パン作りで卵を使う理由は?その効果と役割をプロが解説

卵の役割

卵が使われてるレシピもよく見るけど、全部水じゃダメなの?

卵はパンを作る上で必ずしも必要なわけではありません。

しかし、天然の製パン改良剤と言えるほど様々な効果をもたらします。

この記事では、パン作りにおける卵の役割について解説します。

この記事で学べる事
  • 卵白と卵黄で異なる役割と効果
  • 卵の有無によるパンの違い
  • 水と卵をそれぞれ置き換える際のレシピ調整方法

卵は2つの異なる役割を持つ素材である

卵黄
卵白

卵の効果を語る上では、卵黄と卵白それぞれ別々の材料であると考えることが重要です。

これらはその成分も与える影響もまるで別物だからです。

ここでは卵黄と卵白、それぞれがパンに与える影響について解説します。

卵黄の役割

乳化作用

卵黄には「レシチン」という脂質が豊富に含まれています。

レシチンには乳化作用があり、生地中の水分と油脂分を乳化することで

  • 生地の伸展性向上
  • ボリュームアップ
  • 老化耐性の向上

といった効果をもたらします。

工場での製パンではわざわざ乳化作用を得るために「乳化剤」という添加物を使用することもあるくらいです。

そのため卵黄は「天然の製パン改良剤」と言っても過言ではありません。

乳化とは?

本来混ざり合わない油分と水分が均一に混ざりあう状態のこと。

風味の付与

卵黄特有の甘くて香ばしい香りを付与することで、パンの個性を大きく変えることが出来ます。

食欲をそそるゴールデンカラー

豊富に含まれるカロテノイド色素により、パンの色は鮮やかなゴールデンカラーになります。

黄色や赤などの暖色は、人間の交感神経を刺激することで食欲を促進したり食べ物をより美味しく感じさせる効果があります。

卵黄のデメリット

火通りが良すぎる
卵黄

卵黄には「火通りが良い」という特徴があります。

卵黄に含まれるたんぱく質は65℃から凝固が始まり、75℃以上で完全に凝固します。

一方でパン生地の熱凝固はそれより遅く、85℃から始まり95℃でようやくクラム1が完成します。

ということは、卵黄を入れた生地はそれだけ早く火が通り固くなるということ。

それを知らずに水仕込みの生地と同じ焼成温度・時間で焼くとパサパサした食感に仕上がります。

老化防止作用があるのに
パサつくの?

ナオキパン
ナオキパン

老化防止作用すら超越するほど
火通りが良いということです

なので、卵黄を使用する場合は焼成温度と時間の調整が必要不可欠です。

バランスも重要
ブリオッシュ・ア・テット

卵黄は油脂との相乗効果でパンのしっとり感を向上しますが、ブリオッシュのように多量の油脂を使用する生地において全卵を全て卵黄に置き換えてしまうと、しっとり感が強すぎて”くどい”印象になる場合があります。

卵黄・全卵・油脂の使用量のバランスをうまく調整して、程よいしっとり感に仕上げることが重要です。

ミキシング時間が長く必要になる

卵黄の主成分は脂質です。

つまり、卵黄を生地に配合するということは油脂を最初から粉と混ぜるのと同じようなものです。

油脂をミキシングの最初から入れるとグルテン結合が阻害されミキシング時間が長く必要になるので、卵黄はそれと同じ結果をもたらします。

手ごねではベタつきも強く感じ、滑らかな生地を仕上げるには難易度が高いです。

卵白の役割

生地を支える
卵白

卵白のたんぱく質は60℃から凝固が始まり、80℃以上で完全に凝固します。

卵黄より早く凝固が始まり、卵黄より遅く凝固が完了するということです。

とはいえ、コチラの項目で触れたようにパン生地の熱凝固完了は95℃ですから、それより火通りが良いことには変わりありません。

そのため、焼成初期で素早く凝固し始めた卵白は「第二の柱」としてグルテンと共に膨らみを支えます。

結果、骨格のしっかりしたパンに焼き上がるため腰折れ2防止に役立ちます。

軽い食べ口を得る

ブリオッシュのように油脂を多量に使う生地では、卵黄だけだとしっとり感が強すぎて”くどい”印象になります。

卵白も程よく入れることで食感のバランスをとることが出来ます。

また、日本のパンはしっとり感が重要視されがちですが、世界のパンを見ると必ずしもそうではありません。

中にはしっとり感よりもサックリ感を出してクラッカーのような食べ口を再現したいパンもあります。

卵白を配合することで生地の火通りが早くなり、水だけで仕込むよりもカラっとした食感を向上させることが可能です。

卵白のデメリット

卵白はパン生地よりも火が通りやすいため、水のみで仕込む場合と同じ焼成温度・時間で焼くとしっとり感が低下します。

パンの保形性向上(腰折れ防止)だけが目的で、カラっとした食感にすることを避けたいのであれば、焼成温度・時間を調整する必要があります。

また、グルテン結合を阻害するためミキシング時間が長く必要になります。

手ごねでは捏ねはじめのベタつきも目立つため、難易度が少し上がると考えて良いでしょう。

卵の有無でパンはここまで変わる!

