皆さんがお家でのパン作りによく使っている「ドライイースト」、それ実はドライイーストではなく「本当のドライイースト」は全くの別物であることをご存じですか?
そして商品の説明書には記載されていない正しい使い方があって、それを知らないと失敗に繋がる恐れもあるんです。
この記事では、「ドライイースト」の正体と、正しい使い方や代用について解説します。
ドライイーストとインスタントドライイーストの違い
実はお家でパン作りをされている皆さんが普段使っているドライイーストと呼ばれるものは、正確にはドライイーストではなく「インスタントドライイースト」なのです。
ドライイーストとインスタントドライイーストの大きな違いは予備発酵の有無です。
ドライイーストは予備発酵が必要ですが、インスタントは基本的に予備発酵不要、それ故に粉に直接混ぜて使ったり、あるいは最初から入れずミキシング後半で加えたり、様々な使い方が可能です。
このように、本来はドライイーストとインスタントドライイーストは全くの別物のはずですが、多くのメーカーがインスタントタイプの商品を「ドライイースト」という商品名で販売してしまっているため、日本の一般消費者の間では「ドライイースト」と言ったらインスタントタイプのことを指して言うようになっています。
この記事ではインスタントタイプについて言及していきますが、以上の理由からここから先は「ドライイースト」と呼称していきます。
予備発酵の有無だけでなく、風味も味も全然変わります。より詳しい違いについてはこちらの記事をチェック!
ドライイーストの正しい使い方
ドライイーストの小さじ1は何グラム?
一般的には小さじ1で3gと言われていますが、3g~3.5gの誤差はあると考えておいた方が良いです。
というのも、ドライイーストは顆粒状ですので小さじにどれだけ詰め込まれたかで量が変わってきます。
顆粒の大きさもイーストの種類によって様々です。
使う小さじの形状によっても誤差の出やすさが変わってくるので、計量スプーンを用いた体積計量はイーストの計量には適さないと思った方が良いでしょう。
計量のコツ
ご家庭で作るパン作りの場合、一度に作る生地の量が業務レベルに比べてかなり少ないです。
そのため、0.5gの誤差で20分以上発酵時間がズレることもあります。
発酵具合の見極めに自信が無いなら尚更、0.1g単位のデジタルスケールを使って正確に計量することをオススメします。
本当にそんなに発酵に差が出るの?
ここで試しに粉量250gで作る場合を考えてみましょう。
レシピの指示ではイースト3gだとします。この場合は3.0gが正確な計量です。
これが3.5gで計量してしまうとどうなるか…
本来なら一次発酵は27℃で60分ですが、0.5g多くなることで30~40分が適正となります。
(ベーカーズパーセントでそれぞれ1.2%と1.4%、この差は大きいです)
パン屋さんでは一度に作る量が多いため0.5g程度の誤差なら全く問題ないのですが、お家で作る量だと少しの誤差が配合割合を大きく変えてしまいます。
粉に混ぜるか、水に溶かすか
みなさんがご家庭で使っているドライイーストは、基本的には粉に直接混ぜて使うことが可能ですが場合によっては事前に水に溶かす必要もあります。
どんな場合に溶かさなければならないのか?それについてはこちらの記事をご覧ください。
ドライイーストの保存方法
ドライイーストは開封前なら常温保存が可能、開封後は冷蔵保存を推奨されています。
しかしネット上には「絶対に冷凍保存」という声も多々見られます。
なので実際に検証してみました。
この検証結果を元に、ご自分の利用状況に合わせてやりやすい方を選択して下さい。
イーストを入れすぎるとどうなる?
ご家庭でのパン作りだと粉量が250g以内であることも多いでしょう。
その場合、イースト量に0.5gの誤差があるだけで20分以上の発酵時間のズレが生じてしまいます。
入れすぎた状態でレシピ通りに進めていくと発酵オーバーとなりますし、発酵時間を短く調整しても生地時間1が短くなることでパサつきやすく、イーストが多い分だけイースト臭も濃くなってしまいます。
少なすぎるとどうなる?
