お家でのパン作りで最もよく使われているドライイースト、実は正式名称が「インスタントドライイースト」で、本当の「ドライイースト」は全くの別物って知ってましたか?
日本のパンレシピではインスタントドライイーストのことを「ドライイースト」と略して表記してしまうことが多いため、知らない人も多いでしょう。
この記事ではドライイーストとインスタントドライイーストの違いについて解説します。
- それぞれの使い方や焼きあがるパンの特徴の違いがわかる
- 効果的な使い分け方がわかる
ドライイーストとインスタントドライイーストの違い
ドライイースト
- 予備発酵が必要
- 大きさ不揃いの丸粒状
- 原料は酵母のみ
- ハード系向き
インスタントドライイースト
- 予備発酵は不要
- とても細かい顆粒状
- 原料に乳化剤が含まれる
- オールマイティ
ドライイーストとインスタントドライイーストでは、その製造方法も異なり焼き上がりも全く異なる特徴があるため、とてもお互いを代用し合えるものではありません。
それぞれ詳しく見ていきましょう!
本当の「ドライイースト」とは?
ドライイーストとは、生イーストの元となる酵母ペーストを約30~40℃の温風で乾燥させて作られたもの。
この乾燥工程で酵母菌の何%かが死滅するため、死滅酵母の含有が大きな特徴です。
そして死滅酵母はパン作りに大きなメリットを与えます。
死滅酵母とは?製パンにおける効果について
乾燥により酵母菌の一部が死滅する際に、菌体から「グルタチオン」が生成されます。
グルタチオンにはパン生地の骨格であるグルテンの結合(ジスルフィド結合)を減少させる作用があり、生地の弾力が緩みます。
生地が弱くなるってこと?
それってデメリットじゃないの?
確かに、上に大きく膨らませたい食パンなどソフト系のパンにおいてはデメリットになります。
しかし、弾力が緩むという事は伸展性が向上するということでもあるため、とても伸びの良い生地になります。
程よく緩んだ生地は複雑で手の込んだ成型作業でも生地縮みが無く扱いやすく、バゲットのようにクープを入れて焼くパンでは窯伸びが良くなります。
グルタチオンとは?パンの味に大きく影響する最強物質!
グルタミン酸、システイン、グリシンという三つのアミノ酸から成るトリペプチドの一種です。
抗酸化物質であるため、美容分野において美白・アンチエイジング効果が期待されており、サプリメントも販売されています。
アミノ酸から成るってことは、旨味として感じられるの?
グルタチオン自体からは旨味は感じられません。
しかし、グルタチオンは「コク味物質」とも呼ばれ、他の味の厚みや持続性、広がりを引き出す作用があることがわかっています。
そのためグルタチオンが含まれるドライイーストをパン作りに使うと、小麦の味に厚みと広がりを持たせることでコクのあるパンになることが期待できます。
さらにグルタチオンはペプチド分解酵素によってそれぞれのアミノ酸に分解されます。
小麦や大麦にもペプチド分解酵素は含まれているため、長時間生地を寝かせて作ればグルタチオンの分解も進み、結果的に旨味物質であるアミノ酸が生成されることも期待できます。
つまり、本当の「ドライイースト」で作ったパンはコクと旨味に優れているということです。
死滅酵母の安全性は?
死滅してるって…それって安全なの?
言葉の雰囲気的にそう感じてしまう方もいるかもしれません。
ですがご安心ください。
皆さんがパンを口にする時、既に酵母菌は全て焼成の熱によって死滅しています。
つまり死滅酵母の含まれるドライイーストを使っていてもいなくても、皆さんは常に死滅酵母を食べているのです。
近年、腸活界隈では「生きた乳酸菌が生きたまま腸に届く」ということが重要視されていますが、死滅した乳酸菌には何の価値も無いかと言うとそんなことはありません。
死滅した菌は腸内の善玉菌のエサとなり、善玉菌を繁栄に貢献できるからです。
話が少し反れましたが、「死滅酵母が含まれているから危険だ」という根拠のないデマを見かけることもありますが、惑わされないように!
なぜ予備発酵が必要?
温風による乾燥工程によって酵母菌の活性が弱まります。
そのままだと発酵力が弱いため、予備発酵によって活性化する必要があるからです。
インスタントドライイーストとは?
インスタントドライイーストとは、生イーストの元となる酵母ペーストをフリーズドライさせ顆粒状にしたもの。
インスタントドライイーストには乳化剤が添加されていますが、これには乾燥工程で酵母菌が乾燥しすぎるのを防ぎ各顆粒を一定の品質にする役割があります。
予備発酵は本当に不要なの?
説明書には「予備発酵不要」って書かれてるけど…
予備発酵させるレシピもあったり、どっちが正しいの?
インスタントドライイーストは本当のドライイーストと違い、乾燥のさせ方が異なります。
それにより酵母菌の活性を維持した状態で製品化されているため、基本的には予備発酵は不要です。
「基本的には」ってところがミソ。
状況別に見ていきましょう!
基本的には予備発酵させない方が良い
酵母菌の発酵がスタートするのは材料を混ぜ合わせた直後からです。
しかし、生地が膨らみ始めるのは早くても20分後からです。
発酵がスタートするのに膨らまないってどういうこと?
