糖配合です。

薄力粉20g
金サフ1g
蜂蜜10g
18g
糖度28.5%
薄力粉20g
赤サフ1g
蜂蜜10g
18g
糖度28.5%

それぞれ混ぜ合わせた後、30℃/50分の発酵。

まとめクイズ

A.ハチミツ

上白糖はショ糖(二糖類)から成るため「ショ糖分解→ブドウ糖・果糖分解」の2段階プロセスを経て炭酸ガスを生成するが、ハチミツはブドウ糖・果糖(単糖類)から成るため「ショ糖分解」のプロセスが省略されます。故にガスの出始めが早いのです。


<脚注>

  1. ミツバチが作り出す天然の抗菌成分「プロポリス」や、ハチミツ自体の酸化反応で生成される「過酸化水素(H₂O₂)。 ↩︎
この記事を書いた人
パン作り研究家
ナオキパン

当サイト及びYoutubeチャンネル「パン作りの教科書 / ナオキパンchannel」を運営。
パン作りのコツや製パン理論を科学的な観点からわかりやすく解説し、パン作り上達の楽しさを広めることに加え、正確な製パン情報の普及に努める。
ベーカリーや食パン専門店など数々のパン店立ち上げや現場責任者の経験有。
自律神経失調症によりパン業界を一時離脱した際に、自身の知識と経験が誰かの役に立つことを願い、2022年5月から本格的に情報発信活動を開始(現在は寛解しゆる~く復帰)。
パンシェルジュ一級。

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