
粉の種類を変えるとパンの風味は変わるけど、塩の種類はどうなんだろう?

ウチでは食塩じゃなくて雪塩を常備してるんだけど、普通に作れる?
パン作りのレシピで指定されている塩のほとんどは「食塩」です。
では、食塩ではない塩で作るとパンの味や生地感は何か変わるのでしょうか?
この記事では、様々な個性を持つ4種類の塩を使ったパンの作り比べ検証をもとに、塩の種類によるパンの違いについて解説します。
内容を動画でザックリご覧になれます
塩の種類を変えて比較実験!
今回使った4種類の塩
今回は「塩の種類が違うとパンに変化が現れるのか?」というテーマでの検証です。
したがって、食塩の他に用意した3種類の塩はどれも強烈な個性を持つものばかりです。

もし、これでも違いが現れなければ、「塩の種類に拘る必要はない」という結論になるよね…
まずは今回使う4種類の塩について解説します。
食塩

食用のために精製された塩のことを「食塩」と言います。
塩事業センター・日本塩工業会などで定められた規格では、塩化ナトリウム含有量が99%以上であるものだけが「食塩」と表示できることになっています。
塩化ナトリウムこそがいわゆる「塩分」であり、それ以外のニガリ1などのミネラル分は塩分としての働きを持ちませんが、精製塩である食塩はニガリをほとんど含みません。
雪塩

隆起したサンゴ礁の地層「琉球石灰岩」の地下より採れる「地下海水」から作られる塩。
真っ白でサラサラのパウダー状です。

ぱっと見、粉糖にしか見えない!
含有ミネラル分の種類が世界一多い塩としてギネス世界記録にも認定されており、その含有量も非常に多いのが特徴です。
これはサンゴ礁の地層からカルシウムなど様々なミネラル分が海水に溶出することと、製造過程でニガリを残すよう作られていることによって実現されています。
ミネラル分が多いため食塩相当量の割合が低く72.6%となっており、雪塩を10g使用することは食塩を7.26g使用した場合の塩分効果しか得られません。
藻塩

藻塩には2種類の製法があります。
- 海藻と海水を一緒に煮詰めて作る
- 焼いて灰にした海藻を海水に混ぜて煮詰める。
今回使用した「海人の藻塩」は前者の製法で作られたものです。
海藻の成分が含まれているため、茶色みがかった色合いで独特の風味が特徴的です。
こちらもニガリが程よく残るよう作られており、食塩相当量は93.7%となっています。
ピンク岩塩

元々海だった場所が隆起して陸地に閉じ込められた海水が、長い年月を経て水分が蒸発し塩が結晶化して出来たもの、それが岩塩です。
そのため上記3つの塩は海水から作られる「海水塩」であるのに対し、岩塩は鉱山で採掘されるもので、いわば食べる鉱石です。
岩塩にはピンクや黒など様々な色のものがありますが、それは岩塩が生成された地層のミネラル分に由来しています。
とりわけ今回使用したピンク岩塩のピンク色は主に鉄分の色です。

じゃあ、かなりミネラル分が多そうだね!

ところが全然多くないんですよ!
ニガリは海水に多く含まれるもので、岩塩にはほとんど含まれていません。
そのため今回使用したヒマラヤピンク岩塩の食塩相当量も99.0%と非常に高く、食塩とほぼ同等と言えるでしょう。
検証に用いた配合
基本の食パンのレシピから、脱脂粉乳を無くし使用する油脂もバター不使用でショートニングのみとしたシンプルな配合を使用しました。
これにより塩の違いによって何か変化が現れるとしたら、その差がよりわかりやすいはずです。
材料 | BP(%) |
強力粉 | 100 |
セミドライ | 1.4 |
上白糖 | 5 |
塩 | 右記参照 |
水 | 70 |
油脂 | 5 |
塩の種類 | BP(%) |
食塩 | 2 |
雪塩 | 2.75 |
藻塩 | 2.13 |
岩塩 | 2 |

なんで塩の種類によって量を変えてるの?

それは「食塩相当量」がそれぞれ異なるからです。
生地感の違い
今回使用した4種類の塩は全て、特に大きな生地感の変化も感じられず、ミキシング時間や発酵時間など工程が大幅に変更になることもありませんでした。
そのため、食塩相当量さえ計算で揃えれば食塩と同様にパンを作ることは可能だと言えそうです。
焼き上がりの違い

4種類全ての塩において、特筆すべき目立つ差は見られませんでした。
この写真だと岩塩パンの大きさが若干小さいように見えますが、最終発酵で他より膨らみが少しだけ小さい状態で焼き始めたことが原因です。
発酵室内の温度は常に一定ではなく、扉の開け閉めなど人為的な動作などにより常に変動します。
この実験を行った日は同時に何種類ものパンを並行して進めていたため、開け閉めも多く誤差が発生したのだと考えられます。
この程度の膨らみの誤差なら5分の発酵延長で十分差が埋まるレベルですので、大きな差は無かったと言っていいでしょう。
味は変わる?変わらない?

