スーパーで手に入れることができる「日清 スーパーカメリヤ」などのドライイーストは、正確には「インスタントドライイースト」という部類のイーストです。
これらは予備発酵無しでそのまま粉に混ぜて使えるのが大きな特徴です。
でも、予備発酵させるべきって言う人もいるけど…結局どっちなの?
この記事では、インスタントドライイーストが本当に予備発酵が必要なのかどうか解説します。
- 予備発酵の有無による発酵力の違い
- 予備発酵をさせるべきか否か、その理由
【検証結果】確かに発酵力は上がる。けど…
実際に予備発酵をしたものとしないもので発酵力の差を見てみると、確かに前者の方が炭酸ガス発生量が多く、発酵力は勝っていると言えます。
ですが、そもそもインスタントドライイーストは予備発酵せずに使うモノであるため、ほとんどのレシピも予備発酵無しで使う前提で作られています。
なので、実際にはあえて予備発酵する必要は無いですし、しない方が良い場合も考えられます。
それはどういう場合かというと…
発酵オーバーの恐れアリ??
例えば夏場のパン作り。お部屋の温度を厳密に管理できる環境ならまだしも、おそらくキッチンにエアコンがないお宅も多いでしょう。
パン作りをする部屋の温度が27℃を超えてしまうこともあるはず。
夏はいつも冷水使ってるから大丈夫!
それじゃ甘いですよ!
捏ね上げ温度が正確でも、その後の工程で生地は部屋の空気に温められて生地温度が上昇する可能性も考えられます。
すると、発酵時間を守っていても発酵具合がオーバーすることにもなり得ます。
その点を考えると、基本的にはわざわざ予備発酵させる必要も無いと言えます。
ミキシングにも支障が出る!?
理論上、ミキシングは20分以内で完了させるのが良いと言われています。
その理由は、材料を混ぜ合わせてからおおよそ20分後には炭酸ガスが発生するからです。
生地内に発生したガスはクッション効果をもち、ミキシング行為による物理的な圧力を分散してしまい、ミキシング効率が幾分悪くなってしまいます。
また、そのような状態でミキシングした生地は、伸展性や丈夫さにおいて劣る傾向にもあります。
ところが、予備発酵をさせてしまうと既にイーストの活動は現在進行形の状態で材料を混ぜ始めることになり、捏ねはじめから既にガス発生がスタートしていることになります。
それだとクッション効果でミキシング効率が悪くなります。
この観点から見ると、むしろ予備発酵しない方が良いと言えます。
(ただしこれは微々たる差です)
そもそも、同じく予備発酵不要な「生イースト」をあえて予備発酵させて使用するパン屋さんはまず見たこと無いですし、インスタントドライイーストだってお店では普通に直接入れています。
そういったことからも、わざわざ予備発酵させる必要はないと言えます(基本的には)。
じゃあ中種法ってミキシング効率悪いの?既に発酵させた状態でミキシングするけど…
確かにその理論だけを用いて考えると、かなりミキシング効率は悪そうに見えます。
しかし、中種法では中種を長時間寝かせることでグルテンの酸化を促す効果が得られます。
これがミキシングにおいて非常に大きなプラスとして働き、クッション効果によるマイナス作用を大幅に上回るわけです。
結果的に中種法はミキシングにおいてプラスの働きとなり、本捏ねの時間が短縮されるわけです。
パン作りって、プラスとマイナスのせめぎ合いが色々なところで見られます。
予備発酵が有効なパターンは?
ここまで「インスタントドライイーストは予備発酵するな!」みたいな言い方に見えてしまったかもしれませんが、見方を変えると予備発酵が効果的なケースもあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう!
イーストが古い
パン作りの頻度が少ない場合、開封後にかなり時間が経ってから再使用することもあるでしょう。
すると、発酵力も微妙に弱まってしまう傾向があります。
そんな時は予備発酵で弱った発酵力を補ってあげるのも一つの手です。
他にもイーストが古い場合のアプローチとして以下の3つが挙げられます。
- イースト量を少し増やす
- 捏ね上げ温度や発酵温度を少し上げる
- 発酵時間を延長する
それぞれにメリット・デメリットがあるので、その都度ベストなやり方を試してみてください。
お部屋が寒い
キッチンにエアコンが無くて、冬は極寒となるお宅も多いでしょう。
すると、捏ね上げ温度の低下はもちろん、分割中や成型中に生地が冷え、全工程を通して発酵が遅くなりがちです。
発酵室(オーブン発酵機能)を高めの温度にする手もありますが、一度冷えた生地が温まるまで少なからず時間はかかります。その間はどうしても発酵が遅くなっています。
そういう観点で見れば、補うために予備発酵させるのもアリでしょう。
ですが、僕はわざわざ予備発酵しません。あまり必要性を感じないからです。
大事なのは「予備発酵はやったほうがいい!ってネットで見たからとりあえず予備発酵させてる」と鵜呑みにするのではなく、自分で試して本当に必要だと思ったら取り入れること。
逆にあまり必要性を感じなかったらやめちゃっていいんです。
個々人の捉え方による部分なので押しつけはしませんが、デメリットをよく把握したうえで、ご自分のスタイルを見直してみてください。
「イースト臭が軽減できる」は本当か?
予備発酵をすればイースト臭が軽減できるって聞いたけど?
これに関しては、予備発酵をさせてもさせなくてもイースト臭に大きな差は無いです。
そもそも予備発酵自体がイースト臭の軽減に貢献できる明確な根拠が見当たりません。
ですが、「イースト臭が軽減された!」と言っている人が嘘をついていると言いたいわけでもありません。
恐らく原因は別の部分にあり、それが予備発酵をさせたことで副次的に改善された結果、作った本人の感覚だと予備発酵のおかげで改善されたように思えたのでしょう。
以下に考えられる原因を解説します。
イーストの溶け残り対策になった
最も有力な候補がこれです。
インスタントドライイーストは「粉に直接混ぜて使える」と書かれているものの、レシピによってはそれだと溶け残ってしまうパターンもあります。
イースト粒が溶け残りはキツいイースト臭の原因になります。
くるみやレーズンなど、大きい具材は生地より味が目立つよね。
イーストも粒のままだと味が目立ってしまいそうだよね。
ですが予備発酵を行えば、事前に水に溶かすことになりますから溶け残りの心配はありません。
普段からイーストの溶け残りがあった人が予備発酵をするようになった結果、溶け残りが改善されてイースト臭軽減に繋がった…このようなカラクリは十分あり得るでしょう。
こちらの記事で、イーストを事前に溶かすべきパターンを紹介しています!
発酵不足が改善された
それまで常に発酵不足で作り続けていた人が、予備発酵を導入してから適正な発酵具合で焼くようになったパターンも考えられます。
発酵不足だと膨らみの悪いパンになるだけでなく、発酵風味も劣ってしまいます。
発酵風味を成す香り成分には様々な物質がありますが、特に目立つものとして「アルコール」が挙げられます。
アルコール臭自体は焼き立てから時間が経つにつれて揮発して薄まりますが、他の不快なにおい成分も一緒に揮発させてくれる作用「共沸効果」があります。
予備発酵を行うことで発酵不足が改善され、結果的にイースト臭が軽減された…そんなカラクリも考えられます。
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 予備発酵をすれば発酵力は確かに上がる。
- ミキシング効率や発酵オーバーの観点から、基本は予備発酵無しで良い。
- 特定の場面において予備発酵が効果的である場合もある。