ゆめちからで作ったら
普段の強力粉より膨らまなかった…
ゆめちからは国産小麦の中でもかなり特殊な粉なので、使い方によってはうまく使いこなせない場合が多いです。
この記事では国産小麦「ゆめちから」で作ったパンが膨らまない理由と対策、上手な使い方について解説します。
- ゆめちからで作ったパンが膨らまない理由と対策
- 国産小麦の特徴と傾向
- グルテン量が非常に多い粉の効果的な使い方
「ゆめちから」とは?小麦の特徴
ゆめちからとは、北海道産の小麦粉で「超強力粉」という分類が特別に設けられるほどグルテン量が非常に多い小麦粉です。
国産小麦の多くはグルテン量が少ないもので、一昔前まで製パンに活用できる品種は限られていました。
そこで日本でのパン用小麦の普及を目的に開発されたのがゆめちからで、実際にゆめちからブレンドすればグルテン量の少ない国産小麦を補うことが出来て、あらゆる品種をパン作りに活用することが出来るようになりました。
国産と外国産の度重なる交配によって開発されていた「キタノカオリ」を、さらに外国産と交配を重ねて作られた、いわば国産と外国産のハイブリッド品種とも言える品種です。
普通の強力粉との違い
一般的な外国産小麦で作られた強力粉1は、たんぱく量がおおむね12%前後です。
一方、ゆめちからのたんぱく量は約13%、これはかなり高い数値です。グルテンになり得るたんぱく質「グルテニン」「グリアジン」2が多いことで吸水能力も高いです。
また、国産小麦と輸入の北米産強力粉の違いとして「でんぷんの質」が挙げられます。
小麦や米のでんぷんは「アミロース」と「アミロペクチン」の2種類から成り立っており、アミロースの割合が増えるほどモチモチ感が減り、少なくなるほどモチモチ感が増加し水を吸う量も増えます。
分かりやすい例がうるち米ともち米です。
うるち米はアミロースが2割含まれますが、もち米にはアミロースが含まれずほぼアミロペクチン100%のため、後者の方がモチモチ感が強く粘り気があります。
そして国産小麦は外国産小麦に比べてアミロースが少ない傾向にあり、モチモチ感や吸水能力・保湿性において優れています。
グルテン量とでんぷんの質、二つの側面から見てゆめちからは一般的な強力粉よりも吸水能力が高くモチモチ感が強いと言えます。
パン作りを左右するのは
グルテンだけじゃない!
でんぷんの詳しい解説はコチラ
ゆめちからで作るとなぜ膨らまないのか
グルテンが多い方が
良く膨らむはずなのに…
グルテンは多ければ多いほど良いわけではありません。あまり多すぎるとコシが強くなりすぎて、酵母菌が生地を内側から膨らませるのが大変になります。
風船で例えるとわかりやすいです。
新品はそのままだと硬くて膨らませるのに強い肺活量が必要ですよね?
ですが事前に手でよく伸ばしてほぐすことで、少し楽に膨らませることができますね。
コシの強いパン生地は、新品で膨らませにくい風船のようなものです。
さらに、アミロペクチンが多い粉は吸水能力が向上する分、水を増やさないと生地が硬くなる傾向にあります。
加えて、グルテンはそもそも弾性を持つグルテニンと粘性を持つグリアジンが水と混ざり合い結合したものです。
小麦粉にはグルテニンとグリアジン以外のたんぱく質も含まれており、その含有量は粉によってまちまち。ということはグルテニンとグリアジンの比率も粉によって差があってもおかしくありません。
ゆめちからのグルテンは弾性のグルテニン優位である可能性も十分に考えられます。
同じゆめちからでもメーカーや年度が違えば質感も変わるので一概には言えませんが…
さらにもう一点、ゆめちからは手ごねでは扱いきれないというのも大きな理由です。
ゆめちから100%だとこね不足になる
生地のグルテン量が多いほど、十分なこね具合を得るためにはより強く長いミキシングが必要となります。
超強力粉や最強力粉のようにグルテン量が非常に多い粉だと、手ごねで十分なこね具合にもっていくことは至難の業で、故にこね不足となります。
こね不足だとグルテンの繊維は太いままで、十分なこね具合で細く均一に張り巡らされたグルテン構造と比べて柔軟性に欠けます。
そういった理由があるため、僕はゆめちから100%で手ごねパンを作ることはあまりオススメしていません。
手ごねに自信が無いからたんぱく量の多い粉を使ってたけど…
それが良くなかったんだ!?
