ここではパン生地の捏ね上げ温度を自在に操るために必要な、仕込み水温の計算方法を詳しく紹介します!
水温計算が必要な理由から計算式の理屈など、理解・納得で覚えやすいよう解説していますので是非ご覧ください。
なぜ仕込み水温の計算が必要なのか?
パン生地の捏ね上げ温度が確定する要因は三つあります。
- 粉の温度
- 水の温度
- 室温
このうち粉の温度と室温は、すぐに温度を調節するのは難しい。
粉をレンジでチンするわけにもいかないし、室温を瞬時に調節するのも難しい…でも水の温度なら氷やお湯を使えばスグに調節できます。
だからパン作りでは水の温度を調整することで捏ね上げ温度を調整します。
仕込み水温を決める手順
必要な温度データを集める
仕込み水温を計算する前に、いくつか温度をチェックする必要があります。
- 粉の温度
- (室温)
- 上昇温度
- 捏ね上げ温度
粉の温度は、だいたい室温と同じくらいのはずですが、一応計っておくと確実。
室温は計算式から省略することも多いですが、より正確な数値を打ち出すためには使った方がいいです(特に家庭製パンの場合)。
上昇温度というのは、ミキシングでどれだけ温度が上昇するのかを表す温度。
これはパンによっても、手ごねなのかミキサーなのか、ミキサーなら何分回すのかで変わってきます。
お店では基本的に
「低速1分で1℃上昇、中速1分で1.5℃上昇するから…L3M4で9℃上昇かな?」
といった感じに、事前に速度ごとに上昇温度目安を決めていて、回す時間さえ決まればすぐに計算できます。
ご家庭で手ごねする場合も、だいたいで良いので自分が捏ねるとどれぐらい温度が上がったのかを普段から何回か記録しておくと、データとして使えます。わからなければとりあえず4~5℃くらい上がる仮定でやってみましょう。
ホームベーカリーで作る場合も、だいたいどれくらい温度が上がるのか記録しておくといいでしょう。
※上昇温度の記録・調べ方については最後の項目で解説します。
捏ね上げ温度は、レシピで指定されている”何℃に生地を捏ね上げるか”という温度です。
記載がない場合は、通常捏ねてその日のうちに焼く製法で作る食パンやロールパンなど一般的なパンなら27℃でいいでしょう。フランスパンなど発酵時間の長いハード系なら少し低めに25℃くらいで良いでしょう。
冷蔵で一晩寝かせる系のレシピなら、冷蔵庫なのか野菜室なのかで変わるので一概には言えませんが更に4℃くらい低くてOKでしょう。
公式に当てはめていく
解説にあたって先に例題を挙げます。
温度(℃) | |
---|---|
粉 | 22 |
室温 | 25 |
上昇 | 4 |
指定捏ね上げ | 27 |
朝と昼間の気温差がある時期は、このように粉温より室温が高くなっていることがよくあります。
では、公式を紹介します。
「(捏ね上げ温度ー上昇温度)=(粉温+室温+仕込み水温)÷3」
例題を当てはめると
(捏27-上4)=(粉22+室25+水)/3
23=(47+水)/3
23×3=47+水
69-47=水
22=仕込み水温
よって、この場合の仕込み水温は22℃がベストということがわかります。
この公式をよりわかりやすく解釈してみましょう。
右辺「(粉温+室温+仕込み水温)÷3」
…粉と空気と水を混ぜ合わせた時、温度はそれらの平均値になるということ。この計算でミキシングを開始する最初期の温度がわかる(スタート温度)。
※下の絵を見てもらえればこの考え方が理解できます。
左辺「(捏ね上げ温度ー上昇温度)」
…目標の捏ね上げ温度からミキシングで上昇する温度を差し引くことで、ミキシング開始前(ミキシング最初期)の生地温度を逆算している(スタート温度)。
つまり、どちらも形は違えど同じスタート温度を表す計算式をイコールで結んでいるわけです。
室温省略可の公式
室温がパン作りに適した25~27℃程度に調整できる環境であれば、わざわざ室温を計算式にいれずに省いてしまっても問題ありません。
その場合の公式はこうなります。
「(捏ね上げ温度ー上昇温度)=(粉温+仕込み水温)÷2」
こちらの方がより計算がラクですね。
上昇温度はどうやって記録する?
正確な計算のために、自分の手ごねによる上昇温度を把握したいけど、どうやって調べればいいのか?