それは、発酵による炭酸ガスの発生プロセスが関係しています。
「発酵」というのは酵母菌の生命活動そのものを指します。
発酵がスタートするというのは、生命活動を開始するということ。「仕事を始める」と言えばわかりやすいでしょうか?
酵母菌の仕事は炭酸ガスを製造して生地を膨らませることです。
それにはショ糖を分解してブドウ糖と果糖にし、それらをさらに炭酸ガス(CO₂)とアルコール(又は水)に分解するといった2段階のプロセスが必要となります。
どんなに生産性の高い人でも一瞬で成果を生み出せる人はいないはず。
酵母菌も同じで、ショ糖分解における一連の仕事には時間がかかります。その時間が20~30分ということです。
炭酸ガスが発生し始めてもまだ生地が完成していなかった場合、発生した炭酸ガス自体が衝撃吸収のクッション効果を果たしてしまうため、生地に十分な物理的圧力が加わらない状態となります。
そのため続けて捏ね続けてもミキシング効果が低下しているため生地の完成はさらに遅れ、ボソボソとした伸展性に欠ける生地になりやすいです。
長くなりましたが、これこそが基本的には予備発酵をさせない方が良い大きな理由です。
予備発酵をさせてしまうと、酵母菌が事前に活動を開始してしまうため20分よりも短い時間でミキシングを終えないといけないか、あるいは既に生地のミキシング効率は悪くなっている可能性があります。
膨らみ始めるのに時間がかかるというのは、それだけ捏ね時間に余裕があるということ。
それをわざわざ捨ててしまうのはあまり良い手段ではありません。
予備発酵させた方が良い時
インスタントドライイーストは密封された製品ですので未開封なら長期間の保存でも劣化しませんが、開封後の保存状況によっては酵母菌の活性に悪影響が及ぶ可能性もあります。
- 開封後、かなりの月日が経っている
- 使う際に室温に長時間出しっぱなしにしている
このような理由で酵母菌の活性が著しく落ちている場合には、予備発酵をさせても良いでしょう。
ですが普通に使っていれば失敗に繋がるほどの発酵力低下は見られないので、発酵時間を少し延長するなどの微調整で事足りることがほとんどです。
冬は寒いから予備発酵させた方が良いって聞いたけど…?
室温を調整したりオーブンの発酵機能を上手く活用するなどして生地温度を27℃前後に保つことが出来ていれば、たとえ季節が冬であっても酵母菌は27℃分の働きをしてくれます。
なので予備発酵でごまかすよりも生地温度の管理をしっかり行う方向で考えた方が良いでしょう。
コク・旨味は少ない
ドライイーストと違って死滅酵母はあまり含まれていない為、コクや旨味の増加はあまり期待できません。
その代わり、シンプルなパンからリッチな配合のパンまで幅広く使えるのはメリットです。
「ビタミンC」の効果
インスタントドライイーストの多くは乳化剤に加えて「ビタミンC」が添加されています。
ビタミンCは「酸化剤」と呼ばれており、生地に酸素を取り込みグルテン酸化を促す効果があります。
それによって生地の弾力が強化され、ガス保持力が向上しより膨らみ可能な上限がアップします。
(「グルテン酸化」についての詳しい解説はコチラの記事をご覧ください)
コシの強い生地は成型後の余分な弾力を緩ませるために最終発酵により多くの時間を要するデメリットがある一方で、コシの弱い生地よりも最終的なマックスのボリュームが大きく、上に高く膨らむパンが出来るメリットがあります。
そのため本当の「ドライイースト」に比べて、ビタミンC入りのインスタントドライイーストの方が食パンなどのソフト系のパンを作るのに向いていると言えます。
そのためお店ではドライイーストを使いながらも
わざわざビタミンCなど酸化剤を添加する場合もあります。
オススメのインスタントドライイースト
お徳用!500gパック
使いやすい!125gパック
オススメの使い分け方
ドライイースト
インスタントドライイースト
材料がシンプルで小麦の味と香りが美味しさの鍵となるフランスパンにはドライイースト。
それ以外はインスタントドライイーストでOKですが、特に上方向への膨らみが重要である食パンタイプではビタミンC入りのインスタントを使用すると良いでしょう。
クリームパンやピザのように薄く伸ばす成型や、チョココロネやウインナーロールのように細長く伸ばす成型で、ビタミンC入りだと生地の縮みが強くてやりづらく感じることも多いでしょう。
その場合はビタミンC無添加の青サフ・緑サフや、セミドライイーストでの代用もおすすめです。
ビタミンC無添加にすることで生地の余分な弾力は無くなり成型がやりやすくなるだけでなく、パンの歯切れも良くなり食べやすさが改善されます。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 本当の「ドライイースト」は予備発酵が必要
- ドライイーストに含まれる死滅酵母がパンのコクと旨味を向上させる
- インスタントドライイーストは基本的には予備発酵が不要、むしろ理論上はしない方が良い
- フランスパンにはドライイースト、それ以外はインスタントと使い分けると良い
ご紹介した使い分け方はあくまで一般的な例であり、正解はありません。
頭の中で完成品がしっかりイメージ出来ているのであれば、食パンタイプにドライイーストを使うことだって決して間違いではありません。
ここで得た知識を、ご自分のオリジナリティあふれるパン作りにぜひご活用ください。