ゆめちからで膨らまない、その対策は?
最も簡単な方法は、100%では使わないことです。
つまり、たんぱく量の少ない粉とブレンドして普通の強力粉と同程度のたんぱく量になるよう作ればいいのです。
国産小麦にはテリア特号やゆきちからなど、グルテン量は少ないけれど香りや味は個性的で美味しい粉がいくつもあります。
そういった粉の良さを活かしながらも北米産に負けない膨らみを得たい、そんなときにゆめちからとのブレンドをお試しください。
実際、日本パン技術研究所での研究結果によると、コシの強いゆめちからを100%で使うよりも、グルテン量の少ないホクシンとブレンドして作る方がより良い製パン性が得られることが示されています。
もちろん、国産以外にも準強力粉も個性豊かな風味の粉がたくさんあります。フランス粉×ゆめちから(北海道)という組み合わせも面白いですね。
どのくらいの割合で
ブレンドすべき?
何とブレンドするかによっても、どんな食感のパンにしたいのかによっても正解は変わってきます。
ですがとりあえず5:5の割合でブレンドしておけば、それぞれの良さを半々で引き出せるので無難でしょう。もちろん最適水分量も条件次第で如何様にも変わるので、初めて試す際は少ない水量から捏ね始めて、加えても良さそうなら適宜加水していくと良いでしょう。
ブレンド割合の計算方法
数値が全てではないけれど
目安としては使えます
機械で捏ねればゆめちから100%でも大丈夫?
家庭用機械でもキッチンエイドのような縦型のミキサーならミキシング効果が高いため、グルテン量の多い粉でも十分に捏ね上げることが出来る可能性はあります。
ですがホームベーカリーやニーダーは期待できません。
ケースの底部で羽が回転するタイプであるこの二つはミキシング効果が著しく低く、手ごねの方が圧倒的に良い生地が出来ちゃいます。
とはいえ、手ごねで良いパンが出来た試しがない人にとって、それはあまり信じられない事実でしょう。
でも大丈夫、実はちょっとしたコツを知識として知るだけで、あなたの手ごねは格段に上達してパン屋レベルのふわふわパンも作れるようになるはずです!
手ごねのコツはコチラの記事で解説しているので、手ごねに自信が無い人ほどぜひ一度読んでみてください。
ゆめちからのグルテン量を活かすには「〇〇法」が最適!?
業務用のミキサーを使っているのであれば、ゆめちから100%でも十分なこね具合まで到達させるのは簡単です。
ですが、手ごねではかなり難しい、というか大変です。それでも製法を変えることでその大変さを軽減することも可能です。
その製法はズバリ「中種法」です。
中種法では事前に粉・水・酵母を混ぜ合わせて数時間寝かせることで、その間にグルテン酸化が自動で進むため、本捏ねの時間を短縮することが可能だからです。
中種法のメリット・デメリットなど詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。
ゆめちからで作るとどんなパンになる?
ゆめちから100%で作ると引きの強い(歯切れの悪い)ムチっとした、モチモチなパンになります。
作り手の想いとしてはモチモチしたパンが出来ると喜んでしまいがちですが、必ずしもそれが万人に受けるとは限りません。実際、ごく普通の強力粉「カメリヤ」で作った程よい食感の方が食べやすくて好きだと言う人も多いです。
ゆめちから100%だと多量のグルテンにより歯切れや口溶けが悪くなりますので、食べにくいと感じる人もいます。
それこそ、日常的に食べるシンプルな食パンであればなおさら食べやすさは重要です。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- ゆめちからはグルテン量がとても多い「超強力粉」。
- グルテン量の少ない粉とブレンドすることで、それぞれの真価を発揮する。
- ゆめちから100%で作ると生地のコシが強すぎて、かえって膨らみが悪くなる。
今まで製パン用には見向きもされてこなかった様々な国産小麦が、ゆめちからの登場によって選択肢に入るようになったのはとても素晴らしいことですね。
ぜひ、個性豊かな国産小麦たちの良さをもっと知るためにも、ゆめちからを効果的に使ってみてください!
<脚注>