パンのレシピで卵は「全卵」として使われることがほとんどです。

全卵がパンに与える影響をわかりやすくお見せするために、全卵有りと無しでパンを作り比べました。

全卵の有無でパンはプラスにもマイナスにも影響する!

卵黄・卵白・全卵それぞれの比較

ナオキパン
ナオキパン

卵黄・全卵・卵白それぞれ20%の生地と、水だけの生地で作り比べてみました!

卵黄・卵白・全卵・水のみの比較
卵黄・卵白・全卵・水のみの比較

卵黄・卵白にはそれぞれ異なる割合で水分が含まれています。そのため含まれている水分を仕込み水から差し引き、全て生地の水分量が同じになるよう実験しています。

焼き色はどれも濃くなる

卵には卵黄・卵白ともに豊富なアミノ酸が含まれています。

パンの焼き色の元となる化学反応「メイラード反応」は、アミノ酸と糖分の結合反応です。

つまり、卵を入れることで生地のアミノ酸が増え、メイラード反応も促進されるということです。

その上で、卵黄は卵白よりもアミノ酸含有量が多く、元々の黄色味も相まって更に濃い焼き色となります。

効果の程が大きいのは卵黄

今回は卵黄・全卵・卵白すべて20%に揃えての実験でした。

しかし、これらの水分率は大きく異なります。

卵の水分含有率

卵黄:48.2%

全卵:76.1%

卵白:88.4%

ということは、逆な見方をすると水分ではない成分「有効成分」は以下の通りです。

卵に含まれる有効成分(固形分)

卵黄:51.8%

全卵:23.9%

卵白:11.6%

つまり、卵黄を20%使用すると「有効成分10%+水分10%」を配合していることになり、一方で卵白を20%使用してもそのほとんどが水分のため「有効成分2.3%+水分17.7%」を配合していることになるんです。

このようなカラクリがあるため、同じ使用量で実験すると必然的に卵黄が最も違いを体感できる結果となります。

ナオキパン
ナオキパン

今回の「使用量を揃えた実験」とは逆に、「有効成分の量を揃えた実験」も面白そうだなぁ

焼成を同じにするとデメリットが目立つ

製パン分野では一般的に、卵黄にはパサつき防止メリットがあると言われ、卵白にはパサつかせるデメリットがあると言われています。

しかし、今回の実験のように焼成温度・時間を統一して作ると、有効成分の多い卵黄が最もしっとり感が少なかったです。

コチラの項目で解説した通り卵はパン生地よりも熱凝固が早いため、焼成を調整しないとデメリットがメリットを上回る結果になってしまいます。

卵を使ったレシピでよくある質問と注意点

Q.パンがパサついてしまうのですが

まず、卵を使うとパサついてしまう原因を整理しましょう。

  • 卵黄・卵白のたんぱく質がパン生地より火が通りやすく、固くなる
  • 窯伸びが向上して火通りが良くなりすぎる

つまり、卵を使わない生地より卵を使う生地の方が早く焼けてしまうということ。

なので焼成時間をやや短くしましょう。

また、卵黄も卵白もパンの焼き色を向上させます。

同じ焼成温度だと色が濃くなりすぎてしまう場合もあるので、焼成温度を下げる必要があるかもしれません。

ナオキパン
ナオキパン

調整幅はパンによって違うので
実際に一度焼いてみて判断しましょう!

Q.生地がベタベタで捏ねられないのですが

卵を入れる生地は水のみで仕込む生地と比べて、捏ねはじめのベタつきが目立ちます。

なので確かに手ごねの難易度は上がります。

とはいえ、正しい捏ね方をマスター出来ていればベタつく生地も捏ねられるはずです。

「ベタベタ生地は捏ねられない」と感じる人は、まず自分の捏ね方を見直すことをおすすめします。

ベタベタ生地でも良生地に仕上げることが出来る正しい手ごねのやり方をコチラの記事で解説しているので、心当たりのある方はご確認ください。

ナオキパン
ナオキパン

マスターするとホントにパン屋レベルのパンが作れますよ!

型に入れる生地量に注意!