味に関して最も違いが大きかったのが雪塩です。
食塩は小麦粉本来の味と風味を邪魔せず”クリアな味”という印象でしたが、雪塩のパンからは明らかに苦味が感じられました。
これはニガリが豊富に含まれていることが原因です。

ニガリを漢字で書くと「苦汁」ですからね…
藻塩はそこまで味覚的な差は感じられませんでしたが、ほんの少し旨味があるのか食塩よりもやや温かみのある味のように感じました。
風味もやや異なるのですが香ばしさが向上するわけではなく、人によってはこれをエグみや臭みと感じる場合もあるかと思います。
少なくとも、食塩の方が小麦粉本来の味と香りをよりストレートに演出していると言えそうです。
最も食塩との差が感じられなかったのが岩塩です。
意外とミネラルが少なく成分的にほとんど食塩と変わらないため当然の結果と言えます。
ほんの少しだけ塩気が強いように感じた瞬間はありましたが、恐らく食べる順番やその時の唾液量などによって感じ方が変わるはずなので誤差のレベルと言えそうです。
もちろんパンがピンク色に染まることもありませんでした。
塩を変える際の注意点
今回の比較実験から、塩の種類は何を使ってもパン作り自体に支障はないことがわかりました。
しかし、塩の銘柄によってその成分も特徴も大きく異なるため、食塩以外の塩を使う場合には以下の点に注意が必要です。
- 食塩相当量
- ニガリの味
- 粒子の大きさ
それぞれ詳しく見ていきましょう!
食塩相当量を確認し、使用量を計算する
特に海水塩の中には食塩相当量が低いものが多々あります。
パン作りで重要となる塩の効果は塩化ナトリウムによる作用です。
仮に今回使用した雪塩を食塩と同量(BP2%)で配合していた場合、食塩1.4%と同等の効果しか得られず生地感も発酵力も全て大きな差が出ていたでしょう。
食塩ではない塩を使う際は、食塩相当量を確認して使用量を計算し直しましょう。
食塩相当量から使用量を計算する方法
- パッケージの成分表から食塩相当量を確認する。
(例)雪塩の場合…「本製品100gあたり食塩相当量72.6g」=72.6% - レシピの食塩量をその数値で割る。
(例)食塩2%のレシピ…2%÷0.726≒2.75%
ミネラル豊富な塩は苦味が気になるかも…?
ミネラル豊富な塩は比較的高価な商品が多く、体に良さそうで味も良さそうなイメージがあるかと思います。
確かに料理に使用する際はニガリの味が良いアクセントになって美味しい場合もあるでしょう。
しかし、パンの場合はその苦味はエグみとしてマイナスに感じられる可能性が高いです。
「可能性が高い」と濁した表現にも意味があり、人によって味覚受容体の感度が異なるため気にならない人もいること、そして付け合わせのおかずや塗ったものによってはその苦味と上手く調和して良い対比効果が生まれる可能性もゼロではないからです。

実際に雪塩パンの方が美味しいと言う人もいました。味覚科学はとても奥が深い世界ですね。
粒子が細かく溶けやすいものを使う
塩は粉よりも早く水を吸う能力があり、比較的水に溶けやすい材料であるとは言えますが、あまり粒子が大きいと溶け残りが生じる恐れがあります。
特に岩塩の中には「クリスタル岩塩」と呼ばれる大きな粒のものがあり、これをそのままパン生地に練り込むのはオススメしません。
ハード系など捏ね時間の短いパンの場合、十分に塩が溶け込めずに不均一な生地になってしまうかもしれません。
あえてそれを狙ってやる場合以外は、なるべく粒子の細かいサラサラな塩を使うようにしましょう。

塩パンのようにトッピングで使うなら粒が大きくてもOK!
まとめ
ここで学んだポイントをおさらいしましょう!
- 塩の種類が違ってもパンを作ること自体は問題ない。
- ニガリの多い塩だとパンが苦く感じられる可能性が高い。
- 食塩相当量を揃える計算をすることが重要。
値段の高い塩を使ったからと言ってパンがその分美味しくなるというわけではなく、やはりメリットとデメリットがあります。
この結果を受けて普通の食塩で十分だと思うのも良し、塩の種類を変えて色々な具材との組み合わせを模索してみるのも良し。
ぜひご自分の作りたいパンのイメージに合わせてチョイスしてみてください!
- 海水に含まれる塩化ナトリウム以外の各種ミネラル分。主成分はマグネシウムで、他にカルシウムやカリウムなどがあり、塩の銘柄によって含有されるミネラルの種類も量も異なる。 ↩︎