必要なのはこれらの温度を記録しておくことです。
- 使った粉の温度
- その時の室温
- 仕込み水の温度
- 実際の捏ね上げ温度
- (捏ね時間)
まず、1~3を記録するだけで、スタート温度がわかります。
そして、実際に何度に捏ねあがったのかを記録すれば、これだけで上昇温度を調べる準備は整います。
「実際の捏ね上げ温度ースタート温度=実際の上昇温度」
スタート温度は先述の公式紹介の項目を読んでいただければ求め方はわかるはず。1~3を使って計算してください。
ついでに、実際の上昇温度が何分捏ねたことによって発生した熱なのかをおおまかに把握しておくと、捏ね時間の違うパンを作るときに目安になりますので、念のため捏ね時間も記録しておきましょう。
例えば実際の上昇温度が5℃だったとして、それが25分捏ねたことによる熱であったならば、今度15分程度捏ねるパンを作るときに5℃までは上がらないだろうなぁ…と大まかに予測が出来ます。
手ごねパン作りにおける上昇温度の注意点
ここまで捏ね上げ温度を指定温度にバッチリ合わせにいくための水温計算方法を解説しましたが、ご家庭でのパン作りにおいては計算が正しくても実際の捏ね上げ温度がズレることは多々あります。
それはなぜかというと、一回に作る生地の量が少ないからです。
例えばお風呂のお湯を3分間かき混ぜた場合と、マグカップのお湯を3分間かき混ぜた場合、どちらが早くお湯が冷めますか?
当然、後者ですよね。この時、お湯の温度が何と戦っているかというと室温です。
少ない方が早く部屋の空気に熱を奪われます。
パン生地も全く同じです。
仮に室温が15℃で生地を作った場合、お家で作る程度の生地量だとあっという間に生地は冷えます。ついでに手ごねなら冷え性の方だと手も冷たいので、冷たい手が生地の温度を奪います。
そういった問題があるため、冬の場合は上昇温度ではなく「下降温度」が発生する可能性があります。
出来れば室温を25℃前後に整えるのが生地にとっても最適なのですが、防寒技術がなされていない地域のお家ではそれも難しいですよね。
なので一度データとして計測した上昇温度を一年中使うのではなく、冬は個別にデータを計測し直してどれくらい温度が下がってしまうのかを把握するといいでしょう。
冬のパン作りにおけるコツについてこちらの動画で詳しく解説していますのでご覧ください。
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捏ね上げ温度を指定よりオーバーした場合の対処法
万が一捏ね上げ温度をオーバーしてしまった場合は、
- 発酵時間を短縮する
- 数分間冷蔵庫に入れて温度を調整する
といった対処法をとる必要があります。
これは捏ね上げ温度27℃指定のごく基本的な食パンを例にした目安ですが、捏ね上げ温度が1℃ズレると発酵時間が20分ズレると言われています。
実際にはイースト量や製法によって変わってくるところですが、目安としてそのくらいの調整が必要な場合もあるとお考え下さい。
最終的な判断は発酵具合の見極めテクニックを使ってください。
また、数分間冷蔵庫に入れる手法も効果的です。
特にお家で作る程度の生地量ならこのやり方ですぐに生地温度を調整できます。
この時注意したいのが入れっぱなしにして冷やしすぎてしまうこと。
生地に温度計を中心まで差し込み、冷蔵庫に入れて最低5分ずつ温度確認をしましょう。
また、これらの対処法で一次発酵の調整が出来たとしても、その後の二次発酵などで発酵が早くなる場合も多いです。
捏ね上げ温度オーバーの際は全ての工程において早めのチェックを心掛けましょう。
捏ね上げ温度が指定より低くなった場合の対処法
捏ね上げ温度が目標に届かなかった場合、
- もう少し捏ねる
- 発酵時間を延長する
- 温かい場所に置いて発酵させる
といった対処法があります。
もう少し捏ねる、という対処法は主に食パンなどのソフト系で行われます。業務用のミキサーで作っている際に
「あと1℃高くしたい」
なんて時にプラス1分までミキシング延長する場合はよくあります。
ソフト系の生地はオーバーミキシングになりにくいからこそ出来る手法です。
あまり捏ねない前提で作られたハード系レシピの場合、1分の捏ねオーバーで仕上がりが大きく変わってしまう場合もあるため、この手法はあまり選択されません。
その場合、2つ目と3つ目を併用するパターンが多いです。
お家での少ない生地量のパン作りでのみ使える裏技もあります。
まとめ
パン作りの発酵見極めなど、勘どころをつかむ必要のある作業は、やはりそれなりの経験が必要です。
だからこそ、慣れないうちは捏ね上げ温度をレシピ通りしっかりと再現して、発酵の正解を体感しておくことが大事。
それを繰り返すうちに、発酵を自在に見極められるようになるはずです。
慣れてきたら仕込み水温なんて気にせず適当に作っても、超・臨機応変な調整でちゃんと形にすることが出来るようになってきます。
以上、仕込み水温の計算方法の解説でした!