角食パン

全卵や卵黄を使った生地は、窯伸びが良くなります。

型に入れて焼く場合には、水仕込みの生地より大きく膨らむことを見越して生地量を減らす必要があります。

特に角食タイプだと膨らみすぎて角がカクカクになるだけでなく、生地がクラスト3に向かって凝集するため噛み切りにくい耳のパンになってしまいます。

卵を上手に使うコツ

卵を使う最も大きなメリットは、卵黄に含まれるレシチンの乳化作用が得られることです。

これは油脂があってこそ十分に発揮されるメリットなので、卵を多く使う場合は油脂の使用量も比例して多くするのがオススメです。

実際に様々なパンレシピを意識して見ると、卵より油脂が多いことはあっても、油脂より卵の方が多いレシピはほとんどありません。だいたい同量での使用が一般的です。

水から卵への置き換え方法

水のみで仕込むレシピを卵使用レシピにアレンジする方法をご紹介します。

材料BP(%)
強力粉100
イースト1.2
砂糖8
食塩1.8
脱脂粉乳3
バター8
65

全卵15%使用
変更したい!
どうする?

全卵15%をただ追加するだけじゃダメなの?

ナオキパン
ナオキパン

卵の水分が加わるので
水の量を調整する必要があります

卵は水分と固形分から成り立つので、全卵15%の中に含まれる水の量を計算して、元の仕込み水量から差し引く必要があります。

全卵の水分含有量は76.1%なので…
15%×0.76111.4%

これで「全卵15%を加えること=水分11.4%と有効成分3.6%を加えること」ということがわかりました。
なので仕込み水から差し引きます。

水65%-卵水分11.4%=53.6%

これで生地の水分量自体は計算上同じになりましたが、卵を使うとグルテン形成が阻害されベタつきも増すため、体感的には更に少量減らした方が捏ねの難易度が下がります。

生地がある程度出来上がってから水を増やせそうなら後入れする、そのように作ると良いでしょう。

卵不使用のレシピを
全卵15%使用に変える計算結果


材料BP(%)
強力粉100
イースト1.2
砂糖8
食塩1.8
脱脂粉乳3
バター8
65

材料BP(%)
強力粉100
イースト1.2
砂糖8
食塩1.8
脱脂粉乳3
バター8
51~53
15

なぜベタつきが増すのか?

計算して水分量を揃えたのに
なんでベタつきが増すの?

一つにグルテン形成の阻害が挙げられます。

小麦粉と水以外のものは基本的にパン生地にとって異物です。

砂糖や脱脂粉乳はもちろん、塩ですらグルテン形成を阻害し、必要なミキシング時間を長くします。

特に卵に関してはアルブミン(たんぱく質)など、グルテンとは関係のない様々な固形分が含まれており、それらは全て邪魔物になります。

もう一つはとても単純な話で、卵って触るとベタベタしますよね?

砂糖も水に溶けた状態だと触るとベタベタしますが、砂糖の多い生地もベタつきが強いです。

ベタベタするものを生地に入れたら生地がベタベタになるのは当然のことですね。

まとめ

ここで学んだポイントをおさらいしましょう!

  • 卵は卵黄と卵白でそれぞれ異なる材料として考える
  • 卵黄に含まれるレシチンの乳化作用によりパンの保湿性やボリューム向上が得られる
  • 火通りが良くなるため焼成を調整しないと逆にパサつく
  • 卵を多くするなら油脂も多くすると良い

卵を使うかどうかの選択や、卵黄と卵白の比率を考えられるようになると、作れるパン生地の幅が大きく広がります。

効果を十分に理解し、目的に応じて上手に活用しましょう!


  1. パンの中身。対義語は「クラスト」(いわゆるパンの耳)。 ↩︎
  2. 焼成後にパンの側面や天面が折れてしまう現象。焼成不足や配合など様々な原因で発生する。 ↩︎
  3. パンの外皮、いわゆる「パンの耳」。対義語は「クラム」。 ↩︎
この記事を書いた人
パン作り研究家
ナオキパン

当サイト及びYoutubeチャンネル「パン作りの教科書 / ナオキパンchannel」を運営。
パン作りのコツや製パン理論を科学的な観点からわかりやすく解説し、パン作り上達の楽しさを広めることに加え、正確な製パン情報の普及に努める。
ベーカリーや食パン専門店など数々のパン店立ち上げや現場責任者の経験有。
自律神経失調症によりパン業界を一時離脱した際に、自身の知識と経験が誰かの役に立つことを願い、2022年5月から本格的に情報発信活動を開始(現在は寛解しゆる~く復帰)。
パンシェルジュ一級。

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