レシピ通りよりイーストが少ないと、その分だけ発酵速度が遅くなるので発酵時間を延長しなければなりません。
延長しないと発酵不足で膨らみや火通りの悪さなど様々な影響があります。
発酵時間をうまく延長して作っても、窯伸びはイーストが少ない分だけ少なくなってしまいます。
特に角食パンを作る際には、焼成前にどの程度の高さまで発酵させるべきか変わってきます。
イースト入れ忘れた場合の対処法
イーストだけ入れ忘れて生地を作ってしまった経験は、実は多くの人が経験する道です。
イーストを後から生地に混ぜて作っても大丈夫か?
出来る場合と出来ない場合があります。前者でも状況別に注意点があります。
詳しくはこちらの記事で解説しているのでぜひご覧ください。
ドライイーストとベーキングパウダーの違い
ドライイーストは酵母菌そのものです。
酵母菌が糖分を炭酸ガスとアルコール(又は水)に分解する「生命活動」を利用して生地を膨らませるもの。
一方でベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウムと酸性剤が水や熱で化学反応を起こして炭酸ガスを発生します。
微生物の生命活動を利用した膨らみなのか、化学物質の反応を利用した膨らみなのかという違いがあります。
更に膨らみ方にも違いがあります。
ベーキングパウダーは水に反応してもごく少量の炭酸ガスが出ますが、膨らみに大きく貢献するのは加熱時の反応による炭酸ガスです。
高温の熱によって爆発的に炭酸ガスが発生することで、生地を作ってからスグに焼成(又は蒸し)をしても膨らみが得られるわけです。
一方でイーストは60℃以上の高温では死滅するため、ベーキングパウダーのように無発酵の生地をそのまま焼成しても爆発的な膨張は得られません。
そのため事前に発酵工程で生地内に炭酸ガスを充満させる必要があります。
この説明だけだとベーキングパウダーの方がよく膨らみそうに思えますが、そうではありません。
ベーキングパウダーのガス発生は一発限りで、永遠に膨らむことはありません。なので生地を作って長時間寝かせてふわっとさせることには向いていません。
ですがイーストは生き物なので有用な環境である限りは長期間ガスを出し続けることが可能です。(実際には生地内の糖分を食べつくしたらそこで止まってしまいますが、糖分さえ供給し続ければ自家製酵母同様に発酵し続けます)
なのでふわふわなパンを作るためには、事前に生地をエアリーにできるイーストでのパン作りの方が向いているというわけです。
逆にサクっと歯切れ良い焼き菓子を作る場合にはベーキングパウダーの方が向いています。
ベーキングパウダーで代用はできる?
上記で述べた通り、イーストとベーキングパウダーの膨らみ方には大きな違いがあります。
実際にパンのレシピでイーストから置き換えて作ると、全くの別物になってしまいます。
故に、イーストをベーキングパウダーで代用することは出来ないと言っていいでしょう。
なのでベーキングパウダーでパン作りをしたいのであれば、元々ベーキングパウダーで作ることが前提の「アイリッシュソーダブレッド」などにトライしてみてはいかがでしょうか?
アイルランド発祥の無発酵パンで、ふわふわパンではありませんがパンとスコーンの間のような印象でまた別の美味しさが味わえます♪
パン以外でのイースト活用法
イーストを焼き菓子で活用することで、発酵風味のある香ばしい焼き菓子を作ることが出来ます。
元々イーストで発酵させるレシピが多い「リエージュワッフル」(よく見るタイプのベルギーワッフル)がオススメです。
とっても手軽に作れるので、たまには趣向を変えてワッフルを焼いてみるのはいかがですか?
<脚注>
- 粉と水を混ぜ合わせてから焼成で「パン」になるまでの、生地として存在している時間のこと。生地時間が長いほど水和が進み老化の遅いパンとなる。 ↩︎